上野の西郷さんは何を見ているか?
銅像といえば上野の西郷さんである。なのであるが、わたし、じつは上野の西郷さんをちゃんとみたことがない。上野なのはわかるが、どこに立っているのか。
いた。
上野の山の上に立ち、昔は遠くからでもよく目立ったという西郷さん。上野公園の入り口を入ってとりあえず階段をのぼったら、すぐいらっしゃった。まわりには、記念写真を撮る人たちが絶えず、大変な人気者のようである。像の前で「東京」と書かれたガイドブックを広げる親子の姿もあった。ザ・上野。
正面から。堂々たる風格。あと犬がかわいい。
そして、この位置で振り返ると、こんな感じ。
おお、この振り返り視点、なかなか新鮮である。じつに人気者の西郷さん、見上げて写真を撮っているひとがたくさんいる。が、西郷さんの視点はやや斜め左上だ。斜め左上…ちょうど、ヨドバシカメラのビルに描かれたパンダがあるな…。あのパンダ、唐突な登場に、たしかに上野につくなりわたしも気になってつい視線がいってしまった。
さらに銅像うしろからの図。うん、パンダ、見てるね。
答え:ヨドバシカメラのパンダを見ている
退屈しなそう度 ★★
ややいぶかしげな視線で新参者のパンダを眺める西郷さんなのであった。愛犬の「ツン」も同じ方向を見ているのがほほえましい。
野口英世は何を見ているか
それにしても、うっかり紅葉まっさかりの上野公園にきてしまった。人出が多くて大変だが、それ以上に目に入る景色がシンプルに美しくて心が洗われる。
つづいての登場は野口英世博士である。
同じ上野公園にたつたくさんの銅像のなかで、歴史知識に疎いわたしでもかろうじて知っていた、もうひとりの人物が、野口英世先生だ。
振り返ると、こんな感じ。
野口博士の銅像は木立の中にある。じつにのどかな秋の休日、という感じだが、視界が開けないのでやや退屈そうだ。
うしろからはこんな感じ。なにやら、手で指し示していらっしゃるな。
あ、試験管持ってるのか!
試験管を手に持ち、研究に邁進する野口博士。退屈とは無縁の人生なのであった。
答え:試験管を見ている
退屈しなそう度 ★★★★★
どんなにカメラを向けられようと、完璧試験管目線。もう夢中。
余談その1
今年香港に行ってきたのだけど、美術館で「香港の現代アート2012」の入賞作品展(っぽいやつ)をやっていて、これがとってもおもしろかった。
いきなりジャンクションの巨大な横長写真から始まるし。大山さんの写真展か。
ほかにも、香港の建物の屋上をひたすら撮ったものや(香港は新しい建物ほど高いので、屋上を見おろし放題なのだ)、
坂道に建つキオスクをひたすら撮ったものとか(香港島に渡ると坂だらけなのでこのキオスク、いっぱいあった)。
こういう、同じものをひたすら撮り続ける写真をアート界ではタイポロジーというのは知ってる。が、ものすごくデイリーポータルに近い偏愛のようなものを私は感じて嬉しくなっちゃったのだ。
この、坂道に建つキオスクをひたすら撮ってるアーティスト、Yan Kallenさんのサイトに、
Facing Realityという興味深いシリーズがあった。銅像のみている風景をうしろから撮る、というものだ。おもしろい。わたしもちょっと東京でやってみよう、と、今回はそういう企画だ(無謀)。
大村益次郎は何を見ているか
次にどの銅像を見に行くか、と悩んでいたら、悩むまでもなく、「東京三大銅像」と呼ばれるものがあるらしい。上野の西郷さんと、靖国神社の大村益次郎像、そして皇居外苑の楠木正成騎馬像の3つ。ほほう。
というわけで靖国神社にやってきた。相変わらず、木々の紅葉と空とのコントラストが美しい。
参道の真正面のいい位置に彼は立つ
大村益次郎さんといえば、戊辰戦争などで活躍された軍人だが、靖国神社の前身である東京招魂社の設立に貢献したことから、ここに銅像があるのだそうだ。
かなり高い銅像。下から見上げると、しかし、参道真正面ではなくやや左方向に身体をひねっていらっしゃる。
ひねった方向にあるのは、木。
その先には慰霊の泉などがあるようだが、益次郎さん建立時にはまだなかったものだ。はて、なにを見ていらっしゃるのだろうか。もう少し引いた場所から、彼の目線の高さに何があるのかを見てみる。
あ、空を見てるのかぁ~
鳥居の真正面にはオフィスビル街が広がるが、斜め左方向は学校が多く、視界が開けているのだ。なるほど。いや、うっかり「なるほど」とか思ってしまったが、ただの自分の妄想である。
大山巌は何を見ているか
靖国神社を出て少し坂をくだった皇居のお濠の脇に、大山巌さんの銅像がたっている。大山巌さんは、従兄弟の西郷さんの銅像建立に尽力したそうだが、ご自身の銅像もあるのだから立派なことである。
立派な騎馬像
大山巌さんのことは無知なわたしも知っていた。なぜなら、今やっている大河ドラマ『八重の桜』で目下活躍中だからだ(反町隆史さんが演じてらっしゃいます)。薩摩のひとだけど、会津出身の女子留学生(こちらは水原希子さん)と再婚したんだよね。
目線はシンプルに、目の前の靖国通りを行き交う車に向けられている
が、馬と目が合って怖い。
反対側にまわりこんでもまだ目が合う…!怖い…!
