神様のつくった団地へ
そもそも何をしにフランスに行ったのかというと、主にある団地を見るためだった。
これが見たかったのだ!団地界の巨人。フランスはフィルミニのユニテ・ダビタシオン(大きな写真は
こちら)
感無量です(ちなみに行ったのは初夏で、この明るさで18時ぐらい。遅くまで団地巡りができる。緯度が高いってすばらしい)。
団地マニアとしてならしているぼくだが、海外の団地についてはそれほど経験がない。デイリーポータルZライター仲間の萩原さんは
スイスでダム巡りをしていたが、ぼくは韓国で2泊3日の団地巡りをしたことがあるぐらいだ(→「
韓国は団地天国だった」)。いつかヨーロッパの団地を見てみたいとずっと思っていた。それが叶った。うれしい。感涙。うわーん!
団地前のバス停の名前もこの通り。
このユニテ・ダビタシオンという団地はル・コルビュジエというモダニズム建築の神様のような人によるもので、語り出すと長くなるのでやめておくが、とにかく素晴らしいのだった。
あ、一言だけいっておくと、数あるコルビュジエの建築の中でもこのユニテ・ダビタシオンが群を抜いて現役まっただなかであることに感動した。そう、団地はそう簡単にオブジェにはなりさがらないのだ。さすが団地。
で、この団地の見所であるバルコニー部分を見て気がついた。「そういえばフランスって、窓凝ってるよなー」と。
バルコニーのいかした配色。
よく見ると大胆な自転車収納が行われている。だいじょうぶかしら。
窓意識高い
この旅では団地だけでなく、パリとリヨンの中心部、いわゆるいかにもおフランスな感じの街並みも見たのだが、印象的なのは窓だった。上の団地のバルコニーといい、時代や様式は異なれど、窓意識が高いのは伝統なのではないかと思ったのだ。
外壁というか、主に窓の集合。
フランスにも「角のタバコ屋」がたくさんありそうだった。これ集めるためだけにまた行きたい。
いちど窓が気になったら、もう窓だ。気がつけば窓の写真をたくさん撮っていた。
ということで、意識の高い窓たちを見ていただきたい。
ほんと、なんでこんなに窓まわりに凝るのだろうか。
ひさしがゴージャス
あらかじめお断りしておくと、学生時代建築を少々かじったものの、なにひとつ身についておらず、様式などに関してもとんと疎いので、以下に書くことはもっぱらぼくの印象にすぎず、全体的にてきとうです。つまりいつも通りです。
なので、テキストは真に受けず「いろんな窓まわりがあるねえ」ってぐらいで写真をばーっと見ていただければ。
さて、日本の窓(って何かの比喩っぽい言い方)と比較するとまず違うのがその窓まわりのゴージャスさだ。とくにひさし。
なんか人いるし。ひさしに。
ひさし、と書いたが、これはひさしではないな。なんというのだろう。この窓の上の部分。軒でもないし。
石やレンガで外壁を作る場合、窓の上辺はアーチ型になり、作り手の意識がそこへ向かうのは分かるのだが、それにしても、と言うぐらい盛ってくる。たのもしい。
窓っぽい造形のうち、実際の開口部が占める割合は3まわりぐらい小さい。
日本だったら苔とか小さい雑草だらけになっているだろうなー、という凹凸ぐあい。
アーチの頂上にあるくさび形のものはいわゆるキーストーンか。これの場合、実際構造上意味があるのかどうかは分からないけれど。そうか、一連のゴージャスひさしは、これの装飾がだんだんエスカレートしていった結果なのかもね。
このぐらいだと「シンプルだね」とか思ってしまう。
窓の上に本棚ですか、って感じ。
吠えてる。開口部ならではの魔除け的なものか。瓦屋根のシーサー的な。
もはや窓部分に小さい建築物がいる、って感じだ。
よくわからないまま「ひさし」と書いてしまったが、よく見ていくとやっぱりこれはあんまりひさしじゃない。先日
バンコクでのらいぬを見て回った記事を書いたが、かの国の窓は本気でひさしだった。
かなりの充実したひさし。あと手前上空の高架もかっこいい。
彫りが深い。
軒が深い。
もちろんこれは陽ざしが強い国だからだ。あとスコール。これと比較するとフランスなんかは、気候的にはなるべく多く光を入れたいはずで、窓まわりに凝れるのも本気で陽ざしを遮る必要がないからなのだな、と思った。
それからすると、観音開きガラス部分の上部、金属製のレース模様のようになっている部分がかろうじて「ひさし」の名にふさわしい箇所かも。
ザ・穴
かと思えば、こういうシンプルなものも。箸休め的な窓。
前ページ冒頭でうかつに「日本と比べると」なんて書いてしまったが、考えてみれば日本に窓はあったのだろうか。
って、また建築の歴史をまったく何も知らないでこういうこというのも何だけど、木の柱と梁で建物つくって、柱と柱の間がぜんぶ開口部になっちゃう日本建築って、なんか窓じゃない気がする。
当たり前のことだが、窓って、まず壁で空間が閉じられていないと成立しないのだ。つまり穴なのだな。建築における日本の近代化とは「窓化」だったのではないか。それっぽいこと言ったぞいま。
フチ取りカラーリングがかわいいシンプル物件。
きけばフランス語の「窓」"fenêtre"は、ラテン語の "fen?stra"に由来するそうで、これはずばり「穴」の意味だそうだ。
ちなみに英語の "window" は予想通り「風」の意が含まれているそうで、壁に穿たれた開口部が持つ、より機能的な側面を指しているのが興味深い。
日本語の「まど」似関しては、「ま」は「目」だという説があるようだが、いまひとつはっきりしなかった(
YKK AP「窓研究所」コラムより)。詳しい方がいたら教えて欲しい。
で、フランスには装飾過多な窓ばかりではなく、まさに「穴」って感じのものもあった。それが上のものなどだ。
これもデコラティブといえばデコラティブだが、かなり穴っぽい。いいな。
ちょうつがいも雄々しい。
日本だったらかなりしゃれた窓だが、ここで見るとかなり慎ましい。そしてなんか壁面が湾曲している。
しゃれてるんだけど、現地の方々は何とも思ってないみたいで、こうやってアンテナ線などが無造作につけられてたりしてほっこりする。ほっこりの使い方間違ってますか。
ただ、ぼくが今回主に見て回ったのがリヨンという都市で、ここはルネッサンス様式の建物が多く残っていることで有名な場所なので、そういう時代のものが穴っぽい、ということなのかもしれない。うーん、やっぱり様式の勉強ちゃんとしとくんだった。
「トラブール」がすごかった!
