特集 2013年8月2日

どうしても「キリン」をたくさん作りたい

どうしても!どうしても作りたかったのだ!
どうしても!どうしても作りたかったのだ!
1年5ヶ月前、キリンの人形(?)を作った記事を書いた(→「キリンを手のひらに乗せたい」)。楽しかった。

楽しかったが、ほんとうはたくさん作りたかった。でもとうてい大量には作れない手間のかかり具合だったので、数ヶ月後、製作の一部を業者に依頼することで実現しようとした。

そしたら失敗した(→「キリンをたくさん作りたかった」)。

くやしい!くやしいのでみたび挑戦だ。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:金屏風にするとかっこいい!

> 個人サイト 住宅都市整理公団

三度目の正直

えいやっ!と思い切って厚さ8mm、2m四方の工業用フェルトを購入!うれしそう。しかしそのお値段5万円強。うひゃー!
えいやっ!と思い切って厚さ8mm、2m四方の工業用フェルトを購入!うれしそう。しかしそのお値段5万円強。うひゃー!
ここで言う「キリン」とはもちろんガントリークレーンのこと(→「キリンの真下から見上げる!」)。コンテナを船に積み下ろしするキュートなあれだ。キュートつっても高さ40mもあったりするんだけど。

紅白縞々(そうじゃないやつもいるけど)のかわいらしい見た目で、かつ働き者。実はファンが多い。ぼくもその一人だ。

実物ほしいけどそういうわけにもいかないので、せめてミニチュアを。どうせなら柔らかく愛でたい。しかもたくさん(たくさんあってこその工業モノだと思うのだ)。
厚さ8mmのフェルト。なんかすごくいい。
厚さ8mmのフェルト。なんかすごくいい。
そう思ってフェルトで作り始めたのが1年5ヶ月前。しかしなかなかうまくいかない。ここらへんで敗因を整理してみよう。
前々回。一体分を切るだけで丸2日かかった。
前々回。一体分を切るだけで丸2日かかった。

フェルトって切るのたいへん

これは最初に作ってみて気がついたこと。こやもうこれが全然思うように切れない。ましてや8mm厚(大きさ的にこれが理想)のフェルトなんて人力できれいに切るのはほぼ無理。すくなくともぼくには無理。
見事に茶色に焦げて途方に暮れた前回</a>。
見事に茶色に焦げて途方に暮れた前回
で、カットは業者さんにおまかせしよう!というのが2回目のチャレンジだったわけですが…

だからってレーザーカットはだめ!

フェルト、焦げ焦げですよ。香ばしいったらありゃしない。色も紅白シマシマに着色できなかったし。

しかも8mm厚は切れないということで4mmにしたため、結局貼り合わせる手間がかかってしまった。なにやってるんだか。

要するに問題はカットなわけですよ

しかしかわいい紅白縞々キリン製作の夢は捨てきれず、カット方法に関していろいろ調べたところ、どうやらウォータジェットによるカットがよさそうだということがわかった。

ウォータージェットとは超高圧の水を材料に当てることで加工する技術のこと。刃を使わないのでゴムなどの柔らかいものもきれいに切れるのだそうだ。うむ、これは有望だ。水だから焦げないだろうし。

さっそく個人でもカットをお願いできる業者さんに連絡してみた。そうしたら「いままでにそのような厚手のフェルトを切ったことがないので、まずテストしてみましょう」とのこと。なるほど。
まずはテスト。このような面付けデータと小さく切ったフェルトを送った。やたら部品が細かいのは色分けのため(後述)。
まずはテスト。このような面付けデータと小さく切ったフェルトを送った。やたら部品が細かいのは色分けのため(後述)。
テストカット来た!
テストカット来た!
おおおおー!いい感じだ!
おおおおー!いい感じだ!
まずは一匹分のテストカットをお願いしたところ、かなりいい感じ!ウォータージェットすごい!すてき!水に「ありがとう」って言うと良い水になる、というスピリチャルなアレがあるが、このときばかりはぼくも言いたくなった。ありがとう、水。

しかしお礼を言うのは早かった。ここで別の問題にぶつかり、事態はふたたび振り出しに戻ってしまう。
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結局スピリチャルも金か

もういっそジュウタン代わりにしようかと思った。寝っ転がってみた。あんまり気持ちよくなかった。さすが工業用。
もういっそジュウタン代わりにしようかと思った。寝っ転がってみた。あんまり気持ちよくなかった。さすが工業用。
その問題とは、カット料金だ。「100セット切りたいんですが」と個人としてはかなりチャレンジな数量でお願いしたものの、見積金額は3000円/1匹。

目標は100匹。カットだけで30万円!無理!

