分岐してまた合流してる川
分水嶺の取材で出かけた空堀川を地図で見ていたら、少し下流で不思議な場所を見つけた。川がいったん分岐して、少し先でまた合流しているのだ。
しかも片方はスムーズな流れ、もう片方はくねくねした流れ。そして分岐と合流の場所をよく見ると微妙に繋がっていないような気もする。これはいったいどういうことだろう。
見つけてしまったら気になって気になって、結局、分水嶺の取材から2ヶ月後、また空堀川に出かけた。
都市河川の構造物にわくわく
まずやってきたのは、上の地図でいちばん右に架かっている橋の上。下流側の合流点が正面に見える場所だ。
合流地点のすぐ下流の橋
川の中になんかある
橋の上から上流の方を見ると、少し先の川の中をコンクリートの壁のようなものが横断していて、その先に水路が続いているのが見えた。あれはなんだろう。そして水はどう流れてきているのだろう。
少し歩いて、合流点の近くに行ってみた。
合流点かと思ったら完全に隔たれていた
水の流れている川が合流しているのかと思ったそこは、低いながら壁が横断していて、2つの水路は完全に隔たれていた。
空堀川の水は矢印の通り、左奥から流れてきて、壁に沿って左手前の方に流れていた。右奥から来ている水路にも水が見えるけど、まず深さがぜんぜん違うし、水の行き場はないように見える。いったいどういうことだろう。
合流点を上流側から見たところ
もう少し歩いて合流点を上流側から見てみると、横断している壁の向こう側は想像したより複雑な形をしていた。そして水路は狭くなって消えている。わずかに水が流れてきていたけど、どこに行っているのか分からない。何だこれ、わくわくする!
こういうコンクリート張りの都市河川、あまり好きな人はいないだろうけど、僕は物心ついたときから家の近くの川がこんな感じだったので違和感なく好きだ。そしてこういう都市河川の構造物を見ると、どう水が流れるのか想像して胸が躍る。
とりあえず、もう一方の分岐点を目指し、上流に向かって歩くことにした。すると、何と、こんな場所にダムがあったのだ。
上流に歩いていく
ダムがあった
少し歩くと、ほとんど水が流れていない川の中を塞ぐコンクリートの壁があった。かなり小さいけど、これはダムか。
川を塞ぐこれはダムか
直線的な川をどーんと塞ぐダム状の構造物、これはいったい何だろう。ダムなら水を貯めているかと思ったけど、さらに歩いて上流側にまわっても水はまったくなかった。
小さい水門もついていてますますダムっぽい
川底には緑が生い茂っていて、ほんのわずかに水が流れている以外、ふだん水が増えることはないのだろう。
さらに歩いていくと、もうひとつダム状のものが川を塞いでいた。地図で確認すると、あそこが川の分岐点になっている場所らしい。下流側からは道がなくてこれ以上近づけないので、反対側にまわって、分岐点を正面から観てみることにした。
もうひとつダムっぽいものがあった
ちょっとまわり道をして分岐点の上流側に出た。ここから下流方向を見ると、すぐ目の前に分岐点があった。でも「川の分岐点」という意味では、そこは今まで見たことのないような形をしていた。
ふだんの空堀川は手前から右奥に流れて行く
見たことない形だけど、これを見てこの先の「水のない水路」が何なのか分かった。いったん分岐してまた合流しているように見えたあの水路は、大雨で空堀川が溢れそうになったとき、一時的に水を貯める調整池のようなものだろう。
上の写真で、奥の水路との境の壁が一段低くなっているように、空堀川の水位が一定以上になると、あの低い部分から溢れた分が水路の方に流れていく仕組みなのだ。
そう考えると、水路の途中にあったダム状のものは、やっぱり一時的に水を貯めるダムなのかも知れない。考えられる理由としては、大雨で空堀川から勢いよく溢れてきた水をいったん塞き止めて、水路の下流の方に流れていく勢いを和らげているのかも知れない。
それにしてもなぜこんなに立派な調整池が必要なのかと思って、分岐してから合流するまでの空堀川を見てみて驚いた。本来の空堀川は、調整池の水路とは比較にならないほど狭くて浅くてくねくね曲がった川なのだ。
細くて浅いうえここでは直角にクランクしてる
ちょっと雨降ったら一瞬で溢れるだろう
たぶん、昔の空堀川は農地や雑木林の中を気ままに蛇行して、大雨のたびに氾濫しているような川だったのだろう。でもいつの間にかまわりが住宅地になって、氾濫すると大きな被害が出るようになり、こういった大規模な調整池が作られたのだと思う。調整池に貯まった水は、下流の合流点のところでポンプか何かで空堀川に戻されているんだと思う。
でもまあ、そういったいきさつはともかく、こういう都市河川の構造物はなんだかわくわくする。今度大雨が降ったらあの分岐点に見に来てみようと思った。
ところで、空堀川はこの場所だけじゃなく、もう少し下流でも大規模な水路を作っている場所があった。こちらも気になったので、どんな風になっているのか見に行った。
さらに大規模な調整池があった
前のページの合流点から1kmちょっと下流でも、同じように空堀川に怪しい水路が交差している場所があった。
とりあえず、右側の空堀川と水路が直角に交わっているように見える場所に行ってみた。すると、そこはさらにすごい仕掛けの調整池が待っていた。
真っすぐ掘られた、深くて広い調整池の上を、浅くて細い空堀川が横切っているのだ。
右奥に延びる水のない水路の上を直角に横切る空堀川
上の写真の左側にも水路が延びている
水路の「立体交差」を上流から見たところ
ここもなんだかややこしい形をしていたが、大雨のときの水の流れを目で追っていたら何となく分かった。すぐ上の写真で、右から左に流れる空堀川の水が多くなってくると、やや低くしてある手前の壁を乗り越えて調整池内に入ってくる。手前と奥の調整池はトンネルで繋がっているので、かなり大きな容量を持つ調整池と言えそうだ。
空堀川の下はトンネルで繋がっていた
空堀川ではカルガモの親子がのんびり
そこから調整池沿いに上流に歩いていくと、染み出した水で少し濡れていた川底もすっかり干上がり、まったく水の流れてない水路になった。これはなかなか不思議な光景だ。
一見するとふつうの川だけど
少し遡ったらまったく水がなくなった
水路のいちばん上流側の終点
ここも、空堀川が溢れそうになる事態にならなきゃ水が来ないようで、周囲には雑草が我が物顔で蔓延っていた。
今度は空堀川の向こう側の水路に行ってみよう。
この調節池たちの秘密
空堀川を超えたところの調節池はやや水が貯まっていて、その先には排水機場があった。つまり一時的に貯めた水を、洪水が収まった後に川に戻すポンプ場だ。
下流側も行き止まりになっていた
ここで初めて「調節池」と書いてあるのを見た
行き止まりのすