なんかいいよねえ、角のタバコ屋。ぼくタバコ吸わないけど。
「角のタバコ屋」という慣用句がある。
いや、慣用句っていうのかな、よく小説やマンガなんかで登場する言いまわしだ。
それほど、角にはタバコ屋があるものなのか?ここはひとつ角のタバコ屋を探してみよう。
そういう作品が見当たらない
じつはこの「角のタバコ屋」さがし、以前コネタ城で記事にしたことがある。
一度気になると、その後も探し続けるのがぼくの癖だ。しつこいのだ、ぼくは。こういう時だけ。というか、すっかり惚れ込んでしまったのだ。角のタバコ屋に。タバコ自体は好きじゃないけど。
で、その記事でも本記事の冒頭でも「マンガなどに登場する角のタバコ屋」と書いたが、いくら探してもそういう場面がある作品がみあたらない。
おかしいな、確かに読んだことがある気がするんだけど。よく出てこない?サザエさんあたりに。「角のタバコ屋」って。
しかしタバコ屋はたくさんある
まあいいや。問題は作品ではなく「角のタバコ屋」の存在なのだから。
コネタ城で手応えは感じていたが、これが想像以上にたくさんあるのだ。タバコを売るためには国の許可が必要だそうだ。「小売販売業許可申請」というものらしいが、その項目の中に「店の立地は角であるかどうか」というのがあるのではないかと思うぐらい。
東京の神田駅前にある角のタバコ屋。これはかなりすてきな角のタバコ屋だ!個人的には角のタバコ屋ベスト3に入る。
こちらは大阪の鶴橋の商店街にあった。
こちらは鹿児島の物件。こうやって旅先でも角にタバコ屋を探す癖が付いてしまった。
「角感」だいじ!
どうだろうか。いいよねえ、角のタバコ屋。なんでこんなにすてきなんだろうか。
上の写真撮った日にちを見て自分でびっくりした。2008年だった。このときすでに角のタバコ屋を撮り始めていたのだ。隣奥に見えるのは、同年
記事にした「デビル」だ。
で、このように全国に分布する角のタバコ屋だが、見ていくうちに「ぐっとくる角のタバコ屋」とそうでもないものとがあることに気がついた。
それはやはり、角であることに自覚的か、角であることを活かしているかどうかだと思う。いわゆる「角感」である。(いわゆる?)
角をぐるっと
装テン(装飾テント)がめぐらしてあるのは基本。当然ながら、このぐるりは角ならではであり、角感の強調には欠かせないアイテムである。なんてことない建築に真っ赤なぐるり装テンがみごと。
こちらもセオリーに忠実なぐるり装テンだが、いまひとつぐっとこない。なぜだ。たぶん片面がすべて自販機で覆われているせいだろう。これでは角の意味がない。
こちらは、ビル自体が角に面取りしてある物件のタバコ屋!これはかなりの角プレイだ。だが…
なにやら改装中であった点も残念だが、そもそもその貴重な面取り角を自販機でつぶしてしまうという蛮行。あたらせっかくの角を。もったいない。
こちらは、角には違いないのだが、大きな交差点のため、角感に欠けるのが惜しい。九段下の交差点である。しかしそれでも装テンをめぐらせ、窓口を極力角に持ってくるというけなげさがいい。この頑張り屋さんを見るに、ひとつ上の物件に腹が立つ。持って生まれた幸運をむざむざと捨ててしまうという行為がいちばん許せない。ってなんでぼくはこんなに憤っているのか。
こちらは国立の作品。「ないものはない」とは大きく出た。装テンは別デザインでかつ位置も段違いのセパレートタイプ。ぐるりとはしていないが、窓口が「ジャスト角」に位置している点と、そのデザイン、なにより自販機を脇に追いやって角感を大事にしている点がすばらしい。ないものはない。きっとそうなんだろうな、と思わせる見事な角。
自分の恵まれた境遇にまったく気がついていないタイプ。もっと角を大事にする方に譲ってはどうか!まったくもう!
こうやってみていくと、いかに角感を大事にしたタバコ屋が貴重なものであるかがよくわかる。文中のぼくの憤りも、角を愛するがあまりの苦言であると思ってほしい。
恵まれた環境に生まれた人にはそれを活かす義務があると思うんだ。美人は過剰なギャルメイクとかすべきではないし、美脚の女性はミニスカートを履くべきでしょ?それと同じだ。なにか変なこと言ってますかね、ぼく。
要するに、角界においてもノブレス・オブリージュが存在するべきなのだ。というか「角界(かどかい)」って感じで書くと相撲だな。以下「カド界」と表記しよう。土俵に角あればいいのにね。
それからすると、最初に紹介した神田の作品はすばらしい。窓口がジャスト角!ほんとこれはすばらしい!小一時間見つめていたい逸品。だいたい、角自体が鋭角だしな!
インターネットってすばらしい
さて、ぼくがこうやって角のタバコ屋を追い求めていることをtwitterでつぶやいたら、みなさんからたくさんの「角のタバコ屋情報」をいただいた。
すばらしい!みんなありがとう!
こういうのって、団地や工場と違って効率よく探す方法がないので(さすがのgoogleも角のタバコ屋の所在地リストは出してくれない)実際の出会いにかけるしかないのだ。だから、みんなの情報はとてもありがたい。
以下がみなさんからいただいた情報のうち、場所が特定できたものをマッピングしたものだ。おそらく世界初ではないか「角のタバコ屋マップ」。
いただいた「角のタバコ屋情報」のうち、写真を送ってくれたものをご紹介しよう。
いやほんと、これがまた良い角なのよ!みんな分かってるね!
@easykenさんより。「クラシックスタイルの角の煙草屋」との評をいただきました。注目すべきは2階部分は角が立っているのに、タバコ屋部分は面がとってある点だ。角を大事にした佳作である。すてき。
@mitakasoundさんより。「ぶらぶらしてたら角のタバコ屋、ありました。」とのコメント。ぶらぶらしてても目は光らせていますね!この作品が素晴らしいのは面取りもさることながら、「
角の石」の存在だ。険しい角ほど角の石がある。この角がとても角であることの証拠だ!そしてさらに、右が上り坂であること。よく見ると、右側のシャッターが段々になっている。つまり、この角は高低差方向的にも「角」であるといえるだろう。「角・ホール・オブ・フェイム」入り間違いない。
角、新時代。
@miyahoさんより。何が新時代って、装テンも回ってないし、一見「角の無駄遣い」なんだけど、角右側がすごく自分ちの玄関っぽい。つまり、角がもたらす二面性を、店の顔と自宅の顔に振り分けることで、いままでにない形で角感を訴求しているということだ。これはやられた。何言ってんだぼく。
さらに寄った一枚も送ってくれた。ありがとう!ジャスト角が見事な窓口となっている。これはほんとうにすてきだ。
カド界の問題作。
@oda_shinさんより。「右の小窓の気になるタバコ屋です」とのコメントをいただいた。確かに!なにこれ!店自体はまったく角の無駄遣いなのだが、この窓の存在によっていままでにない形で角感を醸し出している。きっとこの小窓を使った密室殺人トリックが行われているに違いない。あと手前の標識の頭がとれちゃってるんだけどだいじょうぶかしら。
それにしてもみんなよく撮ってるよなー、もしかして角のタバコ屋鑑賞家はたくさんいるのか?!と思ったけど、恐らくすてきな建築物なので撮ってあって、いわれてみたら角のタバコ屋だった、ってことなんじゃないだろうか。なので、上のもののように、なんだか良い感じの建物の投稿が多かった。
下のものもそうだ。
「前に撮った写真ですが」という
@wppeppさんよりの角のタバコ屋。これはタバコ屋かどうかと関係なく撮っておきたくなるよ!
詳細な場所もいただいたので、ストリートビューで見てみたらあなた!これは見に行かなきゃ!って建築だった。
全部見に行きたい!
前ページで書いたように、いままでに撮ったものの中からお送りいただくと、おのずと珠玉の作品に偏る。見ればみるほど見に行きたくなる。しかし、首都圏以外のものだと、おいそれとは行けない。こういうときひょいと出かけるためにぼくはお金持ちになりたい!
