特集 2015年7月31日

「すみ切り」を愛でる

こういう風に角がすぱっと切り取られている建物を愛でていたら、とある謎に。
こういう風に角がすぱっと切り取られている建物を愛でていたら、とある謎に。
道が曲がっている部分に面している建物は、しばしばその角が切り落とされたようになっている。専門用語ではこれを「すみ切り」という。隅を切るから「すみ切り」だ。

以前からこのすみ切りが気になっていた。いろいろな「すみ切られ方」があって、じっくり見ていくと楽しいのだ。楽しいんです。

で、楽しいなあ、と思いながらとあるエリアのすみ切りを見ていたら、不思議なことに気がついたのでその話をします。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:「陸橋下の行き止まり」が好き

> 個人サイト 住宅都市整理公団

「すみ切り」とは

敷地が面する道路の幅ですみ切ることが法律で決まっている。
敷地が面する道路の幅ですみ切ることが法律で決まっている。
まず「すみ切り」とは何か。土地が角地にあるときで、面する道路の幅が6m未満(地方自治体によってこの幅の条件はいろいろ)の場合は敷地の角の一定部分には建築物などを建ててはいけない、というもの。現在は建物がある場合でも、建て替えのときにはこれに従わなくてはならない、とされている。

細かいことを言うと色々あるんだけど、とりあえずそういうものです。

「すみ切り」いろいろ

で、いろいろな「すみ切り」を見ていこう。
こういういかにも「すみを切りました!」って感じの、いい。
こういういかにも「すみを切りました!」って感じの、いい。
一方、せっかくなのですみ切り部分を窓にしたりガレージにしたりしている物件も、もちろんいい。
一方、せっかくなのですみ切り部分を窓にしたりガレージにしたりしている物件も、もちろんいい。
すみ切り部分に階段を配置するという妙。あまつさえその階段下部分を入り口に。ナイスすみ切り!
すみ切り部分に階段を配置するという妙。あまつさえその階段下部分を入り口に。ナイスすみ切り!
こういう感じだ。

まあ、こんな建物どこにでもあるけど、それだけにみんなあんまり気にしていないのではないか。

とはいえ、建物のオーナーと設計する人は気を使っている。その気の使い方や程度にもいろいろあって、それが結果的に見応えのあるものになっている。と、思う。

漫然と見ていくだけでも面白いのだが(ぼくにとっては)、分かりやすくするためパターン化してみよう。

「すみ切り意識ビル」

やはりぼくとしては、せっかくのすみ切りなので、それを建物のデザインに反映してほしいと思うのだ。

以下は良い感じにすみ切ったビルの例だ。
すみ切りを無駄にしないビルデザイン。いつかぼくもすみ切る機会があったら参考にしたい作品たち。特に右下のもの、ちょうすてき。
「これが……良い例なの?」とはやくも困惑させているかもしれない。良い例なんです、これが。

「何がそんなに良いのかもっと具体的に!」と言われると困っちゃうが、とにかく「すみ切りから逃げていない」という点に胸が熱くなるのだ。なるんです。

もちろんビルじゃなくてもすてき

上でご覧いただいたのはいずれもビルだが、いわゆる戸建て住宅でもすみ切っているものはたくさんある。

もしぼくがすみ切り住宅を手に入れることになったら参考にしたい、という作品が以下だ。
いずれも住みきり部分に門を配置した堂々たるすみ切り住宅。
前述のビルと同様、せっかくのすみ切りならば、そこを家の正面にしてしまおう、という感じの心意気がかっこいい。「すみ切りには、門を」を提唱したい。
門ではなく、直に玄関。おそらく元の敷地が分割され、それぞれにめいっぱい新築が建てられ、なんだか複雑なことになっちゃってるが、こういうのもいい。
門ではなく、直に玄関。おそらく元の敷地が分割され、それぞれにめいっぱい新築が建てられ、なんだか複雑なことになっちゃってるが、こういうのもいい。
門じゃないけど、こういうのもいいな、と思う。
なんなら塀でもいい。そう、結局たいていのすみ切りは、いい。
今回あらためてじっくりすみ切りを見て回った結果、こと住宅に関して言えば、すみ切りはただすみ切りだというだけでぼくは愛せる、ということが分かった。

もちろん「すみ切り門」は最高だ。しかし「すみ切り塀」もいい。

住宅はプライベートなものなので、店舗などに比べると「立ち入り禁止」をはっきり示す。塀はその最たるものだ。結果として「すみ切り感」が強くなる。だから良いなあ、と思うのだと思う。

1ページ目にしてはやくももはや何を言っているのかわからなくなってきていると思うが、続けます。

店舗のすみ切りも、いいのよ。「不思議なことに気がついた」についてはその後に申し上げます。
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店の正面をすみ切りに!

住宅が門なら、店舗の場合はやはり正面をすみ切りに持ってくるのが最高だ。
いずれもすみ切り面を店の入り口正面にしている例。すてき。
住宅の場合でも角地は陽当たり的に重宝されるが、店でも角地は好まれるはずだ。上の写真の上段2つ、花屋と八百屋はその典型だ。

以前「角のタバコ屋めぐり」という記事でなぜか角の立地に多い(気がする)タバコやを取り上げたが、おそらくあれはタバコの販売が許可制であり、結果として界隈でもっとも有力な商店がその権利を取得したからではないか。つまり角地という立地は商店にとってとても有利であるということの表れなのではないか。

なにが言いたいのかというと、そういう貴重な角地、しかもすみ切り敷地であれば、それを大々的に利用しない手はない、ということだ。
一方、すみ切りを看板・広告に活用しているものの、正面入り口にまではしなかった例。商売の種類にもよるでしょうが、すみ切り趣味からすると、実に惜しい。嫌いじゃないけど。

すみ切りではないかのようなすみ切り

さて、これまで見てきたものは、なんだかんだ言って「あ、すみ切りだ」と一目で分かる物件ばかりだった。

実はこういう例ばかりではない。中には敷地は確かにすみ切りなのに、建築側があまりすみ切っていない例も多くある。
かくかくしてて「すみ切り感」にとぼしい。もったいない。
こういう事例だ。たぶん全国のすみ切りビルを調べたら、こういうかくかくしてるものの方が多いと思う。かくかくしてる方が作るの楽そうだし。

少数派だからこそ、すぱっとすみ切り境界線どおりに斜めに切れている建築にぼくは惹かれたのかもしれない。
そういう意味では、こういう角を丸めたビルがもっともすみ切りに意欲的と言うことになるのかもしれない。
で、気がついたのは銀座4丁目の和光ビルこそ「丸めたすみ切りビル」の代表ではないか、ということだ。
で、気がついたのは銀座4丁目の和光ビルこそ「丸めたすみ切りビル」の代表ではないか、ということだ。
考えてみれば、銀座4丁目は、和光ビルが丸めたすみ切りビルで、三愛ビルはさらに丸めてついに円筒に。三越はすぱっとすみ切って、現在建て替え中のサッポロのビルはかくかくだった。

やはり日本を代表する交差点だ。各種すみ切り方を取りそろえているというわけだ。
これは一見すみ切ってないように見えるが
これは一見すみ切ってないように見えるが
すみ切り境界線が庇部分に表れてる! こういうのすごくいい! 興奮する。
すみ切り境界線が庇部分に表れてる! こういうのすごくいい! 興奮する。
こちらも建物は角が立っているが
こちらも建物は角が立っているが
よく見ると階段にすみ切りが浮かび上がっている! しかもその斜め部分の階段はなくても機能的には問題なさそうなのがいい。すみ切りを表現したかっただけとしか思えない。こういうのいいなあ!
よく見ると階段にすみ切りが浮かび上がっている! しかもその斜め部分の階段はなくても機能的には問題なさそうなのがいい。すみ切りを表現したかっただけとしか思えない。こういうのいいなあ!
今回見た中で「角の象徴性」を感じたのは、このスーパーのビル。
今回見た中で「角の象徴性」を感じたのは、このスーパーのビル。
角に奉られている。いわゆる「正面」とも「裏手」とも違う何かが「角」にはある。
角に奉られている。いわゆる「正面」とも「裏手」とも違う何かが「角」にはある。

