デイリーポータルZが誇る愉快なおじさん達。
ありがたいお誘いなので一緒に遊びたいけれど、ボードゲームはルールがよくわからない。いまだに人狼がなんなのか知らないし。
きっと斎藤さんが出展していたゲームマーケットというイベントに私も出展していたから誘われたのだと思うけど、あれはプロレス好きの延長線としてフィーリングでゲームを作ってみたのであって、ボードゲーム自体はズブの素人なのである。
前に作ったプロレスのボードゲーム。
内容はこちら。おかげさまで在庫なし。
というような話をしたところ、参加されるもう1人の方が、私のような素人でもボードゲームの世界を味わえるように考えておくから大丈夫とのこと。
選べるフルコースで味わうボードゲーム
そして当日、都内にあるボードゲームカフェとやらに集合。飲食費+使用料を支払うボードゲームをやるのに特化した喫茶店みたいな場所だ。
真ん中の方が本日のキーマン。
水先案内人となってくれるのは、小野さんが「
お寺でお泊りボードゲーム」という記事で知り合った住中浩史さん。
体験型アートを得意とする芸術家である住中さんが用意してくれたのは、フランス料理みたいなフルコースのメニュー表だった。
「本日のメニューはこちらでございます」と住中さん。
前菜から始まる選択式のフルコース。もちろん料理ではなく、ボードゲームのフルコースだ。
ボードゲームというのは人生ゲーム以外にもいろいろあるので、軽いものから順にコース仕立てで一気に理解していこうという訳である。釣りや登山みたな一日がかりの趣味だとできない味わい方だ。
メニューには名前も知らないゲーム達が並んでいるが、そこに添えられた解説文にはシズル感があり、どれも食欲、いやゲーム欲をそそってくる。
名称とそれっぽい説明文から、味わうゲームを選んでいく。
このようにしてシェフ(役割的にはソムリエですかね)がおすすめするボードゲームのフルコースを、4時間かけて食べつくすというフランス貴族のような宴がスタートしたのだった。
前菜は『ごきぶりポーカー』から
まずは前菜ということで、トランプやUNOに近いカードゲームから。私が選んだのは『ごきぶりポーカー』。前菜にごきぶりってどんな奇食の会だ。
ざっくり説明すると、害虫のカードが8種類あり、それを押し付け合って同じカードが4枚集まってしまった人が負け。プラス要素を集めるというゲームの基本を裏切る逆転の発想だ。
カードの種類はゴキブリ、ネズミ、クモ、カメムシなど。
押し付けるときはカードを裏にして、「これはハエです」と宣言。押し付けられた側は本当にハエなのかどうかを見破り、当てれば返却できるが外れると受け取らねばならない。
押し付ける相手は誰でもよく、困っている人を追い詰めるもよし、余裕のある人に逆らうもよし。現実世界だとケンカになるやり取りだ。
表情でカードを読み合うから『ポーカー』なんですかね。。
これくらいシンプルなら私でもすぐにルールを把握でき、さらにやり取りを通じてメンバーの性格もなんとなくわかる。
なるほど、汎用性の高いトランプにはない専門ゲームならではの、イラストと設定が奏でる世界感の奥深さがちょっと分かった気がする。
前菜をおかわりして『はげたかのえじき』
コース料理という本来の流れからはちょっとそれるが、こっちもやってみたいと前菜をおかわりして、トランプっぽいけどトランプではできない『はげたかのえじき』にも挑戦。
1~15までのカードを持ち、その中から1枚を出して一番大きい数字を出した人が勝ち。ただし同じ数字を出した人がいると負けとなる。場には得点となるカードが-5~10まで出るので、得点が高いときに勝ち、低いときに負けるのがコツ。
詳しくは検索していただくなり、「
【検証】ボードゲームは初対面の人で仲良くなれるの?」という記事でmegayaさんが書いているのでそちらでどうぞ。
最近は瓶に入ったジュースを出す店が増えたなーと思ったが、この店はもし倒してもゲームが濡れないという利点があるんですね。
手持ちのカードは1回しか使えない。誰がなにを残しているのかを覚えると強くなれる。まあ俺は無理だね。
このゲームは選んだカード一枚ごとに勝ち負けがあり、その積み重ねで勝者が決まる。これはとっても好みのスタイルだった。
ごきぶりポーカーと違って勝負の相手を選ぶということもないため、より軽い口当たりでサクサクといくらでも食べられる系。
すぐれた前菜とは食べ始める前よりもお腹を減らすような料理。この二つのゲームも、やる前に比べてボードゲームをもっとやりたい、深く理解したいという気にさせてくれた。
脳が動き出したところで『スカルキング』
続いてのスープには『スカルキング』をセレクト。頭骨王のスープである。UNO的なゲームなのだが、試合に勝つのが目的ではなく「自分が何回勝つか」を予測するというのがポイント。
試合に負けて勝負に勝つことができるのだ。
数字だけでなく特殊なカードもあって、より強いカードを出していく。
今までのゲームよりはルールがちょっとややこしく、覚えるべきことも多いのだが、前菜で脳が活性化しているのでどうにか消化できる。
このだんだんとゲーム脳が育っていき、沼の深みにハマっていく感覚が楽しくも危険だ。
仕切りは全部住中さん達がやってくれるので、私はカードを出すだけで遊べるHPAS(ヒューマンパワーオートメーションシステム)。
