アイデアは会話から
トドにToDoリストを持たせてからというもの、ぬいぐるみ作りが楽しい。そんなわけで、最近は次に作るぬいぐるみのことを頭の片隅でいつも考えたりしているわけだが、このアイデアは同居人との会話から生まれたのだった。
「トドのときみたいなダジャレ動物のぬいぐるみ(実用性あり)を作りたいんだ」
「うん」
「『イカの印鑑ケース』を思いついたんだけど、ほかにもアイデアがほしい。なんか思いつかない?」
「うーん」
「なんでもいいんだけど」
「タコのパスケースはどう?」
「タコの?」
「タコの。オクトパスのパスケース」
「いいね」
「いいでしょ」
最初は「パス」の部分だけが掛け言葉になっているような気がしたけれど、ふと思いついて脳天に稲妻が直撃したような衝撃を受けた。ICカードの入ったパスケースを改札にタッチさせる行為は、パスケースを改札の上に「置いて」いると言えるのではないか!?
パスケースを置いたら改札を通れる(パスできる)。つまり、「置くとパス」。なんとすばらしい言葉の掛かりっぷり。これは早く作るしかない。イカは後回しにして、とにかくまずはタコだ。
タコにもいろいろいるが、この場合モチーフとして登用すべきはメンダコをおいて他にあるまい。最近、水族館でも展示されていることが増えているそうだから、メンダコを知っている人も多いだろう。潰れたトマトに猫耳をつけたような形をした深海に住むタコである。
メンダコはとにかく見た目がキュートだ。でも、よく考えてみると私はまだ一度も生きたメンダコを生で見たことがない(写真や映像はある)。だから写真ももっていない。
友達にダメもとで「メンダコの写真もってない?」と聞いてみたところ、即座に「あるよ」といって送ってきた。ありがたい。持つべきものは好奇心旺盛で写真整理のできる友達だ。
おい!スライムかよ!というのが初見の感想だったが、とりあえず黙っておいた。深海のタコだから、重力にはめっぽう弱いようだ。
友達はこのメンダコを購入して食べてみたという。気になる味は「海水を含んだスポンジを食べているみたいだった」そうなので御愁傷様なのだが、それでも生メンダコにお目見えした上、賞味までしたなんて羨ましい。もし売っているところに遭遇したら、海水スポンジの味だとわかっていてもたぶん買ってしまうと思う。
ちなみに生きて水中にいるメンダコはこんな姿である。今回はこいつを再現する。
足が8本もあるわりには作りやすい
8本足の生き物だからパーツの数がとんでもないことになるのでは……と、作る前は恐れおののいていたけれど、蓋を開けてみると意外なほど少なく済ませることができてホッとした。
別にこのままで完成でもいいんだけど、動物のぬいぐるみは目とその周囲に一手間かけるとグッと個性が出て説得力が増す。上下の瞼が厚ぼったくて常に目をしかめてるようなメンダコの表情(若い頃の佐野史郎みたいだ)を再現したくて、瞼をつけることにした。
同じ系統の白い生地を買っていたので、それを使った。赤一色の中でアクセントになってなかなかいいぞ。
布の端はほつれてこないように折り返して縫うのがセオリーだけれど、それをやるとどうしてもパーツに厚みが出てしまう。瞼の縁には厚みをもたせなくなかったから、いろいろ考えた末にセメダインで固めて処理した。
漏斗というのは水を吹き出して移動するための筒状の器官で、口ではないのにタコ口とか呼ばれているものだ。メンダコの漏斗は体の真後ろについていてブースターっぽいなと思った。
ICOCAはJR西日本が発行している交通系ICカードで、「IC Operating CArd」の略らしい。そうなんだ。20年以上持っているのに今日までまったく意味を知らずに使っていた。
読み方は「イコカ」で、「行きましょうか」という意味の関西弁「行こか」に掛かっている。これはもう、ダジャレである。「置くとPASS」を作っているときは、我ながらそのしょーもなさにニヤニヤしながら作業していたけれど、中に入れるべきカードも目糞鼻糞の水準でネーミングされていた。