板橋の謎の「すみ切りエリア」

さて、いよいよ冒頭で言った「不思議なことに気がついた」だ。

ここまで紹介したすみ切りは、すべて東京は板橋駅前のあるエリアのものだ。

全国にいくらでもすみ切りはあるのに、なぜここを選んだのか。それはこの街の一部が奇妙にすみ切っているからだ。
この部分。板橋駅前、北西から南東にかけて一部分だけまわりと違うのが分かるだろうか?
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黒の部分だけ、道幅も広くすみ切られているのが分かる。ふしぎだ。
上の道路以外の部分を塗りつぶしたものなら分かりやすいだろう(表示している地図範囲の四隅が塗りつぶされていないのはめんどくさかったからです)。

黒エリアの交差点はほとんどがすみ切られている。前ページまでのすみ切り事例は、これらだ。

先日、用事があって板橋駅に行った。初めて降りた駅ということもあり、地図を見ながら歩いているうちに、上のようなエリアによる道路の違いに気がついたしだいだ。

黒エリアとグレーエリアの間の道を歩いていると、左右の道幅の違いがおもしろい。黒エリアでは比較的太い道だったのが、グレーに入ったとたん路地風味になるのだ。
黒エリアの北東境界線の道を行くと、こんな感じ。左が黒エリア、右がグレーエリア。
黒エリアの北東境界線の道を行くと、こんな感じ。左が黒エリア、右がグレーエリア。
同じ北東の境界線道路を歩く。黒エリア側の道はこんな。
同じ北東の境界線道路を歩く。黒エリア側の道はこんな。
後ろを振り向いてグレー方向を見ると、こんな。
後ろを振り向いてグレー方向を見ると、こんな。
南西の境界道路を行くと、こんな。
南西の境界道路を行くと、こんな。
黒エリア内からグレーエリア方向を見る。道が狭くなっているのが分かる。
黒エリア内からグレーエリア方向を見る。道が狭くなっているのが分かる。
道が狭くなるどころか、グレーエリアに入ったとたん道がなくなる箇所も多い。
道が狭くなるどころか、グレーエリアに入ったとたん道がなくなる箇所も多い。
道の幅とすみ切りに加え、黒エリアには街路樹があるが
道の幅とすみ切りに加え、黒エリアには街路樹があるが
グレーエリアの道幅ではそれもかなわない。その代わり各家の自前の庭木・鉢植えがグリーンを提供する。これって興味深い。
グレーエリアの道幅ではそれもかなわない。その代わり各家の自前の庭木・鉢植えがグリーンを提供する。これって興味深い。
グレーエリアでは行き止まりも多い。
グレーエリアでは行き止まりも多い。
まあ、こんなにくどくどと写真を並べ立てるまでもなく、本ページ最初の地図を見れば一目瞭然で、つまりこれは黒エリアだけ区画整理されている、ということだ。

ある一部地域だけ整備されてて、そのとなりはぐちゃぐちゃ、っていうのはよくわることで、べつに珍しくない。

ただ、この街の場合、その理由が面白かったのだ。

実は戦災復興の違いだった

黒エリア内の公園にあった看板(整備された街には公園がちゃんとある)。ピンクが黒エリアに相当する。地番でいうと滝野川七丁目。ここは北区と豊島区の境界なのだった。
黒エリア内の公園にあった看板(整備された街には公園がちゃんとある)。ピンクが黒エリアに相当する。地番でいうと滝野川七丁目。ここは北区と豊島区の境界なのだった。
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前ページ最後の看板地図で分かるように、ようするに滝野川7丁目だけが整備されているわけだが、なぜそうなったのか。