他の業者さんをあたったり、値切り交渉してみたものの金額は下がらずウォータージェットカットは断念紗ざるを得ないことに。

結局水に聞かせる「ありがとう」は金次第だという世知辛い結果に。

ていうか、どうしよう。またいちから考え直しだ。しかもすでに5万出してフェルトは買ってしまっている。人力では切れないフェルトを。

そんなとき救世主があらわれた!

汝、隣人を愛せよ

隣に神がいた!
隣に神がいた!
途方に暮れていたそのとき、はっと思い出した。お隣さん!岩さんだ!

以前書いた「引っ越ししたらお隣さんが塗装職人だった」のお隣さんだ。塗装はもちろん、模型などの加工においても確かな技術と知見を持つ岩さん。きっと良い知恵を授けてくれるに違いない…!
そこでお借りしたのが超音波振動カッター!
そこでお借りしたのが超音波振動カッター!
「フェルト加工なんてしたことないから分からないけど…」と言いつつも、これどうですかね、と貸してくれたのが超音波振動カッター。その名の通り、刃先が超音波振動するカッターだ。

で、これ使ってみたら、切れる切れる!するする!っと切れるじゃないですか。すごい!

アニメではよく愛やら友情やらが難局を打開する力になったりするが、現実ではお隣さんがその役割を担うのだ。

われわれは水じゃなくて超音波および隣人に「ありがとう」と言うべきだ。ありがとう、岩さん。
*岩さんはあの記事の後、定期的に塗装のワークショップを行っています。これほんと楽しいので興味ある方はぜひ!詳しくは→【にんにき日記:塗装ワークショップ

とにかく、切り抜く日々

あとはひたすら部品を切り抜く。
まず樹脂の板を部品の形に切り抜いてテンプレートを作る。
まず樹脂の板を部品の形に切り抜いてテンプレートを作る。
そのテンプレートでフェルトに切り取る線を描く。チャコペンを久しぶりに使った。
そのテンプレートでフェルトに切り取る線を描く。チャコペンを久しぶりに使った。
そして岩さんと超音波に感謝しつつ、切り抜く。
そして岩さんと超音波に感謝しつつ、切り抜く。
なるべく無駄になる部分を減らすため、フェルト2mロールのまま切り抜いていたのだが…
なるべく無駄になる部分を減らすため、フェルト2mロールのまま切り抜いていたのだが…
腰が痛くなったので数十センチ四方に小さく切ってデスクで作業することにした。寄る年波には勝てないのだ。
腰が痛くなったので数十センチ四方に小さく切ってデスクで作業することにした。寄る年波には勝てないのだ。
仕事の合間に、とにかく切り続けること2週間あまり。夢にまでテンプレートが出てきたころ、トラブルが発生した。
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隣人に「ありがとう」と共に「ごめんなさい」を言おう

来る日も来る日も切り続けた。
来る日も来る日も切り続けた。
1匹作るのにこれだけの部品がいる。仕事の合間にやってると、1日で1~2セットしかできない。
1匹作るのにこれだけの部品がいる。仕事の合間にやってると、1日で1~2セットしかできない。
切り抜いたあともなんだかいい。
切り抜いたあともなんだかいい。
正直、しんどかった。楽しいのだが、つらい。この両者は両立する。

そんなとき、追い打ちをかけるようにトラブルが。
刃を固定するネジが中で折れてしまってにっちもさっちも!
刃を固定するネジが中で折れてしまってにっちもさっちも!
借り物の超音波振動カッターが壊れてしまったのだ。

いや、壊れたというか、刃を交換することができなくなってしまった。ネジがはまったまま折れてどうにもならなくなってしまったのだ。

なぜこうなったのか。心当たりがある。

このカッター、おそろしく切れ味が良いのだが、反面すぐに刃がなまくらになる。しょっちゅう刃を交換しなくてはならない。1匹分の部品を切り出すのに、刃を3、4枚使う。
さいわい普通に売っているデザインナイフ用の刃を使うことができるので、そんなにお金はかからないのだが。
さいわい普通に売っているデザインナイフ用の刃を使うことができるので、そんなにお金はかからないのだが。
刃を交換する時は、先端のイモネジを緩めるのだが、これがねじ穴の中で折れた。
刃を交換する時は、先端のイモネジを緩めるのだが、これがねじ穴の中で折れた。
この刃の交換でびっくりしたのが、ちょう熱くなってるってことだった。
刃が触れなくなるぐらい熱々になってる。超音波、おそるべし!
刃が触れなくなるぐらい熱々になってる。超音波、おそるべし!
あんまりに熱いので、心配になって、ちょくちょく冷やしていたのだ。これがたぶんネジを脆くしてしまったのだと思う。
定期的に冷やしていた。氷点下すぎたか。
定期的に冷やしていた。氷点下すぎたか。
借り物なのに…岩さん、ごめんなさい。
ちょう小さいネジなのでどうしようもなく、先端の尖ったやすりを使って根気よく筋を入れ、マイナスドライバーで回してとった。1日かかった。疲れた。
ちょう小さいネジなのでどうしようもなく、先端の尖ったやすりを使って根気よく筋を入れ、マイナスドライバーで回してとった。1日かかった。疲れた。

