特集 2022年1月6日

バルセロナ「ボケリア市場」でスペインの魚介類を眺めてきた

2019年のこと。仕事でスペインはバルセロナへ行く機会があった。

無事に日程をこなして帰途につく日、日本行きのフライトまでちょこっとばかり時間に余裕があることに気づいた。

こういうときはあれだ。市場を覗くのがベストな振る舞いであると相場が決まっているのだ。

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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…「スペインの台所」を徘徊する

そもそも、この時の仕事はテレビ番組のロケ協力でバルセロナ郊外に生息する巨大ナマズ(ヨーロッパオオナマズ)を捕まえて紹介するというものだった。

こんなナマズ。

その仕事は全うできたのだが、ナマズ以外の魚をあまり拝めなかったのが少々の心残りだった。

特に、現場が川のほとりだったので、当然ではあるが海の魚にはまったく出会えずじまいであった。

もっと魚見たかった…。
その欲求不満を解消するためにも、やはり市場へ行くほかないのだ。

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サグラダファミリアも見た。すごかった。

そこで日本人のコーディネーターさんにおすすめの市場はないか訊ねたところ「ボケリア一択」「ボケリア市場こそバルセロナの台所」とのことであったため、寄り道先が確定した次第である。

空港までの距離を考えると、1時間ほどは滞在できる計算だ。それだけあれば、いろいろ買い食いしながら隅々まで見られるだろう。…と、この時は思っていた。

ちなみにボケリア市場のスペイン語での表記は「Mercat de la Boqueria」であり、発音は「ボゥケーリャ」に近い。日本語表記の場合「ブケリア」とあらわされることもある。

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ボケリア市場の入り口

この市場はバルセロナ市街地中に立地するため、アクセスは良好である。むしろ交通の便がよすぎて、「たいして面白い品もないのでは…」と不安になるほどだ。

しかし、それが杞憂であることはゲートをくぐってすぐに判った。
立ち込める香辛料の香りが、ここには日本人にとって目新しいモノが溢れていることを物語っている。

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スパイスやオイルの売り場には…
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パエリアの本場らしくサフランを各国語で猛プッシュする看板が。「サフラン」は市場内で見かけた唯一の日本語だった気がする。
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生ハムも種類豊富!
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生ハムは原木での販売も当たり前。
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八百屋。一見、品揃えはおよそ日本と変わらないようだが…。
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やたらと

 

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トマトの
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種類が…
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豊富!一つの店舗に五つ以上の品種が並ぶ。ミニトマトも細分化されているため、それも含むと十種近くになるのではないか。どう使い分けるのだろう。
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初秋であったためか、キノコは種類が少なかった。そんな中でちらほら見かけたのはrobellon(和名はアカハツタケ)というキノコ。学名をAgaricus deliciosus(アガリクス デリシオスス)というが、名前にデリシャスとつくだけあってとてもおいしい。
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活気にあふれる鮮魚売り場

というわけで魚を見たくてやってきたはずが、なかなかどうして鮮魚売り場にたどり着く前に十分エンジョイできてしまった。
もっともっと、隅々まで舐めるように見たいところだが、あまりのんびりしていると飛行機に乗り遅れてしまう。

小腹も空いてきたことだし、いったん食事を挟んで鮮魚売り場へと移ろう。

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おっ。タコス?なんかわからんが美味そう。これひとつ食べて、そのあと別の店でタパスでもつまむか
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と思って注文したら、「OK!」の声とともにタコス(とは名ばかりで、中にはサフランライスがぎっしり詰まっている)二つと惣菜、サラダがどさっとプラスチック皿に盛られた。700gはあろうかという凄まじいボリューム。おいしかったが、その後は何も食べられず。スペイン恐るべし。

スペイン最後の食事を終え、いよいよ潮の香りが漂うゾーンへ。

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客前での魚の解体パフォーマンスは万国共通か。

おお、やってるやってる。
明らかに他の売り場よりも活気がある。解体や良魚の争奪戦がリアルタイムで行われることもあり、客側からしてもライブ感が一味違うのだろう。

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その包丁すごいな。

日本にいそうでいない魚たち

さて、肝心の鮮魚だが遠巻きに見た限りでは日本で見られるものとそうかわり映えしないようであった。

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タイにスズキにヒラメ。日本でも馴染みの魚ばかり…と見せかけて、実はどれも微妙に日本近海で獲れるものとは違うような。

まだ色とりどりの熱帯性魚類で溢れる沖縄の市場の方が異国情緒がある。…と思っていた。しかし。

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キミ、ヒラメにしてはなんか幅広くない?

