特集 2016年6月6日

知りたい!あなたの「知らんがな」

うわ~~、知らんがな~~~
うわ~~、知らんがな~~~
人と話していて、ときどき「知らんがな」としか反応しようのない話を聞くことがある。飼い猫のエサの好みとか、そういう話だ。
なんとなく白けるこの手の話。ただ、「意図的に『知らんがな』を聞く」という目的があれば、聞き手は「うわー、超知らんがな」といった視点で楽しめるのではないか。

話す側も遠慮なくどうでもいい話ができて楽しいはず。あえての「知らんがな」を求めて聞いてみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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個人情報としての「知らんがな」

明確な意志をもって「知らんがな」に耳を傾ける今回の試み。その相手は、当サイトのライター陣にお願いした。

ライターとは、読み手の興味を惹きつける文章を書くのが仕事。職業上、「知らんがな」と言われたら負け、であるわけだ。そんな方たちを、今回は「知らんがな開放区」に招待したい。思う存分知らんがなを発揮してほしい。

まず聞いたのは編集部の安藤さん。
安藤さんの「知らんがな」は、箇条書きで個人情報を連ねるタイプ。
・今はウインドウズのパソコンを使っていますが、実は学生の頃はマックを使っていたことがある。
・右と左とで握力がだいぶ違います。数値はわかりません。視力も左右で違う。
・最後に献血に行ったのは2ヶ月くらい前なので、成分献血はとっくに解禁、全血もいけます。
・ウォシュレットを使ったのは大人になってからです。というかほとんど最近です。切れ痔になってからです。
・今年が平成何年なのか、干支が何なのか、年明けの頃はわかっていましたが、今ではよくわかりません。
・キウイは緑のより黄色い方が甘くて好きなんだけど、買うときは安いので緑のやつを買ってしまい、酸っぱいとやっぱり黄色にしておけばよかったな、と後悔します。
・肉よりも、実は魚が好き。魚の中でも、赤身よりも白身が好き。
画像を作りながら「知らんがな…」と思ってた
画像を作りながら「知らんがな…」と思ってた
どれもこれも、「ああ~、そうなんですね~ (知らんがな…)」としかリアクションのしようがない。粒ぞろいの知らんがなにしびれる。

特に、食べ物の好みの話には知らんがなの鉱脈を見た気がする。聞き手に何の感情も起こすことのない、スーパーフラットな知らんがな。

そこにあるのは、無限に何も感じない地平。そんな中にも切れ痔を告白するのは、ついスパイスを効かせたくなったからだろうか。

ほっこり系「知らんがな」も存在する

続いては同じく編集部の古賀さん。
拾い食いして爆笑する古賀さん
拾い食いして爆笑する古賀さん
知らんがなについてお願いすると、「常々『知らんがな!』とつっこむほうでして、さあ、しゃべっていいのだよ『知らんがな』を…と開放されていま嬉しいような戸惑うような気持ちです」とのこと。

教えてくれたのは、こんな話だ。
うち、フライパンのふたの持ち手がはずれてるんすよ。

で、はずれたまま鍋つかみをしてふたをあけたりしめたりしてます。それでぜんぜん使えちゃうので買い換えようと思ったこともなく。

ただ、持ち手がはずれた止め具の部分に穴があいてるんですね。フライパンのふたをしてるとそこから蒸気がしゅーっともれるんです。

煮物なんかをするときは気にしないんですが、蒸し物をしてるときはなんだか蒸気がもったいない気がしまして、それで以前母親にもらって使っていない、「鉄茄子」ってご存知ですか? あれを穴の上に置いて蒸気をフライパン内に閉じ込めるようにしてます。
生活感がにじむ「知らんがな」
生活感がにじむ「知らんがな」
「うち、フライパンのふたの持ち手がはずれてるんすよ」という出だしがいきなり「知らんがな」。飲み会で話が途切れて場が静まった時、静寂を切り裂くように「うち、フライパンのふたの持ち手が…」と話がはじまったら、最高に知らんがなだ。

そして「蒸気がもったいない」。蒸気の大切さという心情的なディティールが新しい知らんがな。そして「鉄茄子? ああ、あれのことね…。へえ。(…知らんがな)」という、豆知識と見せかけた知らんがなの波状攻撃。