魅力の縞々を作る

これで20匹分。いったんここらで切り上げるか。
これで20匹分。いったんここらで切り上げるか。
そんなこんなでなんとか20匹分。目標は100匹だったのだが、もうなんかここらへんでいったん切り上げたい。

いや、楽しいよ!?楽しいけどつらい。気分を変えよう。着色だ。
布を染める染料を買ってきました。色はスカーレット。
布を染める染料を買ってきました。色はスカーレット。
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熱湯に染料を溶かして、赤くなるべき部品を投入。20分攪拌。
熱湯に染料を溶かして、赤くなるべき部品を投入。20分攪拌。
染料を使うのも初めてだった。前回、組み立てたあとに色つけようと思ったら全くうまくいかず(焦げている、というのを差し引いても困難だった)、今回は赤い部分と白い部分とを別々に切り出し、こうやって染めることにした。だから部品の数も多くなったのだ。難儀だなあ。
染まったら洗います。これがまた全然色が落ちきらず。もう一生このまま洗い続けることになるんじゃないかという気がした。
染まったら洗います。これがまた全然色が落ちきらず。もう一生このまま洗い続けることになるんじゃないかという気がした。
説明書には「水の色が透明になるまですすいでください」とあったが、これがいつになっても透明にならない。水道代が心配になるぐらいすすぎまくった。
もういいだろう、というところで引き上げ、並べ、乾かす。
もういいだろう、というところで引き上げ、並べ、乾かす。
この段階で同じ種類の部品はまとめて置くべきだったと後悔した。何ごとも経験である。
この段階で同じ種類の部品はまとめて置くべきだったと後悔した。何ごとも経験である。
何かの古代文字っぽい。
何かの古代文字っぽい。
で、この後がまた難儀で。たっぷりと水を吸った厚さ8mmのフェルトって乾かないのよ。完全に乾くのに2日ぐらいかかった。いやー、工作って実際やってみるといろいろあるなー。当サイトライターの乙幡さんとかほんとすごいと思う。

マスプロダクトってすごいよなー

グルーガンで接着します。
グルーガンで接着します。
ようやく組み立てだ。
組み立て楽しい!
組み立て楽しい!
楽しい!
楽しい!
組み立ては行程の中で一番楽しいかもしれない。ただ、やっぱり悩みはありまして。それはいざ部品を並べてみると、実に大きさがマチマチだということ。
これ、同じ部品。
これ、同じ部品。
チャコペンで描く時点でかなりずれるし、毛羽立ったフェルトにぼんやりと描かれた線のどこを切るか、でさらにずれる。

ものを作ったことのある人なら知っているはずだ。「手作りなのでひとつひとつ形が異なっていて、そこに大量生産品にはない味わいがあります」というありがちな言葉の空虚さを。

ぼくは工学部出身で大量生産ラインのばらつき・歩留まりのコントロールがいかにたいへんか学んだ。職人の手仕事こそ寸分違わぬものを作れるものなのだということを知っている。

…なんて偉そうなことを言ったが、要するにぼくのおおざっぱな性格のせいでキリンがバラバラなのだ。まいった。
といろいろあったけど、やっぱりできあがるとうれしくてかわいくて!
といろいろあったけど、やっぱりできあがるとうれしくてかわいくて!

とりあえず20匹完成!

ああ、かわいい。
ああ、かわいい。
首のかしげ方もばらばらだが、かわいいから許す。
首のかしげ方もばらばらだが、かわいいから許す。
おしりもかわいい。
おしりもかわいい。

あくまで目標は100匹!

とにかくたくさん並んでいるところが見たいので、いつか100匹並べます。フェルトまだまだ余ってるし。

とりあえず今回の20匹は来る8月11日、コミケでお売りします。かわいがってやってくださいませ!
せっかくなので「キリンポロシャツ」と「キリントートバッグ」も用意してキリンづくしに!詳しくはこちら。
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