展覧会で話を伺った
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展覧会が開かれていたのは東京都世田谷区の「HOME/WORK VILLAGE」。もともと中学校だったところを複合施設に改修して利用している。グラウンドでは子どもが遊んでいた。
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展覧会は「(1歳の好奇心)への好奇心展」という。おもちゃメーカーのピープル株式会社によるもの。
右側の大きな写真は、CDを床材の切れ端と組み合わせたものだ。こういう日用品を組み合わせたものを、こどもたちが実際に気に入って遊ぶことがある。じゃあどういうものが気に入るのか、年齢によってどう違うのか、どうやったら商品化できるのか、といったことを探った。その過程と結果が展示されている。
展示の内容については、ピープル株式会社の広報のみなさんがツアーのように詳しく説明してくださった。
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なかはこんなふうだ。手前に見えている机に、今回の企画の魅力というかきっかけが詰まっていると思うので、まずはここから紹介したい。
赤ちゃんは日用品をどう使うのか
日用品の例として、たとえば電卓がある。
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居間に電卓が置いてあったとして、これを見つけた赤ちゃんはこれをどう使うだろうか。少しだけ想像してほしい。
答えはたとえばこう。
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耳にあてるのだ。
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これもそう。冷たさをキープするペットボトルカバーを耳に当てている。写真の右下の国旗にあるとおり、フランスでの事例だ。つまり世界中で赤ちゃんはこれをやる。
これを見て、そうかきっと大人が電話を使うのを見て真似ているんだろうなと思ったのだが、そんなやさしい話でもないようだった。
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ここにあるのはぜんぶ耳にあてる例なのだが、手前の平たい電卓やリモコンはいいとして、奥の靴やクマのぬいぐるみも耳にあてるというのはさすがに意外だ。靴を耳にあてる大人はいないだろうし、クマを耳にあてるのはスマホの真似とは違うなにかだろう。
とにかくこれだけ見ても、赤ちゃんが日用品をどう使うかは予想しがたいし、その理由も想像しがたいことがある、というのが分かる。
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これは「かぶる」例。缶をかぶるのはいいとしても、半ズボンはわからない。
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「入る」。これも奥のかごに入る気持ちはわかるが、おもちゃの家に入ろうとするのはわからない。というよりかわいい。
別のおもちゃについての解説で教えてもらったことではあるが、「自分の大きさは分かってるような分かってないような、ちょっと分かってるけど分かんない」というのが1歳ごろなのだそうだ。
そもそもどうしてこれを調査しようと思ったのか
子どもが日用品をおもちゃのようにして遊び、逆におもちゃとして与えたものに見向きもしない、というのは親なら経験することだと思う。ピープルでは、これを世界中のこどもについて調べた。
そもそもとして、ピープルには「やりたい放題」シリーズというロングセラーがある。
端的にいうと、こどもがティッシュをひっぱりだすようないたずらを、好きなだけやらせてあげるおもちゃだ。つまりこどもの日常の好奇心を観察して、そのままおもちゃにするという伝統がある。
ただ、ピープルは日本の会社で、ふだん観察しているこどもは日本のこどもだ。だから海外の赤ちゃんは何をしているんだろうかという疑問から、今回のことが始まったそうだ。
「まず事例を集めるということを始めました。とにかく日本と海外のお母さんたちに(お子さんが)お家の中で何をしているか聞きました。」と桑原さん。
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結果をまとめたものがこれ。「巻物」と呼ばれているらしい。
赤ちゃんの能力や興味は一月単位でどんどん変わる。なので月齢ごとに、世界のどこで、どんなことをしているかをまとめた。身の回りのもので、思った以上に似たようなことをしていた、というのが最初の発見だったそうだ。
もちろん地域による違いはある。たとえばティッシュの例でいうと、日本では箱ティッシュが人気(?)だが、海外ではトイレットペーパーが人気だったりするという。
「海外はユニットバスが多いので、彼らに一番近いのはトイレットペーパーの方なんです。それもホルダーで刺さっているだけなので、すごく引き出しやすいんです」と桑原さん。
世界の赤ちゃんはどんなことをしているのか
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巻物の中身をぜんぶ書き出したものが上のとおり。膨大なのでぜんぶは紹介できないが、 たとえば左上はこうなっている。
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一番上の段は
〜10(か月) 〜1.0(歳)〜1.2 〜1.4
となっていて、右のほうへ2歳すぎまで続いている。
行動の欄には「拾う」「たたく」「落とす」「引っぱる」と書かれている。抜粋すると次のとおり。
・タイでは10か月でココナッツのからをたたく
・カナダでは1.2歳でトイレットペーパーを引っぱる
・イギリスでは1.2歳で観葉植物の白い石を落とす
ここだけを見るとイギリスが若干優雅な感じだ。
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俯瞰して全体を見るとやはり濃淡があり、他の行動にくらべてよく見られる行動がある。ここでいうと画面下の段に書き込みがたくさんあり、それは「握る」 だ。
「ピープルおもちゃカレンダー」によると、赤ちゃんは5か月ごろからなんでもなめるようになり、9か月ごろからティッシュを引っぱり出すようになるそうだ。かわいい。とにかくそのころから手をじょうずに使えるようになる。
ここには「拾う」「たたく」「落とす」「引っ張る」「握る」など手を使う動作が並んでいるが、そのなかでも「握る」がことさら多いのにはなにか理由があるのだろうと思わせる。そして、地域によって握っているものは違うんだけど、「サイズ感が似ていそうだなというのは一つの発見としてありました」と桑原さんは言う。
たとえば手前のイソジンうがい薬のケースは、日本の1歳に人気なのだそうだ。一方でイギリスのお母さんは「うちはビタミン剤の筒が好き」という。右側の黄色いやつだ。太さや高さのサイズ感が似ている。
そこで今度はイギリスのビタミン剤を日本の子どもに握ってもらうと、やっぱり夢中になるのだという。
「つまり子どもたちは見た目ではなく、サイズや素材、重さといった感覚でものを選んでいる。」(展示内の文章より)

