ここは昭和か? と思えるような空間が好きだ。年を取るごとにそんな思いが強くなっているような気がする。だからと言って子供の頃に帰りたい、とかそういう後ろ向きな気持ちな訳ではなく、昭和を感じられる場所にいると単純に心が落ち着くのだ。安心出来る。開発されずに残っていてくれて、ありがとうと言いたい。
東京都世田谷区の三軒茶屋には、そういう場所が結構ある。古い街なので長い間商売を続けているお店が多いからだろう。商店街の所々に昭和が残っている。有り体に言えば、「時間が止まっている」ようなお店。そういえば三軒茶屋には昭和女子大学もある。三軒茶屋は昭和です、と言い切っていいんじゃないかと思う。
そんな三軒茶屋で、40年以上営業を続けているというバッティングセンターを見つけた。三軒茶屋駅から世田谷通りを下って5分ほど歩くとスーパーのサミットがあるので、その手前を左に曲がる。左側に「肉のハナマサ」が見えたら、その手前にバッティングセンターの入口がある。
注意してないと見過ごしてしまうくらい、ひっそりとした看板である。「バッティングセンター入口」と書いてあるが、本当にここから入っていいのかどうか躊躇ってしまう。こんな狭い空間にバッティングセンターがあるとは思えないからだ。
でも、本当なのだ。
三軒茶屋のバッティングセンターは、「肉のハナマサ」の屋上というトリッキーな場所で営業しているのだ。
「バッティングセンター入口」から階段を上ると、路地裏のような空間が広がっていて、その先に更に上に上る階段が見える。
更に階段の先には2重の螺旋階段がある。
手すりの位置が低い螺旋階段をおっかなびっくり上っていくと、ようやくバッティングセンターが見えた。「営業中」と赤いペンキで書いてある。
中をのぞくとバッティングをしている人の姿は見えない。とても静かだ。40年営業しているだけあって、ある物ある物全てが古い。平成の要素が1つも見当たらない。まさに昭和空間である。
入ってすぐ左に受付の小部屋があって、おじさんが座っている。
おじさんに向かって軽く会釈をしてから中に入った。一番奥まで歩いていくと、視界が開けて空が広がった。ちょっとした空中庭園のようになっている。
ここから見下ろせる三軒茶屋もやはり昭和っぽい。古い瓦屋根が見えたり、銭湯の煙突がニョキッと立っていたり。この日は30度近く気温が上がっていて、ここに来るまでは汗ばんでいた。しかし、この空中庭園に来た途端に汗がひいた。風が通って涼しいのだ。
肉のハナマサの横の入口からは全く想像出来ない空間がここにある。
あの螺旋階段はドラえもんのタイムトンネルみたいな物なのか?
しばらくの間、バッティングマシーンには目もくれず昭和な雰囲気に浸っていた。