今回の試みは「『知らんがな』というネガティブな感情を楽しめるか」という点を意識したのだが、古賀さんのは不思議と心があたたまるタイプの知らんがな。こういうスタイルの知らんがなもあるのかと驚いた。

専門分野の「知らんがな」

続いてはT・斎藤さん。
T・斎藤さんは、ご自身のお仕事と関連した「知らんがな」をメールで寄せてくれた。
git(ギット ※プログラムなどの管理システム) というのをいじってるとよく「origin master」というのが出てきて「オリジンマスター」と読んでるんですが、頭の片隅ではオリジン弁当のマスター(それもギットギトに脂ぎったやつ。gitなので)が無意識に連想されていて、先日久しぶりに本物のオリジン弁当を見た時思わず「あっ!」となってしまいました。(住まいのある長崎の近所にオリジン弁当ないんです)

また、Linuxのサーバーをいじっているとたまに「/dev/null」というのが出てきます。正式な読み方があるのかわかりませんが、だいたい「デブヌル」と言えば通じるので、「これってデブヌル渡しでいいんかな?」みたいな会話をしたりします。(頭の片隅でぬるぬるのデブを思い浮かべながら)

しかしやはり「デブヌル」はコンピュータ用語としては相当おかしな語感で、自宅で「デブヌル…」と独り言を言ってしまったら、中1の娘に「なにそれ?!」と即座に言われました。
デブヌル
デブヌル
個人的な感想は、まず「おもしろいじゃん!」がやってきた。知らんがなではなく、おもしろい。専門用語の話は確かに「知らんがな」になりがちだと思うが、そう感じないのが不思議だ。

思い当たったのは、これって書き言葉の文として読んでるからおもしろいのか…?ということ。もしこれを、直接話される話として聞いたら、「知らんがな」になったように思う。

もしかしたら、文で書くことには「知らんがな」を軽減させる効果があるのかもしれない。これは「知らんがな」における新しい知見と言っていいだろう。

忍び寄る「知らんがな」の影

続いては斎藤充博さん。
斎藤さんは思わぬ形で知らんがなに巻き込まれていったエピソードを教えてくれた。
ぼくは時々原付バイクで仕事(訪問マッサージ)に行っています。この間、親戚のおばちゃんにその話をしたら「私の親戚が昔バイクで走っていて追突されたことがある」という話をされました。

親戚のおばちゃんのさらに親戚は他人です。追突は防ぎようがなく、教訓にもなりません。ただひたすら「知らんがな」と思いながら聴いていました。

その話が終わった後でおばちゃんは「そういえば昔、私の父が大きなバイクに乗っていたわ」と言い出しました。その話は本当に「乗っていた」というところで話は終わりです。何のコメントもできませんでした。
知らんがなの極北
知らんがなの極北
カラカラに乾いた「知らんがな」がそこにある。「知らんがな」に向き合わされたことで沸き上がる苛立ち。無表情な斎藤さんが目に浮かぶ。

しかし、この話には続きがある。
しかし、親戚のおばちゃんからしたら「ぼくが時々原付バイクで仕事に行く」という話こそが「知らんがな」だったのかもしれません。雑談ってむずかしいなと思います。
「知らんがな」にされされて初めて気づく、他人の「知らんがな」。

知らんがなスパイラル、知らんがな再生産とも言える。憎しみが憎しみを生むように、知らんがなは知らんがなを生み出す。

知らんがなの深淵を見たような思い。ただ、仮に斎藤さんの話がおばちゃんにとって知らんがなだったとしても、3倍ぐらいの知らんがなで応酬された感はある。

王道の「知らんがな」たち

続いては小堺さん。
寄せてくれた話は、ついに登場のペット系。「知らんがな」定番ジャンルの1つと言えるだろう。
私ってほら、犬好きじゃないですか。

で、犬たちも私のことが大好きじゃないですか(特にトイプードル)。散歩中の犬なんか私と目が合うとニコ~ってすごく嬉しそうな顔して。飼い主を強引に引っ張ってまで近づこうとしてくるんですよね。