これも
@yazfuruさんより。かなり良い感じの窓口の跡。ジャスト角に自販機だが、この収まり方はすてきだ!看板の形もかわいいなー。
そしてこれも
@yazfuruさんより。すてきだ。@yazfuruさんすごいな!ふだんからそうとう撮っているとみた。それにしてもこの角の石は道祖神かなにかだろうか。こういうすてきな角アピールもあるのか!上には上がいるものだ。
@pipipi163さんより。清水の物件。これを見るためだけに清水に行きたい!商店街の角っていいな!しかも「次郎長通り商店街」。それにしてもほんとに角面だけにタバコ屋ってすごい!純粋角のタバコ屋だ。
これはその名も
@roadexplorerさんという、尊敬すべき国道趣味(→
参考)の方から。ほんといろんなところに出かけていらっしゃる方で、すぐさまこういうすてきな物件を送ってくださった。上は栃木、下は枕崎だそうだ!もはや角かどうかは関係なく味わい深い。
全部は見に行けないものの
みなさんのを見ていると、あらためて角のタバコ屋をめぐってみたくなる。これを読んでいるみなさんもそうだと思う。ね。
で、全部は見に行けないが、まずはこつこつ近場のものから鑑賞しに行こう、と過日出かけた。
なんとなく、地形図に重ねてみた。渋谷川のほうから尾根を越えて神田川の方まで歩いたわけだ。角のタバコ屋求めて。(
東京地形地図をGooleEarthで表示したものに重ねた)
初台近くの作品。左側の面がやや残念な感じだが、窓口の「ここが窓口ですよー!」って感じの作りが補っている。トータルでなかなかの角感。
こちらは東大附属中の脇にある角のタバコ屋。
いまひとつ面白味に欠けると言わざるを得ない。まじめだ。付属、って感じだ。なんだそれ。
そして新宿中央公園の北西の端、熊野神社の向かいに角のタバコ屋があることを知っていたか?ぼくは知らなかった。
大きな通りの角であるために、角感に欠ける上、オープンな窓口が惜しい。角のタバコ屋はやはりこぢんまりがいいのだなあ、と思った。いや、嫌いじゃないぜ。
いやはや、なかなか渋い角のタバコ屋を見つけてくるな、小林さん。彼はこれ以外にもたくさん見つけてくれている。1台コインパーキングを見つけるのが上手いと、こういうのも上手いのか。あれか、将棋の羽生善治さんがチェスも上手い、みたいなものか。ちがうか。
ちなみに1955年~60年までの地図でここを見ると、このタバコ屋があるばしょは「角」ではない!角歴が浅いゆえの物足りなさか。あと20年ぐらい寝かせたい。(iPhoneアプリ「
東京時層地図」より)
確かに窓口もしっかりある、なかなかの角のタバコ屋さんなのだが…
全体としては、うなぎ、天ぷら、そして、寿司。
これまでの経験から、「大山商店」のような屋号を持つ、比較的古くから日用品や雑貨を扱う絵に描いたような商店がタバコ屋としてもふるまう、ということが分かってきたのだが、ここへきてうなぎ。
現時点でのナンバーワン角のタバコ屋とは!
そして、この日めぐったものの中に、角のタバコ屋の最高峰を見つけたのだ。前ページの地図の最後のひとつ。山手通りと大久保通りの交差点の近く。これはぜひみんなも見に行ってほしい。
ザ・角!これはすばらしい!
これに角を感じずに何に角を感じるのか、という鋭角の切れ味!
先ほどと同じく「
東京時層地図」で見ると、蛇行する小さい川の跡がもたらした由緒正しき鋭角であることがわかった。角に歴史あり、である。
そしてその頂点に窓口を配置。木枠のまま、足下はタイル貼り!あまつさえ曲面でサイドに繋げるという、角に自信がなければなしえない意匠!完璧である。
完璧だ。タバコ好きじゃないけど、この店は末永く残ってほしい。
今後もめぐっていきます
結局冒頭に書いたように「角のタバコ屋」が出てくる物語は見つからなかったが、意外な作品に登場することがわかった。吉田拓郎の「消えていくもの」という歌の、出だしが「僕は角のタバコ屋さんが好きだった」 なのだ!なんだ、拓郎、そういう趣味?一緒にめぐる?
この歌ではそのタイトルの通り、消えゆくものの象徴として角のタバコ屋が描かれているわけだが、安心してほしい。まだまだたくさんある。
今後もめぐっていきます。みなさんからの「角のタバコ屋情報」もお待ちしております。 (今回教えてくれたのに紹介できなかったみなさんごめんなさい!)
川崎にあるこの角のタバコ屋、なんと「二重」に角なのだ!
裏にあったらしき住宅がなくなって、両サイド「角」!今後こっち側にもぐるっと回り込んでほしい。