期待を一身に背負ったデイリーポータルZ
まずはこちらをご覧いただきたい。
Maker Faireのポスター
今年のMaker Faire Tokyoのポスター、よく見ると、どこかで見覚えのあるイラストが……。
あ!これは……。
これだ!
実に一昨年のMakerFaireからデイリーポータルZの目玉作品として何度も出品されてきた「
しょうゆかけすぎ機」である。
一歩間違うと、塩分のとりすぎになってしまうという禍々しいマシンだが、なぜか公式ポスターに採用されてしまった。
このことからも、デイリーポータルZが、MakerFaireからかなりの期待を寄せられているのがわかる。
その期待にこたえるべく、デイリーポータルZが今回新しく投入した展示が「
ヤンキープロジェクションマッピング」だ。
MakerFaireも暴走万葉仮名だと「滅威華笛亜」に。
特攻服に文字をプロジェクションマッピングすれば、わざわざ刺繍しなくても好きな文字を入れて記念写真が撮れるというソリューションである。
「親からもらったこのパスモ かざしてみせます都05 爆走 刃州魔尼亜(バスマニア)」
IT化と新しいテクノロジーで、ヤンキーの特攻服にもイノベーションをもたらすことができるという発見である。
ライターさくらいさんの各種かぶりもの。中学生ぐらいの子どもたちがはしゃいでかぶっていたのが印象的であった。
ライター北村さんの「あたマウス」マネキンの頭部がマウスになっているという一品。北村さんは「記事にしてないので説明するのがいちいち大変」と漏らしていた。
血痕をブローチ化した「ブロー血」
はからずもデイリーポータルZの展示物は、醤油かけすぎ機、ブロー血、メデューサのかぶりもの、生首、特攻服と、ことごとく死を連想させるものばかりになった。
「ははーん、おそらく裏テーマは「メメント・モリ」だな?」と推理した方。残念、ただの偶然です。
時代はとにかく3Dプリンタである
身内の自慢話はこれぐらいにしておいて、MakerFaireで気づいたことをいくつかまとめて紹介したい。
まずは「3Dプリンタすごい」ということである。
なにを今更という話ではあるのだが、右も左も、誰も彼も3Dプリンタなのである。
自作3Dプリンタ
3Dプリンタでなんらかの造形物を作るだけではなく、3Dプリンタ自体を自作してしまうひとたちもいるほどで、3Dプリンタがものづくりの世界に与えた衝撃のデカさにビビってしまった。
「こういうのって、自分で作れんのか!」と、インチキなものづくりしかできない自分はただただ感心するほかない。
3Dプリンタを使えばこんなのや……
こんな複雑な形のギヤも3Dプリンタで作れる……
「3D」という語感から「すぐ廃れるんじゃないの?」と色眼鏡でみていたのは浅はかであった。
レゴ使いすぎ
そして3Dプリンタと並んで、会場でよく見かけたのはレゴブロックである。
ぼく自身がレゴブロック好きなこともあり、よけい目についてしまう。
Kohsuke’s Lab.によるタコメーターつきトイレットペーパー。トイレットペーパーを引っ張ると上部のメーターがググーッと動く。
レゴだけでゾートロープを再現。横の隙間から中を除くと、人形がバンザイする。ゾートロープとは、アニメーションの原型のようなものである。詳しくは
こちら
Kohsuke’s Lab.さんによるレゴ作品は、レゴ以外のしくみを全く使っていないということにも驚く。
これだけの複雑な機構はいくらレゴが扱いやすいからと言ってもなかなか簡単に作れるものではない。
それだけ高度な技術を有していながら、トイレットペーパーのタコメーターという便利なのかそうじゃないのかよくわからない作品を完成させているところがおもしろい。
作品の一部としてのレゴ
Mont.Blanc.Pjさんの「凸P」もすごかった。
一見、ただのスーパーマリオに見える
ただのスーパーマリオのように見えるけれど、よくみるとゲーム画面はレゴブロックに投影されている。
レゴにゲーム画面が投影されている
ブロックをはめると
ブロックをはめた場所の形が変わってくる
実際にブロックをはめたりはずしたりすることによって、画面が変化し、ゲームの内容も変わってくるというものだ。
マップをデザインできるゲームはまれにあるけれど、リアルなブロックをつけたりはずしたりすることによって、仮想世界のデザインができるという感覚は実に新鮮だった。
リアルと仮想の融合
digiBeatleさんの筋電位センサーを使った「戦闘能力測定装置」も面白かった。
筋電位センサーを腕に装着し、力をググーッと入れると、ゲーム画面にパワーがたまっていき、力を抜いた瞬間かめはめ波がうてるというゲームだ。
腕に筋電位センサーを装着し
力をググーッとためて、一気に開放すると
かめはめ波がうてる!
