趣味の域を完全に超えた塗装っぷり
こちらがその「塗装職人」岩さん。ナイスガイ。
なんせ玄関ドアからしてこの「塗装アピール」
お隣さんのお名前は岩さん。とても素敵な方だ。名前もかっこいい。ロックだぜ。
で、岩さんを塗装職人と呼んだが、これは仕事ではなく、趣味だ。
「趣味で塗装やってるんですよ」
始めて話をしたときにそう言われて、おもしろい!と思った。いままでそういう人に会ったことがない。だって趣味が塗装だよ?ふつうそれ趣味にするか?どういうこと?(団地とか工場が趣味の人に言われたくない)
引っ越した部屋も気に入ったが、お隣さんがこんなゆかいな人だとはすばらしい!こればっかりは物件情報にも書いていないからね。「隣人の趣味」欄とか。うれしい驚きだ。
で、すっかり意気投合して「こんど塗装入門教室開催してください!」とあつかましくお願いしたところ、さっそく開催の運びとなった。
うひょー!楽しみだ!塗装!
おじゃましまーす…ってかっこいい部屋!
まずたずねてびっくりなのはその部屋のかっこいいこと!おかしいなうちと同じはずなんだけどな。なんでこんなに違うかな。
で、「部屋が完全に塗装のための空間」になっているのがおもしろかった。ここが生活の場とは思えない。だいじょうぶか、岩さん。塗装食って生きてやしないか。
窓際の、通常家で最も環境の良い一画は、塗装ブースに。
変わった冷蔵庫か?と思ったこれは、塗装を乾燥させるためのマシン。「業務用なんですけど、どうしても欲しくて…」と岩さん。
こういう、作業のために最適化された道具とその配置っぷりって、見ていてぐっとくるよね。一見ごちゃごちゃとものがあるように見えて、よく見ると秩序がある、っていう。あこがれるなあ。いいなあ。
台所でも、いちばん存在感があるのは水研ぎの道具一式。写真で見ると、まるでこれで歯を磨いているみたいだ。
「いやあ、今日のために必死に片付けただけですよ。いつもはほんとひどいもんですよ」
まあ、部屋きれいな人って、かならずそう言うよねー。ねー。
それにしても、ほんと、何かに熱中している人の部屋って面白い。いろんな見慣れない道具があって、どれも興味を引かれるのだが、いちばん気になったのは岩さんの作品群だ。
「とにかく塗装がしたいんです」
これがね、どうみても趣味の域を超えているクオリティなわけですよ。
"BLACK RABBiT"というちょっといじわるそうなキャラクター。かわいい。
「ここのところずっと手がけているのがこの"BLACK RABBiT"というキャラクターです」
「これ、オリジナルですか?」
「キャラクターデザインはぼくじゃないんですよ。
HOTANIさんのもので、ぼくはその塗装だけやってます」
「じゃあ、そのHOTANIさんが作ったものが送られてきて、岩さんが色を付ける、と」
「いや、いまは任せていただいてて、もの自体もぼくが業者に発注してる」
「自分でキャラデザインしないの?」
「いやー、ぼくはとにかく塗装がしたいだけなんで」
びっくりした。ほんとに塗装がしたいだけなんだ!ぼくだったらデザインからすべて自分でやりたいと思うけどなー(能力があるかどうかは別として)。
塗装ものだけじゃなくてナノブロック詰めたものなんかも。これもいいなー!
何かを作って、その塗装に特に気合いを入れる、だと思ってたけど、岩さんったら、徹頭徹尾塗装の方しか向いていない。
塗装のクオリティもすばらいかったが、この「とにかく塗装スタンス」がこりゃ職人だな、と思ってタイトルもそうした理由だ。
モノを業者が作ってるんなら、もしかして塗装も頼めばやってくれるんじゃないか。いや、塗装がしたいんだからそれじゃ意味ないのは分かってるんだけど。
「いやー、やっぱり手間かけて手作業じゃないとでないと出ないクオリティってあるんだよねー」
塗装は手触りなのかっ!
触ると、その確かなクオリティがよく分かった。
で、手に取らせてもらったんだけど、これがね、触ると「おおー!」って思うのよ。たしかに、これはふつうぼくらが手にする塗装された製品とは違う。
今回ぼくが塗装について分かったことは、たったひとつ。それは
「塗装は手触り」
ということだ。
今まで塗装って「色」と「柄」で、つまりそれは視覚的な効果(もちろん材の保護も重要な役割だけど)のことだと思ってたけど、これは大間違いだったね。
写真で上手く伝わらないのが残念だが、なんというか、こう、「表面が一体でぬるっ」としているのよ。触るとドキっとするのよー、ちゃんとした塗装ってぇ。って意味わかんないかしらねえ!(興奮のあまりなぜかオネエ言葉に)
これが塗装完了する前の途中のもの。同じ材料とは思えないチープな感じ。
「ものはいわゆる塩ビなんだけど、このペコペコした感じが嫌で…」
「ああー、わかる!それにしても完成したもの触ると塩ビとは思えないけど」
「あとでやるけど、最後にウレタン塗装でフィニッシュするとこうなる」
「おおー!なにやらすごそう!」
考えてみれば、塗装とはモノのいちばん外側で、それは人間が接触するインターフェイスそのものなのだ(お、なんかそれっぽいかっこいいこと言ったぞいま)。
塗装が見た目だと思うのは、アイドルのグラビア見て興奮するのと同じだ。たしかに肉体の見た目鑑賞もいいけど、やっぱり皮膚に触れたときの官能には代え難い。塗装とは皮膚だ(お、またぼくそれっぽいかっこいいこと言ったぞ!)。
これらのウサギ、買えます。
ぼくはこの夜桜柄がとても気に入った!お勧め!