答え:靖国通りを警備している
退屈しなそう度 ★★★
目が合う度 ★★★★★(馬と)
吉田茂は何を見ているか
大山巌像のすぐ脇、田安門から、武道館などがある北の丸公園に入っていく。武道館ではちなみにこの日、いきものがかりのライブが行われていた。
北の丸公園にたつのは、吉田茂さん
吉田茂さんのことは、なんとなく好きである。というのも、これまたNHKドラマの『白州二郎』で吉田茂を演じたのが原田芳雄さんで、とってもはまり役で素敵だったからだ。吉田茂というか原田芳雄さんが好きなのだな。
真正面には科学技術館があるが、視線は斜め右、そしてもっと手前
木を、見てるのかな、たぶん
温和な表情でとても親しみ深げな銅像なのだが、なぜか半径5m以内に柵がはられて近づけない仕様になっていた。やや寂しげな吉田さんである。
答え:木の成長を見守っている
退屈しなそう度:★★
渋沢栄一は何を見ているか
ところ変わって大手町、日本橋川の上をはしる高速道路の脇に、渋沢栄一さんの像が立っている。
像自体は高い場所にあるが、すぐ近くまで寄れるし、手前は公園になっているしでなかなかいい感じ。
この、像の裏にいい具合の囲いの塀があったので、目線の高さで写真が撮れるかもなんて思って、うっかりのぼってしまった。
のぼってみるとおもいのほか高く、自分でのぼっていって降りられなくなる猫みたいになって震えながら写真を撮った。そして結局目線の高さには程遠い。
わざわざのぼらなくてもよかったかもしれない
答え:首都高と日本橋川を見ている
退屈しなそう度 ★★★★★
※個人的偏見に基づきます
公園では疲れたOLがひとりで遅いランチを食べていたり、像のまわりにはここを住居としている方の持ち物があったりで、見ようによってはけっこう殺伐とした場所ではあるが、個人的偏見としては、もっとも都会の変貌が観察しやすい良いスポットだとおもう。
頭に鳩がのってると、すごくいいひとそうに見える。
楠木正成は何を見ているか
東京三大銅像の三体目、楠木正成さんである。
楠木さんは、いままでの幕末~昭和にかけての激動の時代を生きた偉人たちとは違い、抜群に昔のひとである。なんたって鎌倉時代の武将でいらっしゃる。
背後から。これまたすごくいい場所に立っている。
この楠木正成公の銅像については、どの銅像サイトをみても絶賛であった。別子銅山の開坑200年を記念して作られたものだそうで、躍動感あふれるダイナミックな姿はたしかに文句なくかっこいい。
そしてこちらが正面。って、いきなりものすごくカメラ目線だ。
記念写真の皆さんも、正成さんから見て右斜め前のカメラ目線ポジションに自然と陣取る
正成さん、すごくサービス精神旺盛なのであった。
答え:思いっきりカメラ目線
退屈しなそう度 ★★★
目が合う度 ★★★★★
松尾芭蕉は何を見ているか
最後の締めだが、わたしの住む江東区の名物でいらっしゃる、松尾芭蕉先生の像をご覧いただきたいと思う。
隅田川と小名木川がぶつかる水上交通の要所にたっているこの像、観光クルーズ船に乗ると必ず聞かされる、あるギミックが隠されているのだ。
銅像があるのは川沿い、階段を上った先
正面に芭蕉先生。
場所は、芭蕉記念館別館に付属する庭園で、入場は無料だ。いままでの像たちとは違って、公園の中に作られた、のではなく銅像のために公園を作った、と言ったほうが正しいのかもしれない。
ようこそ
やってくるひとに向かって正面に立つ芭蕉先生。近寄るとそのまままっすぐ視線を向けられてどぎまぎする。
川と川の交差点、とても気持ちのいい場所だが
あくまでお客さん出迎え目線の芭蕉先生。
で、だ。この銅像、じつは午後5時になると、ライトアップされる上に回転するのだ。それはぜひとも回転する瞬間を見届けなければなるまい。
5時には公園は閉まってしまう(ので、先ほどの昼間の写真はこの翌日撮ったものです)ので、下のリバーサイドテラスから見上げる
三脚を構えてスタンバイ
江東区民にはこの芭蕉像ギミックは有名なので、もしかすると5時に写真を撮りに来る人、たくさんいるかもなーなんて思ったが、全くいなかった。散歩中の方が、「知ってるー?これ、夜になると向きが変わるんだよー!」と言いながら、過ぎ去っていくのみである。え、いや、あと5分ほどで動き出しますけど、見ていかないの?ひとり寂しく三脚を構える。
…と、5時になったがいっこうに芭蕉先生がまわらない。あれ、おかしいな…節電対策で回転中止とかになったのかな…と、検索して確認などしている間に…
あー!変わってるー!!!
いつのまにか回転し終わって、芭蕉先生はぴっかーんとこっちを向いていらっしゃった。ものすごく静かであっというまだった。
三脚を構えておいただけあって、その瞬間はカメラがおさえておりました。
まわった先の正面はこんな絶景。芭蕉先生、すごくよい扱いされてますね。
答え:
昼はやってくるひとを迎えて、夜は清洲橋を見ている
退屈しなそう度 ★★★★★★
目が合う度 ★★★★(昼)
お客さん出迎え業を終えて、夜はのんびり橋のライトアップを眺める芭蕉先生なのであった。
銅像めぐりにうってつけの日
結果的に、銅像をただやみくもにうしろから撮っても、香港の美術館に飾ってあったようなアートにはなんだかあまりならなかったわけだが(そりゃそうだ)、銅像めぐりにはうってつけの休日で、じつにさわやかな気持ちになった。
しかも、なぜこの場所にこの像があるのか、など思いをはせることで、自然と知識も身につくときている。
銅像めぐりはいい趣味だ。