ちょっと聞いてよ 2023年3月16日

青森県の田舎館村には弥生人の足跡と土器カレーがある

先日、青森県の田舎館(いなかだて)村を訪れた。国の史跡に指定されている垂柳(たれやなぎ)遺跡を見に行ったのだが、そこには「弥生人の足跡」と「土器カレー」があったのだ。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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弥生時代の遺跡を見に田舎館村へ

田舎館村は青森県の西部に広がる津軽平野に位置している。江戸時代に津軽藩の中心地であった弘前市の東側に隣接する村だ。

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田舎館へは弘前駅から弘南鉄道で行く
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ちょうど30分で田舎館駅に到着。駅舎の外観はレトロなたたずまいであるが――
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内装を見てビックリした。こういうアートらしい

今回の目的である「垂柳遺跡」は田舎館駅の南西側に位置している。遺跡まで最短距離の道路を歩いていくと、雪原の中にポツンとたたずむ標識があった。

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この辺り一帯が「垂柳遺跡」なのである​​​​​

訪れたのは3月の初旬であるが、雪国なだけあってまだまだ多くの雪が残っていた。おかげで垂柳遺跡は一面の雪原である。

私は北側から遺跡にアクセスしたのだが、国道102号線を挟んだ南側には説明板があるようだ。地図では南北に道路が通っているのでこれをたどれば南側に出られるかと思いきや、そこには雪国ならではの洗礼が私を待ち受けていた。

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道路が除雪されていない……どころか雪が積み上げられている!

集落から外れたこの辺りは、水田が広がる農業地帯である。故にこの道路はトラクターや田植機が通るための農道であり、当然ながら農業を行わない冬には除雪する必要などまったくないのだ。

このうず高く積み上がった雪は、集落内の路地を除雪したその捨て場ということなのだろう。

ズボズボと沈み込む雪に足を取られつつ、なんとか乗り越えて南側に周りこんだのだが、これが結構な運動になって汗をかいた。

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国道の南側にある垂柳遺跡の石碑と説明板

この説明板によると、垂柳遺跡は東北地方北部において初めて弥生時代の水田が確認された遺跡とのことである。

寒冷な土地である津軽平野で稲作が行われていたかどうかについてはかつて様々な論があった。北海道のように稲作が根付かず、縄文時代と同じような狩猟採集の生活が続いていたと考える学者もいた。

そのような中、昭和56年(1981年)に国道102号線のバイパス化工事においてこの垂柳遺跡が発見されたことで、津軽平野で稲作が行われていたことが証明されたのだ。

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国道は遺跡の上に敷設されたが、この部分は高架になっており遺構が保存されている

さらにその後には、弘前市の砂沢遺跡から弥生時代前期の水田が発見されており、弥生時代のかなり早い時期に津軽平野にも稲作が伝わっていたことが分かっている。

現在も津軽平野には水田が広がっているが、それは弥生時代から連綿と続けられてきた営みだったのだ。

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埋蔵文化財センターで見られる「弥生人の足跡」

垂柳遺跡の近くにある田舎館村埋蔵文化財センターには、遺跡から出土した水田や遺物が展示されている。

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田舎館村埋蔵文化財センターは博物館も兼ねており、入場料は大人300円
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そのロビーには保存処理された垂柳遺跡の水田が展示されている
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水田跡には点々と付いた弥生人の足跡を見ることができ、ちょっと感動した
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現代人より土踏まずが発達しており、足の指で地面をしっかりつかむように前傾姿勢で歩いていたとのことである

弥生時代と言われても、あまりに昔すぎて漠然とイメージするしかないのだが、こうして当時の人々が生活していたリアルな痕跡を見せられると、その存在が確かに感じられるというものである。

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発掘当時の写真も展示されていた
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現在の水田より一枚一枚は小さいが、稲作が大規模に行われていたことが分かる
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埋蔵文化財センターの敷地内から出土した水田跡の畝や水路も現物が展示されている
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当時の土の上に立つこともでき、弥生人の視点で水田跡を見ることができる

こうして見ると、水田の畝や足跡などがハッキリ残っていることに驚かされる。これは洪水による土砂で一気に埋もれたことにより、当時の水田の状態が丸ごとパックされて残ったのである。

道の駅のレストランで食べられる「土器カレー」

田舎館村埋蔵文化財センターには道の駅が隣接しており、そこにあるレストランでは「土器カレー」を食べることができる。

その文字通り、垂柳遺跡から出土した土器をモチーフにしたお皿に盛りつけられたカレーである。

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「道の駅いなかだて」にあるレストラン「ジャイゴ」でいただける
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土器風のお皿に盛られた、色彩豊かで実に楽しいカツカレーである

土器をモチーフにしたざらっとした触感の皿のみならず、米も紫色の古代米を使用しておりこだわりが感じられる。ブロッコリーやポテトの付け合わせも嬉しい。

これで普通のカツカレーと同じ800円なのだから、頼まない手はないというものだ。なお1日30食限定とのこと。

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お皿の形状や文様も、垂柳遺跡の土器を元にした感じだ
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遺跡から出土した様々な土器と見比べてみるのも良いだろう
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土器のお皿にこれだけ盛られて800円はお得な感じだ
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食べ終わった後も、お皿の模様や質感などを楽しめる

田舎館村は「田んぼアート」も有名だ

世間的に田舎館村は水田をキャンパスに見立てて様々な図柄を描く「田んぼアート」の村として知られているようだ。

しかしそれも元は垂柳遺跡に関連して作付けされた古代米に着想を得て、古代米の紫色と黄色、それと一般的な稲の緑色の3色で絵を描いてはどうかと発案されたという。

垂柳遺跡から田んぼアートや土器カレーなど、様々なアイディアを膨らませつつ町おこしを頑張っている感じが伝わってきて、なんともほっこりさせられた。

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田んぼアートを見る展望台もあり、7~10月頃に楽しめるようだ
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