で、これらの官能的な"BLACK RABBiT"、岩さんが自分でなで回してニヤニヤするためのもではないのだ。
この記事がUPされる日の翌日と翌々日、東京ビッグサイトで行われる「デザインフェスタ」に出展して販売するとのこと。気に入ったひとはぜひ行ってみてください。
E-105というブースだそうです。
ぼくも塗装するよ!
今回チャレンジするのはこのBLACK RABBiTストラップ。これは岩さんの手による完成品。こちらもデザインフェスタで入手可能とのこと。
さて、これまで見てきたウサギさんの塗装にぼくも挑戦!と行きたいところだが、たぶん無理だ。
「今回はこのストラップにしましょう」
と岩さんが提案してくれたのが、このストラップ。
塗装前のもの。まあ、これぐらいの大きさからだよね。初心者だし。
なんだかこれはこれで良い手触り。(前ページで言ったことを覆すようでなんですが)
「これは塩ビじゃないですよね?」
「これはレジンです」
レジン!
林さんがあらぬものを固めてたあれか!なるほどこれがまっとうな使い方ってわけだ。
以前はこのシリコン型を使って自分でレジン固めてたというが。
「ということは、こっちは自分で製作?」
「いや、これもいまは業者に頼んでる」
業者に頼んで自分で作らない、っていうのを、以前の自分だったら「なーんだ」って思っただろう。でも岩さんがやりたいのはあくまで塗装なのだ。
それに、外注するのも決して簡単ではない。このストラップもコストとクオリティをいろいろなところに頼んでみて検討して指示出してようやくたどりついた先らしい。なんだそれ仕事みたいじゃないか。ほんと、これ趣味か?って思った。
まずこのウサギの口をマスクするテープを貼る作業から。すでに用意してある口の形にカットしてあるものを使わせてもらう。
こういう作業ひさしぶりだ
子供の時はよくやっていた気がするけど
エアブラシちゃんと使うの始めて。紙コップで練習。楽しい!
「グリーン地に白い縁取りの黄色い星柄」というカラーリングにしたので、まずは全体を黄色に塗る。
そう、いま「グリーン地」って言ったけど、塗る順番はできあがったときの「地→柄」と逆になるのだ。「え?よくわかんない」と思うかもしれない。まあ、見ててよ。
で、生まれて初めてエアブラシをちゃんと使うことに。どきどきした。
どきどきしながら塗装。塗るものとエアブラシとの距離の取り方が慣れるまでは難しかった。つい近づけ過ぎちゃう。
エアブラシとは、いわばスプレーだ。塗料を注いで、霧状に吹き出す道具。楽しい。ぼくも欲しい。買っちゃおうかな。使うあてないけど。
全体が黄色に塗れたら、乾かして、次は星柄のマスクを貼る。
つまり、塗った黄色のうち、今貼った星柄の部分だけマスクされて残るというわけ。わかるかなあ。
で、白く塗る。だんだん慣れてきた。やっぱり楽しい!買うか!エアブラシ!
白が乾いたら、星型のマスクをはがす。そうすると黄色い星が残ってるというわけ。
で、ここでさっそく失敗!星形のマスクと一緒に黄色の塗料がはがれてしまった…
「ぎゃー!どうしよう…」
「あー、しょうがないですねー。もう一回黄色に塗るので、それ以外の部分をマスクしてください」
「えー(めんどくさい…)」
「まだこの段階だからマシですよ。最後の最後でそういうこと起こると、ほんと心が折れますよ」
黄色いマスキングテープで今はがれた部分以外全てを蔽う。けっこうめんどくさかった。
で、はがれた黄色を無事塗り直して、次は星の上に一回り大きい、これまた星形のマスクを貼る。
こんな感じになる。やってることの意味分かるかな?つまり「白い星形の縁取り」を残すわけだ。
なんか、いまプロセス書いてて、こりゃなにやってるのか良くわかんないなー、って思った。すまん。
とにかく、思った以上に手間でめんどくさいのと楽しいのが相半ばする作業だ、ということだけ伝わればいい。
「けっこうめんどくさいなー」
「塗装はそれが楽しいんだけどねー」
「そうかー、『塗装向きの性格』ってあるかもなー。ぼくは向いてないかも」
「塗装って、時間なんですよ。手間をきちんとかけてやればちゃんと結果が出る。センスとかじゃない」
この「塗装は時間」という言葉にグッと来た。岩さんが言う「センスじゃない」というのは謙遜だよなー、と思うけど、でも自分でやってみて確かに「塗っているのは塗料じゃなくて時間だ!」って思った。
「楽しくなっちゃって気がつけば夜明け、ってことあるんじゃない?」
「あるある!この前は午前2時と午後2時が分からなくなってた」
「それはひどい!」
防毒マスク登場!
