千里は不思議の街
かつて大阪で数年間暮らしてからというもの、千里から吹田にまたがる計画的に作られた街の雰囲気が好きである。
千里ニュータウンは、増え続ける大阪の人口を引き受けるべく千里丘陵を切り拓いて建設された日本最初の大規模ニュータウンだ。その建設にあたって、限られた土地にできるだけ多くの人口を収容しつつストレスなく生活が営めるように、マスタープランが周到に検討されたという。
だから、千里ニュータウンは私の知っている「普通の街」とは異質な感じがする。
「うーん、ここには〇〇人の人間を収容する団地を建てて、すると子供は××人くらいいるはずだからこの規模の小学校を建てて、地区に一つは日曜品の買い物ができるスーパーを作って……」
というような計算づくで作られた街なのだから無理もないことだろう。
ここでは全てに設計者の意図が存在するのだ。
桃山台3丁目に建っているのはすべて一戸建ての住宅、周囲の緑色の部分は緑地である。ニュータウンの中でも閑静なエリアとして意図して作られたものだろう。地区と外をつなぐ道が少ないところにもその思惑が表れている。
それはそうと私の気を引いたのは、四箇所に設けられた公園の名前だ。
こんな感じである。
これが
タヌキ遊園→ウサギ遊園→キツネ遊園→アナグマ遊園
だったら、わざわざ袋小路になった住宅地に入ってまで見に行こうとはしなかったかもしれない。
脈絡のなさに惹かれて散策してみたところ、各々の遊園には遊園の名前のもとになった動物以外にも、雑多な動物たちの像が設置されていることが分かった。
動物たちの分布を表にするとこのようになる。
一見すると、設置した動物の中から適当なものを選んで名前にしたのかな?という感じだが、現物を見てみるとそれほど単純な話ではないことが分かってきた。
公園の演出に設計者の意図のようなものを感じておもしろかったので報告したい。
色褪せているぞ、タヌキ遊園
まず、3丁目と幹線道路をつなぐ入り口に一番近いタヌキ遊園に行ってみた。
タヌキ遊園なる名前の由来、とくと見せていただこう!と意気込んで進入したいところだが、じつは遠くから遊園の入り口が見えた時点ですでに答えは見えていた。
タヌキ遊園の名は、入口に置かれたタヌキのオブジェのことだったのだ。
ところで、本物のタヌキをみたことのある方はご存知と思うが、タヌキの目の周りは黒色だ。ところがこのタヌキ像の目の周りは白く塗られている。タヌキケーキなんかによくみられるデフォルメの仕方だけれど、そのあたりの雑さが昭和だなと思う。
初めは茶色に塗られていたと思しきタヌキの色は、色褪せて灰色になっていた。誰も塗り直してくれないのだろうか。
寓話だぞ、ウサギ遊園
タヌキ像にさよならしてから、次はウサギ遊園に向かった。
全て見て回ると決めた以上途中で止めるつもりはなかったけれど、私は少し不安になり始めていた。タヌキ像はひょうきんで可愛かった。でも、褪色のせいでいかんせん哀愁がすごかった。このまま哀愁漂うくたびれた動物たち(とヒコーキ)の像を見て回る羽目になるのではないかと思ったのである。
せめて背景に緑が映える春になってからくればよかったと思った。
ボロボロのウサギが出てきたらどうしよう……。
なんとなんと、ウサギ遊園はウサギとカメの童話にならった造りになっていたのだ。これはすごい!
全体を図にするとこんな感じだ。
遊園という子供たちのための施設にそういうモチーフを選ぶということは、それなりに教育的な意図があったはず。そんな熱意が垣間見えて興奮したのだった。今、隣に設計者がいたら「にくい演出だねえ!」と言って肩を叩いてやりたいと思ったくらいだ。