ほら、犬と人間て目が合うとお互いに幸せな気分になる、って言うじゃないですか。

でも、きっと誰でもいいわけじゃなくて、犬にも好みがあるわけです。私と合うと特に幸せな気分になるようです。だって他の人に向ける表情とぜんぜん違いますもの。

そう考えると、実家で飼ってる犬たち(もちろんトイプードル)は私と会いたくてたまらないんだろうな、寂しいんだろうな、と思って。なるべく帰るようにしてるんですよ。
完膚なきまでに知らんがな
完膚なきまでに知らんがな
自分から頼んでおいて申し訳ないが、心の底から知らんがな。

書き出しの「私ってほら、犬好きじゃないですか」がすでに、これから始まる知らんがなを予感させる。そして連なるのが「で、犬たちも私のことが大好きじゃないですか」。知らんがな、そして知らんがな。

創作ではないかと疑いたくなるくらいの知らんがな。小堺さんはもう1つ寄せてくれた。
わたし、中学と高校のとき皆に「ウルフ」って呼ばれてたんですよね。でも、なんでそう呼ばれていたのか思い出せなくて。

なんでだと思います?
本人も思い出せない知らんがな
本人も思い出せない知らんがな
1つ目の話のくどさに対して、こちらはシンプル。それでも「知らんがな度」は決して劣ることはない。「わかるわけのないクイズ形式」は、強烈な知らんがなを巻き起こすからだ。

1つ目の話の聞き手は心の中で「知らんがな…」と思うだけだろうが、2つ目の話は疑問形を投げかけることで、「知らんがな!」と実際に口に出させようとしているようにも感じる。

知らんがなの法則

最後は馬場さん。
ザ・馬場さん(こちらの記事より)
ザ・馬場さん(こちらの記事より)
馬場さんはまず、「知らんがなの法則」についての考察を寄せてくれた。
「知らんがなの法則」

・「私○○じゃないですか」という同意要求は大体知らんがな話。
・「~系じゃないですか」となると更に知らんがな度が上がる。
・世代間ギャップのある話は知らんがなになりやすい。
確かにそうだ。実際、1つ目の法則については、先の小堺さんの知らんがな話にも多用されていた。

そして、この法則に基づいた知らんがな話を教えてくれた
小野さん、私は話が長いマジレス系じゃないですか。先日「板橋 日本酒 面倒くさい」とか「東京 日本酒 面倒くさい」でGoogleで検索したら私の経営する店が検索結果のトップだったんですよ。「日本 日本酒 面倒くさい」でも2番目でした。

でも、私はどちらかと言うとYahooで検索する事も多いんですよね。最近の子はググれとか言うぐらいだからYahooあんまり使わないですかね?

あまり使わないと言えば、もうGREEとかmixiとかはゲームばかりになってしまってアカウント削除して、今はTwitterとFacebookなのですが、最近の子はLINEやInstagramなんですかね?どちらもやってないのですが、私もLINEやInstagramやった方がいいですかね?

どうですか、小野さん?
ちょ、ちょっと待って。一段落目は「知らんがな」ではなく、めちゃくちゃおもしろいんですけど。あと一歩で日本酒の面倒くささ全国制覇ではないか。
東京制覇の部分は「知らんがな」ではないと思う
東京制覇の部分は「知らんがな」ではないと思う
ただし、2段落目から「知らんがな」は急加速。検索サイトとかSNSとか、本当に知らんがなだ。

そして、クイズ形式の「どうですか、小野さん?」で絶頂を迎える知らんがな。疑問形が知らんがなを呼び起こすことはわかっていたが、名指しで言われるとさらに知らんがな。ピンポイントでもたらされた、世界で自分のためだけの「知らんがな」だからなのだと思う。

全ては愛しき「知らんがな」

今回、さまざまな「知らんがな」と向き合って得られた教訓がある。それは「他人の『知らんがな』を愛したまえ」ということだ。

人の話に「知らんがな」と思わされたとき、それを俯瞰すると「知らんがな」もまた愛しく見えてくる、という言い方でもいい。

LINEやInstagramをやった方がよいかという問いに対する答えは「どっちでもいい」。

上司や親戚、時には友達や家族からも発せられる、そんな「知らんがな」。イライラせずに見つめ直せば、野に咲く花のような可愛らしさがあるはずだ。
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