特集 2011年8月25日

ドラマで描かれない場面を描き出す

喜怒哀楽した人のその後ってどうなるんだ
喜怒哀楽した人のその後ってどうなるんだ
ドラマや漫画を見ていて、気になっていることがある。

ストーリーを追っていると、登場人物たちの、そしてその作品の世界の、描かれない部分の動きがどうなっているのか、ということが知りたくなってくるのだ。

その中にこそ、本筋よりもっとおもしろい場面があるんじゃないかと思うのだ。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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描かれない部分にもいろいろあるはずだ

ほとんどのドラマや漫画では、「大筋」や「伏線」と関係ない部分は省略されて描かれない。たとえば主人公が恋人に別れ話を切り出されて、その恋人が去って行ったあと、次の場面では家でヤケ酒を煽っていたりする。
「このダムがさぁー」
「このダムがさぁー」
「もう、あなたにはついて行けないの」
「もう、あなたにはついて行けないの」
「さようなら…」
「さようなら…」
「ちくしょーダム好きで何が悪い!」
「ちくしょーダム好きで何が悪い!」
でも本当は、別れ話をした公園を出てから家でビールを開けるまでの間にだって、いろいろな場面があったはずだ。
動揺しながら荷物をしまったり
動揺しながら荷物をしまったり
茫然自失のあまり道が分からなくなったり
茫然自失のあまり道が分からなくなったり
自販機が彼女に見えてしまったり
自販機が彼女に見えてしまったり
太陽の熱で彼女の温もりを思い出したり
太陽の熱で彼女の温もりを思い出したり
今夜は飲み明かそうとビールを選んだり
今夜は飲み明かそうとビールを選んだり
おつまみを選んでいたらなんだか楽しくなってきたり
おつまみを選んでいたらなんだか楽しくなってきたり
夕方のタイムセールでもっと安くなるな...なんて本来の目的を見失ったり
夕方のタイムセールでもっと安くなるな...なんて本来の目的を見失ったり
そしてひとりでとぼとぼ家に向かって歩いたり
そしてひとりでとぼとぼ家に向かって歩いたり
こういったことを経て、それから家に帰ってトイレに入ったり手を洗ったり金魚に餌をやったり、あと鞄からダムの本を出して、さらに机を片付けてビールとおつまみを準備して、ようやくこの場面にたどり着くのだ。
「ちくしょーダム好きで何が悪い!」
「ちくしょーダム好きで何が悪い!」
もちろん当たり前だけど、こういった行程をすべて描き出すとそれは現実の時間の流れと一緒になって、もはやフィクションではなくなる。リアル成長物語だ。そこで脚本や演出や編集で、必要な部分をピックアップして物語を作る。つまり物語とはある意味ダイジェスト版とも言える。

でも、こういう「描かれなかった時間」や、その中の「登場人物の行動」を勝手に想像するのは楽しい。

皆やって来て、去って行く

ところで、そんな「ふだん描かれない場面」で僕が特に見たいと思うのは「人が去って行く場面」、もっと言えば「笑ったり怒ったりした人がひとりになって真顔に戻る場面」だ。主人公と接触する人物を描くとき、会う場面は描かれても、別れたあと遠ざかって行く場面は省略されることが多いと思う。用が済んだのにずっとカメラが追っていたら、それはほとんど死亡フラグだろう。

強いて言えば「ドラえもん」で、血相を変えたジャイアンがやって来て、のび太をボコボコにして去って行く、という場面以外であまり見たことがない。

関係ないけど、ジャイアンがのび太をボコボコにしている場面(あの砂嵐みたいな中から手や足が出てくる)の一挙手一投足をリアルに再現したら、そうとう凄惨なシーンになりそうだ。ドラえもん、PG12指定である。

とにかく、去っていく場面が意味もなく挟まれていたら、なぜだか楽しい気がするのだ。そこで、編集部の皆さんに協力してもらい、「喜怒哀楽を抱えた人たちが主人公に会って、そして去っていく場面」を再現してみた。
喜ぶ橋田さん、怒る古賀さん、悲しむ石川さん、楽しむ工藤さん
喜ぶ橋田さん、怒る古賀さん、悲しむ石川さん、楽しむ工藤さん
たとえばこういうことだ。
「え、どうしたの?」
「え、どうしたの?」
「なになにー?」
「なになにー?」
「えー!くれるのー!!」
「えー!くれるのー!!」
...話の展開に無理があるけどそこには目をつぶって、もしこういうシーンがあったら、この次は橋田さんがきのこの山を食べている場面になるだろう。笑顔で食べている微笑ましいシーンか、もしかしたら毒が入れられていて苦しんでいるかも知れない。