で、「地」にあたるグリーンを塗る。こうのように、地が最後に塗られるとはこういうことなのだ(わかるかなあ。説明下手ですまん)
乾いたら縁取り用星形のマスクをはがす
できてきたぞー!たのしいぞ!
黄色、白、グリーンの色を塗り終わったらキラキラしたラメのような不思議な塗料(岩さんいわく「企業秘密」とのことなので詳しくは書きません。ここらへんも職人っぽい。かっこいい。ぼくも企業秘密持ちたい!)を塗る。
で、ここでや岩さんがなにやら調合を始めた。
はかりの上でなにやら調合を始めた。
「なんですかそれ?」
「これがウレタン塗料。2液を混ぜて使うものなんです」
「エポキシ接着剤みたいな?」
「そうそう」
よく聞く「ラッカー塗料」(これまで塗ってきた色の塗料はすべてこのラッカー塗料)が、乾燥させると溶剤が抜けて硬化する仕組みなのに対して、ウレタン塗料とは化学反応によって硬化するものだそうだ。
「だから厚く塗れるし、仕上げのきれいさはすばらしい」
「へー!」
「すごく丈夫で、ガソリンかけても溶けない」
「ほほー!」
「車の塗装にも使われるぐらいだからね。だからこのストラップ、携帯電話とこすれてもはがれたりしない」
前述した「手触りが…」というその秘密は、この仕上げのウレタン塗装にあるようだ。たしかにこのヌラっとした厚みのある透明な皮膜は魅力的だ。しかも頑丈。言うことなしだ。
じゃあなんで世の中の塗装がすべてウレタン塗装じゃないのかというと…って、ここで岩さんがやおらぶっそうな装備を身につけた!
防毒マスク!何が始まるの!?
そうなのだ。このウレタン塗料、猛毒なのだ。
だからファンで吸気し、なおかつ防毒マスクを着用。こりゃあ、ふつう趣味で使うものじゃないわー。
さすがにこの工程は岩さんにやってもらいました。
塗ったものを例の乾燥機に入れる。熱を加えて反応を促進するわけだ。
摂氏(℃)だけじゃなくて華氏の表示もあるあたりがプロ仕様って感じだ。
きっかけはガンダム
すぐそばにあるインド料理屋で夕ご飯。ここ美味しくてお気に入り。
「これでだいたい1時間ぐらいだね」
「じゃあごはんでも食べに行きましょうか」
と、近所のインド料理屋に行った。
「ところでなんで塗装に興味持つようになったの?」
「部屋にガンダムのプラモデルあったでしょ、あれだねー」
「あー、あったねー」
大人になってあらためて作って塗ってみたガンダム。それが塗装にのめり込むきっかけだったそうだ。
「子供の頃って、塗装を真剣にやらないじゃない」
「やらないねえ。ぼくも組み立てて、適当に塗っておしまいだった」
「で、大人になって真剣にやってみたら、塗装がおもしろくて」
「ああー、そうか。塗装って根気のある大人のやることだっていうのは分かる気がする」
「大人でもね、結局塗装ってあまりやりたがらないんだよ、めんどくさいし、時間かかるし、地味だし」
「うん、それは今日やってみてよく分かった」
「でもねえ、ちゃんとやればちゃんと結果が出るんだよね。それが好きで」
やっぱり、塗装向きの性格ってあるんだろうなー、と思った。ぼくはだめだー。
それにしても、ガンプラがこういう影響与えるケースもあるとは。ガンダムすごい。
このあと、ビール飲んでディスカバリーチャンネルの話で盛り上がった。「なんでアメリカ人はあんなにサメが好きなのか?」って。
完成!
ビール飲んで、良い気分になって帰ってきたら、完成!おおお!良い感じだ!
耳の片方に穴を空けて金具を付けて
携帯電話に付ける。(こうやってみると携帯電話のほうにこそ塗装が必要な感じだが)
うれしい!
予想以上にしっかりしたものができて大満足。塗装面白い。そしてなによりこういう形でお隣さんと仲良くなれたのがうれしい。
「これ、またやろうよ!」
「うん、やろうやろう!」
また開催してくれるみたいなので、そのときは参加者募集します。興味ある人はtwitterのぼくのアカウント
@sohsai あるいは岩さんのアカウント
@GUN_3 を見てみてください。