とにかくできあがりを見ていただこう
キリンの指輪。ようするに冒頭の写真ですべてなのだけれど、せっかくなのでいろいろな角度から見てください。
シルバーです。かわいい。
ちなみに手のモデルは妻です。薬指にある彼女愛用の指輪もかわいいですが、キリングのほうを見てください。
指を曲げればそこが岸壁。コンテナ船を待つ。かわいい。
影もかわいい。
どうだ。かわいいだろう。
縮尺およそ 1/1000。たしかに「かわいい」とはいえ、ご覧の通り指輪としてはかなりの大きさ。
およそ実用的ではないが「キリング」と言いたかったのでしょうがない。ぼくの技量の問題でこれ以上小さくできなかったのがくやまれる。
あと、表面の仕上げがてきとう。銀で作ったのだが、最後ピカピカに仕上げるかどうか迷った。後述するように磨くのがすごくたいへんだったので荒々しいままです。すみません。
妻は「付け心地悪い。痛いから磨いて」と言ったが、そもそもこれ普段使わないだろう。使う気か?
というか、ガントリークレーンって何
そもそもガントリークレーンって何だ、って話だろうか。かわいいかわいいって言い募っても、そこのところをご理解いただけないと、ただのごつい非実用的なリングにしか見えない。
キリンとはこれのことです。
港のコンテナターミナルや工場の岸壁にすっくと立つ、紅白縞々のかわいいやつ。
かわいい。っていっても高さ40mもあるんですが。
で、今回はさらに小さく指輪にしたというわけだ(リングにしてはかなり大きいけど)。
でかいものを小さくするとたいていのものはかわいくなるのではないか。
思えば、そもそもぼくは昆虫採集するように工場をコレクションしたかった。しかし残念ながら工場は持って帰れないので、しょうがなく写真を撮った。
つまり写真って平面のミニチュアなのだな。
ある男性がかのピカソに「これが私の妻です」と女性の写っている写真を見せたところ「ずいぶん小さくて平らなんですね」と言われた、という話を思い出す。良い性格してんな、ピカソ。
関係ありそうであんまり関係ない話でしたね。
銀の棒一本で作れるってすごい
さて、以下はキリング制作の様子だ。
ただ、ぼくは彫金の勉強をちゃんとしたことがなくてですね。見よう見まねのてきとうなのですよ。
なので詳しい方から見るとかなりすっとこどっこいな制作過程かもしれない。
でも、ガントリークレーンを指輪にすること自体がすっとこどっこいなのでいいだろう。
ちなみにこれは以前
角砂糖を指輪の石にしたときのもの。ぼくの彫金はいつもこういう感じのすっとこどっこいな方向性です。
作り始めて自分でちょっと感動したのは、棒の材料だけでできてしまうという点だ。あたりまえなんだけど。
設計図(というにはいいかげんすぎる)を描いて気がついた。棒だけでできるぞ!
2mm角の銀の棒を
切り分けていく。
棒でできてしまうことの何に感動したかというと、なんというか、これって土木構造物らしいなあ! と思ったのだ。
わけ分からなくなりそうなので分けておく。
橋が代表的だが、非常におおざっぱにいうと大きな構造物は、柱や梁といった「棒」に板材を組み合わせてできている。
まあ盛り土やダムみたいなコンクリートの塊は事情が異なるけど(いや、実はダムもそうなのかな? バットレスダムというものもあるし。こんど萩原さんにきいてみよう。)
「銀ロウ」という、純銀に真鍮を混ぜたものをごく小さく切り出し(これが鼻息とかですぐ飛んでどこかへいってしまう。粗忽者なので)、
棒を付き合わせて、接合部に乗せてバーナーであぶる。つまりハンダですな。
「棒を効果的に組み合わせることで、材料よりもはるかに巨大なものを作ることができる」というのが、ぼくが感じている土木構造物の魅力なんだな! とこの作業によって、いまさら気づいたのだ。
この「ロウ付け」を繰り返していきます。っていうと簡単そうだけど(うまい人には事実簡単なんだろうけど)うまく融けなかったり、一度接合したところが次の熱でとれちゃったりとかでたいへんなのだ。
ただの棒だったときはなよなよしていた銀が、だんだん構造的に組み合わさっていくにしたがって、すごくがっちりしていくのも感動だった。
こんなてきとうな設計でも丈夫になっていく! ラーメン構造ってすごい! 筋交ってすごい!
あとこうやって接合部の小口を平滑にかつ直角にヤスるのも楽しい。
同じ銀細工でも「銀粘土」にあまり興味を持てない理由は、ぼくの土木趣味に原因があるのかもしれない。
材料を、切って、削って、組み合わせて、接合して、という作業がぼくは好きなのだ。「構築」だ。
銀粘土は「構築」というよりは「盛る」という感じなのよね。
うっかり短く削りすぎた場合でも、叩くと伸びるのが金属のうれしいところ。木の細工だとこうはいかない。
あと金属をなだめすかして切ったり削ったりするときの感触も好き。
ゴリゴリと力任せにやってもなかなか切れなかったりするところを、うまい人はスッと魔法のようにあっさり切っちゃったりする。
ぼくがいくら強い調子で言っても言うことを聞かなかった犬が、名人に「お座り!」って言われたとたん素直に従う、あの感じ。くやしい。
表面仕上げるのがたいへんだった
組み上がってきたぞ……!(静かな興奮)
紆余曲折、失敗に次ぐ失敗の末、なんとか組み上がった。
で、最後表面を磨かねばならない。バーナーであぶっているので、表面が酸化して黒くなっているのをまずヤスってやる必要がある。のだけれど。
入り組んでてやっかい!
複雑な形状なので、内側がヤスれないではないか。
冒頭で「磨くのがやっかいだった」と書いたのはこういうことだ。ほんとうは徐々にヤスリの目を細かくしていってピカピカにするのだが、今回は荒々しいままで断念。
「構築!」などと喜んでいたが、この構造がアダとなった。痛し痒しである。
そして完成!
というようなことを思いながら、丸一日かかって完成である。
言ってしまえばただの彫金のプロセス紹介だが、個人的にはいろいろ発見があって有意義であった。
ほんとうは10匹ぐらい作りたかったのだが。いずれチャレンジしよう。
かわいいなあ。
脚にリングを付けて指輪化。
で、冒頭のこの状態になったというわけ。後ろ脚にもリング付けるべきかな。
あと、こうして自分のと比べてみると、妻の手がすごくきれい、というのもあらためての発見であった。
たくさんつくりたい
これ、半分ぐらいの大きさのものを3Dプリンタで作ったらさらにかわいいだろうなー、と思った。
金属を削るのがいいんだ! とか言っておきながらなんですが。
もうひとつの衝撃の発見は、これぐらいの細かい作業は裸眼じゃないとピントが合わない! つまり老眼! ということ。歳をとったなあ……