特集 2024年5月25日

切った髪がもったいないから、つけ髭を作ってみた

約4年間にわたって伸ばしっぱなしにしていた髪をばっつり切ってきた。

はじめ、切った髪は全てヘアドネーション(病気などで髪を失った人のための医療用ウィッグの材料にするために、髪を寄付すること)として送ってしまうつもりだったけれど、いざ手放すとなるとなんだか名残惜しいものだ。手入れしてやることもあまりなかったが4年間片時も離れずに過ごした髪である。これでなにかしたい。

つけ髭を作ることにした。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

前の記事:クジャクを食べる。その味はまるで筋トレしまくった鶏

> 個人サイト 海底クラブ

4年ぶりの来店で床屋の店主を驚かす

きっかけはコロナ禍だった。

今となっては記憶の彼方という感があるが、ステイホームが叫ばれ始めた頃、散髪もできれば控えてほしいという要請というか、空気というか、ともかくそんな感じの世間の流れに乗って、髪を伸ばし始めたのだった。

伸ばし始めた、というとさも能動的にことに及んだように聞こえるけれど、私にとっての散髪はもともと年に数回発生する、出費を伴う面倒なイベントだったため、大義名分を得てようようとサボり始めたといったほうが適切だ。髪は勝手に伸びるから、切るのをサボれば、それすなわち伸ばし始めたことになるのである。

1.jpg
髪を切る直前に海に行ったときの写真。長い。

4年ぶりに訪れた床屋では、店主の

「ああ!」

という驚きの叫び声とともに迎えられた。ちょっと床屋では聞くことのない声量である。

彼にしてみれば、とっくの昔に転居なり他店に鞍替えするなりして逃げられたと思っていた客が現れたわけで、驚くのも無理はない。しかも会わなかった期間分の髪をしっかり頭にぶら下げて!

髪の長さが肩甲骨を越えたあたりからずっと、次に切るときはヘアドネーションしようと考えていたから、ゴムで小分けに束ねてうなじのあたりで揃えて切ってもらった。小分けにしたとはいえ髪の束はかなり切り応えがあるらしく、ハサミを入れるたびにザリリリリッ!と豪快な音を立てた。

切った髪は、長いところで50cm以上あった。ヘアドネに必要な髪の長さは最低31cmだから、余裕で条件をクリアしていることになる。トレーに並べられた黒い素麺のようなそれを見ながら、ここまで伸びるのにかかった4年間のことを思って少ししんみりした。

2.jpg
私が育てました!
いったん広告です

切った毛でつけ髭を作りたい

切ったらすぐに送ってしまうつもりだったのだが、手もとに置いて眺めているうちに少し惜しくなった。育てるのに4年かかっているのだ。しかも、さっきまで我が身の一部だったのだ!そして今後はたぶんもっとこまめに切ることになるはずだ(散髪に踏み切ったのは長すぎる髪の鬱陶しさについに耐えかねてのことだった)。

せっかくだからこれでなにかしたい。そこで、我ながら唐突すぎて恐縮なのだが、つけ髭を作ることを思いついた。これなら大した量は使わないから、ヘアドネにまわす分が大きく減ってしまうこともないだろう。

3.jpg
髭のいろいろ。

髭の形にもいろいろある。無精髭に毛の生えた、ならぬ無精髭がちょっと伸びたようなのから、「あなたのまわりには重力がないの?」と聞きたくなるようなのまで。

どういうのが自分に似合うのかはわからないけれど、今回はカイゼル髭(左上の絵)を作ってみよう。

4.jpg
土台になるストッキングと毛を用意する。
5.jpg
切り出したストッキングをスチレンボードに張る。自分の口の横の長さを測って、同じ長さの線を参考のために下に引く。
6.jpg
髪を貼り付けるのに使うのは、速乾性の高いセメダインスーパーXG!
7.jpg
これを薄く塗って、
8.jpg
切り出した毛をのせていく。

毛束というものは思った以上に扱いが難しい。すぐにばらけるし、いろいろなところにまとわりつくし、手に付着した接着剤に絡まるとなかなか取れないのだ。

毛を扱う人で有名なのといえば芥川龍之介の『羅生門』に出てくる毛抜き婆だが、薄暗い場所で毛を抜いて束ねて......みたいな作業をするのはそうとうストレスフルだったに違いない。婆も生きるのに必死だったのだ。

9.jpg
適当な長さに切りそろえる。

毛は一応接着されているが、このままでは少し動かすたびに枯れ木から木の葉が落ちるようにぼろぼろと脱落してしまう。髭の形も不格好だ。

10.jpg
そこで登場するのが、木工用のセメダイン!

やたらセメダインが登場すると思いましたか?編集部が送ってくれたからです。スポンサー万歳!

11.jpg
水で少しだけ薄めて粘性を下げたものを上から塗ってコーティングしていく。
12.jpg
形も整えてやる。カイゼル髭の形になった!
13.jpg
端っこのカールが大事だよね。
14.jpg
乾いたら完成だ!

⏩ 次ページ、いよいよ装着

▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