午前10時すぎ、船が出る
私の乗るおがさわら丸は、予定時刻の10時から15分ほど遅れて出港した。 大きな汽笛を二回鳴らした後、ゆっくりと岸を離れて行く。
船が東京湾岸沿いを進んでいくにつれ 景色が移り変わっていく様子はとても楽しいもので、私を含め大勢の客がデッキに出てその風景を楽しんでいた。
……まぁ、最初のうちは。
船の上では冷たい風が容赦なく吹きつけもの凄く寒い。 出港から1時間半たち、最初の興奮がすっかり冷めた今、その寒さをモロに感じてしまう。
あれだけデッキにいた人々も、いつの間にやら船内へと消えており、 いつまでも景色を見ているのは寒さに震えながらたたずむ私だけになっていた。
あぁ、太平洋ひとりぼっち。
さてこれからが問題だ
結局寒さに耐えられず、私も船内へと移動した。
さて、これからどうしようか。まだまだ先は長いが、景色を見るのにはもうすっかり飽きてしまった。今この時点でやることが無くなってしまったというのなら、これからの残り時間、一体何をしていればいいというのだ。
……いや、まだやることはあるぞ。船内探検だ。そうさ、男なら探検だろうが。まずは船内をぶらつくき歩く。それが基本。
……なんていうか、もう既にあちらこちらで宴会のようなものが始まっていた。ロビーのように多少広いスペースがあると、そこにゴザを敷いて仲間で酒を飲む。そのスタイルがこの船では基本らしい。
しかし、ロビーがこんな状態あると正直どこにも行きようがない。二等客室とロビー、ちょっとした公共スペース以外は立入り禁止だったりと行動範囲の制約も多く、船内は意外なほどに狭く感じる。
しょうがないので、結局私は再びデッキの上に戻っていった。まぁ、デッキはデッキでなかなかぐっとくる設備が多く、おもしろいのだが。
……さて、いよいよやることが無くなってしまった。
船内探検で稼げた時間はもうしわけ程度。出港してから経過したのはまだたったの2時間。残りは往路だけでも23時間。復路を含めたら48時間。
おがさわら丸は、一体私に何をしろというのだろう。