この街は「谷端復興区画整理事業」という、戦後復興事業がなされたエリアだった。

そして戦後復興都市計画においては、道路の整備とともに、すみ切りが奨励されたという。だから黒エリアにはすみ切りが多く、その周辺には見られなかったのだ。
赤い部分が空襲で焼けた部分。黒エリアとグレーエリアの北東側境界線は焼け野原になったか否かの違いであることがわかる。
上の図は、以前三土さんが「焼け野原にならなかった東京めぐり」で感激していた国際日本文化研究センターの「戦災消失区域表示・帝都近傍図」を元に当該エリアを色分けしたもの(目測なので正確ではありません)。

黒エリアとグレーエリアの北東側境界線、つまり谷端復興区画整理事業の北東側は滝野川7丁目の境界であると同時に、戦災で焼けたかどうかの境界でもある。

なぜ丁目の境界で明暗がわかれたのかというと、おそらく地形によっている。
問題の北東境界線は崖線だ。(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュをSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
問題の北東境界線は崖線だ。(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
たぶん、崖で焼け止まったのだ。崖が、町の境をつくりそして火を止めた。
黒エリアからこの境界線方向を見ると、このようにぐっと地形が盛りあがっている。これで火が止まったのか…。
黒エリアからこの境界線方向を見ると、このようにぐっと地形が盛りあがっている。これで火が止まったのか…。
対照的なのは反対側の南西方向だ。上の戦災消失地図を見ても分かるように、こちらはグレーエリア内も消失している。
1947年の様子。オレンジの線内が黒エリア。北東側境界はきれいに焼けたかどうかの違い(崖線)だが、南西側はグレーエリアも消失している(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・M377/写真番号・122/ 撮影年月日・1947/07/24(昭22)に加筆)
1947年の様子。オレンジの線内が黒エリア。北東側境界はきれいに焼けたかどうかの違い(崖線)だが、南西側はグレーエリアも消失している(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・M377/写真番号・122/ 撮影年月日・1947/07/24(昭22)に加筆)
おそらく、区画整理事業が自治体単位で行われたため北区と豊島区の境界で差が出たのだろう。

つまり、黒エリアとグレーエリアの違いは、北東側においては焼けたかどうかという「被害」で決まり、南西側は区界という「事情」で決まったのだ。これは興味深い。

それにしても三土さんが焼け野原にならなかったところをめぐったのに対し、ぼくは結果的に、逆に焼け野原になったところに興味を抱いたわけだ。これもおもしろい。
ちなみに崖を作ったのは現在は暗渠になっている谷端川という川。(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュをSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
ちなみに崖を作ったのは現在は暗渠になっている谷端川という川。(国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」5mメッシュSimpleDEMViewerで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
板橋駅ホーム下の歩行者用横断通路は、どうやらかつて谷端川が流れていた場所のようです。
板橋駅ホーム下の歩行者用横断通路は、どうやらかつて谷端川が流れていた場所のようです。

すみ切りは戦災のサイン(かもしれない)

単に「すみ切りの建築っておもしろいなあ」と軽い気持ちで始めた今回の試み。実はそのすみ切りが戦災に関係しているとは思わなかった。
建て替えや再開発によってもすみ切りはできるが、なかには戦後がんばって区画整理した証拠であるかもしれない。

…なんか最後理屈っぽくなってしまったが、えーと「すみ切りの建築ってなんかいいよね」っていうのが言いたかっただけです。いいよね、すみ切り。
このすみ切りすごくて、よく見ると…!
このすみ切りすごくて、よく見ると…!
すみ切りを彩る屋上まで伸びるサボテン!
すみ切りを彩る屋上まで伸びるサボテン!

【告知】2015/08/01「スリバチナイト3」開催

キャプション1
キャプション1
地形好きのみなさん、お待たせしました。1年ぶりに「スリバチナイト」開催です。

ブラタモリなどですっかり有名人になっちゃった「東京スリバチ学会」会長。今年もぼくも登壇して地形ネタを繰り広げます。

ぼくは「マンションポエム」と地形についてお話しする予定。けっこうあるんですよ「地形ポエム」。

本記事UPの翌日、2015/08/01の18時からカルチャーカルチャーにて。詳しくは→こちら
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