でもその前に、正確には橋田さんは主人公の前から去っている。だからこういうシーンがあったはずだ。
「えー!くれるのー!!」
「えー!くれるのー!!」
すたすた
すたすた
怒った人も同様だ。
「あ、とうとう見つけた!」
「あ、とうとう見つけた!」
「このやろう忘れたとは言わせねえぞ!」
「このやろう忘れたとは言わせねえぞ!」
「とっくに期限は過ぎてんだよ!」
「とっくに期限は過ぎてんだよ!」
どこで学んだのか知らないが、古賀さんは本当にこういう演技がうまい。実際は何も言っていないのに、こんなキャプションがしっくりきてしまう人もそういないだろう。

それはともかく、この次のシーンは古賀さんの表情で借金が取り返せたのかどうかが決まるだろう。笑顔でお酒でも飲んでいればひと仕事終えたことになるし、怒りに満ちていれば主人公が文無しだったことになる。

でもどちらにせよ、その前に主人公のもとから去っているのは事実だろう。
「とっくに期限は過ぎてんだよ!」
「とっくに期限は過ぎてんだよ!」
すたすた
すたすた
どうだろう。こうやってふつう描かれないシーンを入れてみると妙におかしくならないだろうか。

では哀しむ人でもおかしくなるか調べてみよう。
「うう...なんてこった...」
「うう...なんてこった...」
「あ...おまえ...ここにいたのか...」
「あ...おまえ...ここにいたのか...」
「このタイミングで日銀の介入かよ...」
「このタイミングで日銀の介入かよ...」
撮影のときは違う悲しみを口にしていた石川さんだけど、写真を見て何となくトレーダーにしてしまった。

どうやら多額の損害を出してしまったようでこの次のシーンを想像するのが少し怖いけど(天性の勝負勘で一発逆転、というストーリーももちろんあり得る)、とにかくその前に主人公のもとを立ち去っているはずだ。
「このタイミングで日銀の介入かよ...」
「このタイミングで日銀の介入かよ...」
すたすた
すたすた
何かを決意したような後姿にも見えるし、事の重大さをまったく忘れた後姿のようにも見えるのが興味深い。後姿はそれまでの感情の波を断ち切る効果があるような気もする。

などと思っていたら、向こうから楽しそうな人がやってきた。
「どーもー」
「どーもー」
「♪懐かしい匂いがしたーフビライハンの鼠蹊ー」
「♪懐かしい匂いがしたーフビライハンの鼠蹊ー」
「101回目のコルホーズ!」
「101回目のコルホーズ!」
すごく楽しそうな工藤さんのセリフ、何て言わせたらいいのかものすごく悩んで、工藤さんのTwitterを半年分くらい見てしまった。

まあとにかく楽しそうなので、きっとこのテンションのままお家に帰って寝て明日も楽しい一日が待っているのだろう。
「101回目のコルホーズ!」
「101回目のコルホーズ!」
すたすた
すたすた
ただ人々が去って行くだけ、別に笑わせようとしていないのに、なんだかおかしくないだろうか。

こんな感じで、「本当はあるはずだけど描かれない場面」を勝手に想像するとおもしろいと思うのだ。

それではまた。
すたすた
すたすた

能書きを垂れましたが

正直に言うと、僕はドラマや漫画をほとんど見なくて、ただいろんな人が去っていく場面を並べてみたかっただけだ。理由は分からないけど、頭の中ではぜったいおもしろいと思っていた。

それで、そんなあやふやなアイデアを形にするために、4人もの仕事中の大人の手を借りてしまった。撮影するまでは(僕を含めて)全員不安だったけど、やっぱりおもしろかった。

今後もっといろんな人の後姿を同じ角度で撮って並べてみたいと思う。
ニフティの近くの公園で撮影していたら、ちょうど夏休み明けのウェブマスター林さんが通りがかって、こんな偶然も物語では描かれないよなと思った
ニフティの近くの公園で撮影していたら、ちょうど夏休み明けのウェブマスター林さんが通りがかって、こんな偶然も物語では描かれないよなと思った
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