パンにはやっぱり『ディクシット』
前菜を2品食べてしまったのでサラダは申し訳ないがパス。パンには『ディクシット』というゲームを選んでみた。
このゲームは親が配られた絵の中から一枚を選び、タイトルを決めて裏にして提示。子はそのタイトルに合いそうな絵を選んで出しつつ、親がどの絵なのかを当てるというもの。
たとえば親が右の絵を出すなら、「向かい風」とか「雪の女王」とか「オールバック」とかタイトルを決める。
親があまりに直接的なタイトルをつけて(「黒髪のコートを着た女」とか)全員が当ててしまうと、それはそれで負けとなる。子は出した絵が選ばれたら得点ゲット。
数字を一切使わずに言葉選びのセンスを問うような文系ゲームで、今までとは脳みその違う部分を使っている感じがする。こんなジャンルもあるのかという驚きがすごい。なにも塗らなくてもうまいパンだ。
メインディッシュは『カタン』
さてこってりとしたゲームが予想されるメインディッシュは、ボードゲームの歴史を変えたともいわれる金字塔的作品の『カタン』をセレクト。
プロレス史でいえばUWFなのか新生UWFなのか、あるいはFMWの誕生か。
紹介したいものが多いらしく、『旬のメインディッシュ』もたくさんある。
メインディッシュにカタンと並んでいた『村の人生』の、「おじいちゃんそろそろ殺しとくか」という説明書きも気になったが、これは次回のお楽しいにしておこう。
ここでようやく『ボード』のあるゲームが登場。
このゲームは木や羊などの資源カードを使って街道や都市を建設して、自分の領地を広げて点を取り、10ポイントを集めたら終了。対戦型シムシティみたいな感じだろうか。シムシティもやったことないけど。
特徴的なのは「羊2枚と鉄1枚を交換してほしい」といったように、他のプレイヤーとの交渉で資源カードの交換ができるというもの。相手と自分のメリットを比較しつつ、全体の状況を判断した上で加担するか駆け引きをするのだ。カタンだけに。
世界的に人気のゲームで、大会も頻繁に行われているそうです。
さすがはメインディッシュ、なかなかこってりとしたゲームである。最初にいきなりこれをやろうと言われたら、気持ちと体がついていかなくて楽しめなかったかもしれない。
普段の生活では交渉という行為をなるべく避けながら生きているので、ゲームとはいえ知り合い同志で利益に直結する交渉をするという体験が新鮮だ。
そんなこんなであっという間に4時間が経過し、もう脳みそがお腹いっぱいだ。残念ながらソルベまでたどり着けなかったが、これで遠くの世界での出来事だったボードゲームが、一気に身近なものになった気がする。
私もゲームを作ってみました
そしてそれから数か月後。あの日の体験を踏まえて、私もボードゲームを開発してみることにした。
テーマは大喜利である。
まずコマとなる落語家さんを作ります。
座布団の中には磁石を入れておきます。
勢いで落語家さんをたくさん作ったけれど、よく考えたら一人しか使わなかった。
ゲームのルールは座布団の裏表を選んで重ね、10枚獲得したら勝ち、みたいな感じ。座布団に磁石が入っているので、正しい向きだとシュッとくっつくが、向きを間違えると反発して、落語家さんが吹っ飛ぶというものだ。
名付けるとすれば「昇天」だろうか。
交互にやって対戦してもいいし、一人で10枚を目指すのもいいだろう。細かいことは考えてない。
落語家さんを乗せた座布団を近づけると……
正しい向きだと吸い付くように重なる。
向きを間違えるとピョーンと昇天する。
目指せ10枚!
ゲームとしては単純な二択の繰り返しであるが、ボードゲームに必要不可欠な独特の世界感は演出できていると思う。
できていますよね。
これを動画にまとめたのがこちらだ。
座布団の向きを間違えて置こうとしたときの、どうにもできない無力感と磁力のプルプルが気持ちよい。
大喜利の要素はこれっぽっちもないけれど。
みんなで『昇天』しようぜ!
こんなに楽しいゲームができたんだから(と本気で思っていた)、これはみんなに試してもらわなければ。
まずはきっかけの一人である小野さんから。最近はドイツのアマゾンからゲームを仕入れているらしい。
あえて詳しい説明はせずに挑戦してもらった。
「んーん、どうかなー、そうかー、運だけかー。駆け引きとか記憶の要素があるといいかなー。ほら100%運だけのゲームってドイツにはないし」
……続いては担当編集の古賀さんである。
イベント疲れでガラガラになった声がポイント。
やはり二択だけというゲームの浅さが気になるようだ。そりゃそうか。
最後はライターのスズキナオさん。そこそこ酔っぱらった状態でのチャレンジだ。
「ニスくらい塗ってくださいよ!」とまっとうな指摘をされた。
さすが日本代表レベルの酔っ払い、想像と違うゲーム展開である。なにがアリでなにがナシなのかとか、どうでもよくなってきた。
自分でゲームを作ってみて、市販のゲームってよくできているなーと思った次第である。
後半の余談は置いておいて、選べるフルコース仕立てで知らない分野の趣味に触れるという体験は、とても得るものが多かった。
あの一枚のメニュー表に詰まっている住中さんの想いと厳選された情報は、もはや一冊の同人誌。漫画とかラーメンとかカメラとか盆栽とかFXとかEDMとか、もっといろんなフルコースを味わってみたいと思った。