たとえば上の写真のヒラメはやたら体高があるというか幅が広い。
これはロダバージョという魚で、日本ではイシビラメと呼ばれることもあるが日本近海にはいない。

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スズキ…っぽい魚と、マアジ…っぽい魚も。

↑この魚は日本のスズキに似るが、もっとおちょぼ口。スペインではルビーナとかベレタ、英語圏ではコモンバス、ヨーロピアンバスなどと呼ばれる。

右奥のアジのような魚はニシマアジといい、干物の原料として日本にもかなりの量が輸入されているという。

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ウニも日本のものとよく似た、けれど色合いの異なるものが並ぶ。日本の水産業界では「ヨーロッパムラサキウニ」として扱われている種(たぶん)。
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アンコウも。頭部と胴体に切り分けられて売られており、頭部は決まって裏返しで陳列され、胴体(尾の身)は皮が剥かれた状態で並んでいた。
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クロダイっぽいがクロダイじゃない「ヨーロッパへダイ」。スペインでの呼び名はドラーダ。英名はヨーロピアンシーブリーム。

和食で定番の食材もあるが、ここバルセロナでは一体どのような料理に用いられるのだろう?
それを想像しながら市場内を散策するだけでも楽しい。

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ここへきて日本人には馴染みのない奇怪な魚が!…と思いきや、これはメルルーサ。日本にも白身魚加工品の原料として大量に輸入されているので、きっと多くの日本人は食べたことがあるはず。むしろ日本人に一番密接な魚だったわけだ。
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甲殻類はなかなかに異国情緒。オマールやヨーロッパイチョウガニが並ぶ。
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アカザエビの仲間も山のように積まれていた。
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小魚も並ぶ

また、鮮魚売り場を見回していて気になった点がある。魚種はともかくとして「日本ではこんな小魚は絶対に店頭へは並ばないな…」というサイズの魚たちが数多く売られていることである。

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これはハゼの仲間。日本でもマハゼを天ぷらにするが、開くことも困難そうなサイズが
混じった状態で売られている。写真上や左に写っているヒメジの一種も、日本では値がつかないような小型。
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特に興味深かったのはこのトロ箱だ。
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アカタチの仲間、小さな小さなホウボウの一種。調理のしようがないほど薄いカレイの幼魚。潰れかけたハゼやアナゴ類…。どう見ても、底曳漁に紛れ込んだ雑多な小魚を一緒くたにまとめただけ。日本ならまず廃棄され「未利用魚」となっていた魚たちだ。

どうやら、底曳漁でとれた雑魚も出汁をとる目的で利用されているようだ。
なかなか下処理が大変そうだが、この「とれちゃったもんはすべて使う」精神には見習うべきところもありそうだ。

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サーモンやニベなどの「あら」ばかりを売っている一角も。これもダシ要員か?
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ダシといえば、二枚貝も活けで売られていた。やはり、あさりに似ているようで少し違う、お初にお目にかかる貝たち。

エスカルゴは魚介類にあらず

貝といえば、ボケリア市場でもっともたくさん売られている貝はなんだと思われるだろうか。

それは意外にも陸貝であるエスカルゴである。
しかも、鮮魚売り場にはまったく並ばず、なぜか鶏肉を扱う店が専売権を有しているようであった。
中には、鶏をモチーフにした看板を掲げておきながら、販売スペースの半分近くをエスカルゴに占拠されている店舗も見られた。

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エスカルゴ。どうやら複数の種類があり(殻の模様が違う)、種別、サイズ別に細かく値段が設定されているようだった。
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なぜか決まって鶏肉店に並んでいる。「肉屋」ではなく「チキン&エスカルゴ屋」なのだ。
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家庭用に(?)手頃な量がパック分けされたものも売られている。これを見て「バルセロナの人たちにとっては鶏卵のように身近な存在なのかな?」と思った。

 


1時間ではとても足りない

と、そうこうしている間にフライトの時間が迫り市場をあとにした分けだが。なんとも心残りであった。1時間じゃあ流し見するのが精一杯だ。

もっとしっかり写真を撮りたかったし、店主に話も聞きたかった。
それに、できることなら買って食べてみたい魚介もたくさんあったのに。この時世では一体いつになるかわかったものではないが、いずれまたの機会にリベンジしようと思う。

そして、きっと多くの魚好き外国人観光客は、まったく同じ思いで日本の市場に目を輝かせ、後ろ髪を引かれているに違いない。
そう考えると、すさまじい種数の魚介が集まる豊洲に通える僕らは幸せ者だ。

というわけで、まずは日本の市場をじっくり楽しみ学ぶことから始めたいと思う。

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市場入り口の土産物屋では「メタルサインの実がなる木(仏手柑)」の種子が販売されていた。いや、普通は育ててもそうはならんから…。

 

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