その、ルネッサンス建築でいうと、トラブールめぐりが楽しかった。
トラブールという立て込んだ建築内の楽しい抜け道のひとつ。なんなの正面の階段!
くねくね迷路のような抜け道を行った先で、急に小さい広場みたいなところに出た。上を見上げると、こんな。
夢中であちこち入り込んで歩きました!
リヨンの旧市街名物「トラブール」。上下左右複雑に入り組んだ建物内の抜け道だ。第2次大戦中には、レジスタンスの道として使われたこともあるという。かっこいい。
ここらへん一帯は、川沿いの小高い丘にあって、道が地形に左右されている。なので、となりの筋に行くためにいったん通りに出なければならない、というようなことが頻繁にあった。
それもこのトラブールを抜けるとショートカットできたりする。建物所有者によって解放されたりされなかったりするらしいが、おそらく地元の人たちにとっても重要なものなんじゃないだろうか。
こんなふうに川を見下ろす丘。日本にはあんまりこういう地形ないよね。地質が固いんだろうか。
いかに起伏に富んだエリアかは、これを見てもわかると思う。駐車テクニックが必要そう。
何の話だっけ。
そうそう、で、このトラブールがある建物の多くがルネッサンスの建築なんだそうだ。
また囲まれた広場に。かっこいい!そして窓が「穴」っぽい(複数の写真をつないだのでこんなエッジになってます)。大きな画像は
こちら。
まるでダンジョンみたいで楽しかった。また行きたい。近所にあればいいのにトラブール。
埋められている窓がたくさん
さて、なんかただの旅行ブログみたいになってきている。すまん。 でも続ける。
フランスまで行って、窓ばかり見ていたらあることに気がついた。窓の跡がけっこうあるのだ。
こんなふうに「元窓」とおぼしき跡が。
左1列、埋められてる。
それこそひさしだけが残っていたりしてかわいい。
なんなんだろう、と不思議に思って調べたら、どうやら昔(フランス革命後~第一次大戦まで)窓の数で課税する「窓税」というものがあって、それを回避するために窓をなくした跡なのだとか。
なんと!税金対策とは!
そんなふうに窓つぶしてだいじょうぶなのか、と思っていたら、泊まったホテルの平面図がこんなで。敷地が平行四辺形だというのもあるが、それにしてもこの効率の悪い間取りはなんだ。窓つぶしたせいか。
ふたたび神様へ
気候、建築素材、税金などでフランスの窓がこうなっているのだということがおぼろげに分かった。あと、みんな同じプロポーションの縦長だ。床まで窓で、観音開き。いわゆる「フレンチ・ウィンドウ」だ。
よく考えたら、これ窓っていうよりドアだね。フランス人は壁に開いた穴を通じてそのまま外に出たい心持ちでいる人たちなのだろう。
それでいうと、この窓って画期的だったんだろうなー。
上の写真は、冒頭の団地の作者、ル・コルビュジエの代表作サヴォア邸だが、ひととおり窓に見入ったあと、ここをおとずれると、この窓がいかに画期的だったかがよく分かった次第。なるほどねえ。
あと同じコルビュジエのこの教会(教会なんですこれでも)
中はこんな!キュートな「窓」からの光が印象的。まあ教会だからっていうのもあるけど、これも「いったん壁でふさいでそこに穴あける」っていう窓の定義のお国柄なんだよなー、と思った(大きな画像は
こちら)
デイリーらしからぬ、真剣な窓考察になってしまった
いつになくまじめ(?)な内容になってしまったので、さいごにフランスの
共食いキャラをどうぞ。
レストランのお品書きにかなり直接的な表現で「支配層ブタ」と「食べられる側ブタ」のヒエラルキーが。フランス革命はどうした。
共食いピクニック。子供もいっしょっていうのがつらい。
仲間の肉を運ぶブタ。前のブタは良心の呵責でか倒れかかっている。
フランス語が堪能な友人に訳してもらったところ「ブタの魂に誓って…なんでも旨い!」とのこと。仲間をそんな下半身ハダカエプロンで売るなど、魂があるとは思えない。