実際に力を入れないと動かないので、かめはめ波をうち終わるとけっこう息があがる。
実演している人は常に筋肉痛らしいが、平べったい台の上で足踏みするだけの家庭用テレビゲーム機より運動効果はありそうだ。
ちなみに、筋電位センサーは買うと5万ぐらいするので、ネットで調べて自作したらしい。
調べるのはわかるんだけど、それで作れてしまうというのがものづくりの人たちの凄いところである。
鶏ハムの作り方をyahoo知恵袋で聞くのとはわけが違うのだ。
進化しないと思っていたものが進化
明治大学先端メディアサイエンス学科さんの研究テーマは「家電とインターネットの融合」。
家電とインターネットの融合ってあれでしょう? 外出先からお風呂沸かしたり電気つけたりできるっていうあれ? と思いがちだけれど、それだけではないのだ。
見かけは普通の扇風機だが……
例えばこの扇風機、手前の×マークのついたうちわで首振りの範囲を細かく指定したりすることができる。
「ここは赤ちゃんが寝てるから風を直接あてない」とか「洗濯物の乾きにくいところだけに風を向ける」なんて使い方もできる。
扇風機なんてせいぜい羽がなくなるぐらいしか進化しない家電だとばかり思っていたが、IT技術の導入によりブレイクスルーしたのだ。
ただ、ぼくが一番おもしろいと思ったのは、スマートフォンを使った計量カップだ。
透明なコップにスマホをくっつけただけ
透明な直方体のコップの外側にスマートフォンをくっつけ、必要な液体の量を入力すると、液体のシュミュレーション映像が再生される。その映像に合わせて液体を注ぐだけでピッタリな量がはかれるというものだ。
「容器にくっつける」という荒技で計量のめんどくささを解決してしまうのも「家電とインターネットの融合」の答えの一つである。
音の出ないトイレットペーパーホルダー
fabcrossさんの出展物は、トイレットペーパーホルダーだ。さっきもレゴのトイレットペーパーホルダーがあったが、こちらは本物の金属のトイレットペーパーホルダーだ。
で、何が凄いのかというと、音がしないのだ。
向かって右が音のしないトイレットペーパーホルダー
トイレットペーパーを引き出すときに鳴る「カラカラカラ」という音がなるべくしないよう設計されている。
特に芯の部分は、ベアリングを使って滑りをよくしているので、いっかいまわすとなかなか止まらない。無音でずーっと回っている。
なかなか止まらないトイレットペーパーホルダーの芯
わりとどうでもいい些細なことを、オーバースペックな技術でもって解決するその姿勢は見習いたい。
個人的に大興奮した「東京動脈」
路線図が好きなぼくの鼻息が荒くなったのは、栗山貴嗣さんの「東京動脈」だ。
東から西を見ているところ
地下鉄に見立てたチューブに、地下鉄のラインカラーである色水を通わせて地下鉄の立体モデルを表現している。
そう、こういうのがやりたかったんですよ、ぼくは。
色つき麺で地下鉄路線図なんか作ってる場合じゃなかった。
いちばん深い六本木駅
台湾に行きたい一心で
そもそものきっかけは作者の栗山さんが、まだ大学生だった2008年に「なにか作品を作ったら台湾の展示会に出品させてやる」と言われ、台湾に行きたい一心で、2ヶ月で作り上げたものだ。
友人のリクエストで入れた「ゆりかもめ」
立体モデルを作成するにあたり、地下鉄駅の深さのデータが必要になり、調べたところ、都営地下鉄はネット上にそのデータがあったものの、東京メトロは探しても見つからなかった。
それなら実際に計って調べるしかないと、栗山さんはメトロ一日乗車券を購入し、各駅の階段の高さと数をいちいち歩いて計測し、深さのデータを集めた。
聞くだけでも立ちくらみがしそうな作業だけど、台湾に行きたい一心で調べたらしい。
各駅の深さメモ
しかし、あとでよく調べてみると、東京メトロの駅の深さのデータはウェブサイトのソースにこっそり書いてあったらしい。ザ、徒労である。
ポンプは自作だった
チューブに色水を送るのは医療用のポンプを使っている。
人工心肺装置で使ってる医療用ポンプ
当初、自作のポンプを使っていたのだけど、すぐ止まるので、医療用ポンプに取り替えてしまったそうだ。
ちなみにこのポンプ、ひとつ1万円以上するらしい。全部で15個使っているのでそれだけで15万円だ。
台湾に3回ぐらい行けそうな額ではある。
ロボットっぽい「外骨格スーツ」
最後にいちばん衝撃的だったチームスケルトニクスさんの外骨格スーツを紹介したい。
ロボット……ではない、でもカッコイイ!
見た目は完全にロボットである。例えが微妙に古くて申し訳ないのだけど、しかし、動力は人力のみ、身体の動作が2倍になる「動作拡大スーツ」だ。
後ずさりしてるように見えますが、実際にはしてないです
もう、単純にデカイものが動くというそれだけで見ていて面白いし、歩くたびに「ガシャリ、ガシャリ」となる音にもしびれる。
これはぜひ着てみたい! ……けれど、残念ながらスーツは、搭乗者のサイズに合わせて制作するため、気軽に乗ることはできない。
このスーツでコマネチをやってほしい
実演終了後は子供たち(特に男子)に囲まれる
人力を補助するような動力はついていないため、例えば災害救助や介護といった用途には使えないけれど、見た目のインパクトからかエンタテインメント業界からの問い合わせが多いのだそうだ。
衝撃の連続だった
今回紹介したものは、出店者のほんのごく一部でしかない。ここで紹介した何倍もの出展者が様々な作品を展示していた。
とてもじゃないけれど、2日ぐらいでは全て回るのはちょっとムリなぐらいボリュームと熱量があった。
そしてその熱にあたったのか、しょうゆかけすぎ機は2日目に壊れた。
展示品が次々と壊れていくさまは、七人の侍が次々と斃れていくような壮絶さがあった