天気は良好、体調も万全
願いが通じたのか、帰りの日までに天気はすっかり回復し、波も穏やかなものになっていてくれていた。
今度の私は一味違う。前回の苦い経験を踏まえ、薬局で船酔い止めを買っておいた。 睡眠時間もたっぷりとってあり、気分も上々。準備は万全、ぬかりなし。
そうして意気揚々と乗り込んだ復路のおがさわら丸は、往路同様、定刻の午後2時から15分ほど送れて出発した。
出港してしばらくすると、おがさわら丸の周りをたくさんのボートが並走し始めた。よくよく見ると、それらはホエールウォッチングショップのボートだったり、ダイビングショップのボートだったり。
これはなんと、ボートを持つ父島のショップが総出で見送りをしてくれているのだ。自分が滞在中に利用したお店もあり、正直ちょっとジーンと来た。
見習いたいものだ、このホスピタリティ。
見送りが船の後方へと消えると、すぐに私は退屈になってしまった。 デッキにいても、所々に点在する遠くの島をぼーっと眺めることしかできず、あっという間に飽きてしまう。
はぁ~。どうせならクジラでも出てきてくれればいいのになぁ。なんて思っていたら……
これには正直、驚いた。
突然出てきたのもそうだが、何よりこのクジラ、私のすぐ目の前に現れ潮を吹いたのだ。それはあっという間に後方へと消えていったのだが、それでも私は相当に興奮した。
私の「クジラ!」という声は他の乗客にも届き、デッキはすぐに人だかり。私はちょっとした優越感を覚えながら、クジラの姿を見送った。
夕日が沈む、夜が来る
程なくすると日は傾き、夕暮れとなった。残念ながら雲が多くて水平線に沈む夕日を見ることはできなかったが、それでも雲に沈む夕日はとてもおいしそうな卵の黄身に見えた。
さらに時間がたつと、日は完全に沈んで夜となった。
相変わらず星は雲に隠れて見えず、周囲は真っ暗闇。デッキに備わっているライトも心もとなく、移動するだけでもちょっと怖い。もし、何かのはずみで海に落ちてしまったら絶対に助からないだろう。まさに、死と隣り合わせ。そんな気分。
飲めや食らえや
さすがに私は暗闇のデッキではしゃぐ気力もないので、船内に引き返して食事を取ることにした。今回の航海は船の揺れが少なく、かつ酔い止めが効いたのか食欲はばっちり。お茶一杯すら受け付けなかった前半戦が嘘のよう。
夕食として食べたのは、出港前に生協で買っておいた島寿司と天カスおにぎり。
島寿司とは、醤油でしめたサワラの握り寿司で、ウミガメ料理と共に小笠原の名物となっている。たいへんうまい。たいへんうまいのだが……私はあえてこの島寿司ではなく、 天カスおにぎりを推したい。このおにぎり、本当にうまいのだ。
中に天カスをにぎり込み、天ツユを染み込ませたこのおにぎり。ちょっとふやけた天カスの食感が天ツユと相まって最高にうまい。なぜ他の場所には無いのかと思うくらいにうまい。
ただ、具が油のかたまりなだけあって、胃にはよろしくないだろう。 正直、船の中で食べるべきか否か少々悩んだのだが……まぁ、きっと大丈夫。油なんて、水分で流してしまえば良いのだ。
というワケで、食後はビールをいただいた。