足摺海底館には交通の不便をおして見に行くだけの価値がある
漫画家のpanpanya氏の本に「足摺り水族館」というのがあるのだが、私はこれを読んで足摺海底館なるものの存在を知った。知って、どうしても行ってみたくなった。panpanya氏の漫画は現実と夢のあわいのような部分を丁寧に描き込んだ作風が魅力なのだが、登場する建物が実在するなら、そこは現実にぽっかり口を開けた夢の入り口であるような気がした。
調べてみると足摺海底館は高知県・足摺岬の付け根のあたりにあって、関西からアクセスするには丸一日くらいかかるということが分かった。でもそんなことは関係なかった。高速バスで四万十まで行き、一泊して翌朝駅前でレンタカーを借り、足摺岬を目指した。
2015年のことである。
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ついにやってきた!長い道のりだった。
ずっと見たいと思っていたものが目の前に現れた時、私はいつも体と心が震えるような興奮に襲われる。この感動は、なんど体験してもよいものだ。
足摺海底館の外観は、もちろん下調べした時に写真で見て知っていたのだが、現物を前にしたときの感慨はやはりひとしおだった。
赤と白を基調にしたカラーリング、その不思議な形、周りにはなにもなくて、波の音だけが繰り返し響いている。
岸にたたずむ海底館はまるで難破した宇宙船のようだ。
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階段の途中では海底館の歴史などが紹介されていた。
「下駄ばきのままで海中散歩」というコンセプトのもと、足摺海底館が完成したのは1972年(昭和47年)のことだ。
川崎重工業が兵庫県加古川工場で作ったものをタンカーで輸送、水中クレーンを使ってこの地に据えつけたという。総工費は当時のお金で3億2千万円。
なにがそうまでさせるのか......というくらいの気合と予算の入りようだが、ともあれそれからというもの、台風による損傷で休館したことはあったが今もこの地で人々を楽しませている。
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この日は台風がすぎた後だったため、海水の透明度はあまり高くなかった。条件が良いときはもっとクリアに見えるそうである。それでも、小さな魚が窓のくぼみに生えた海藻で体を休めたりしていて、見ていて楽しい。
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しかしお土産はなかった
存分に満喫してエントランスの建物まで戻ってきた。
すっかり足摺海底館の魅力のとりこになっていた私は、併設された土産物屋を物色することにした。これだけおもしろい建物なのだから、海底館をモチーフにしたタペストリーなりマグネットなり、なにかしらあるだろうと思った。私は普段は観光地のお土産物などはめったに買わないのだが、そのケチで貧乏な私が財布の紐をゆるめてもいいかなと思えるくらい海底館には感動していたのである。
ところがである。
探せど探せど見つからないではないか。売っているものといえば、ご当地キティちゃんとか魚の一夜干しだとか、言っては悪いがどこにでもありそうなものばかりだ。
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なにか海底館をモチーフにしたものがないか店員に聞いてみても、「ないんですよねー」という返事を残念そうな口調で返されただけだった。
閉店時間が迫っていた。
「この近くにはコンビニなんてないから、宿で酒を飲もうと思ってる人はここでつまみを買っとかないと後悔するよ」という斬新なセールストークが、落胆して土産物屋を後にする私の背に響いた。
※2015年時点の状況です。今はなにか販売されているかもしれません。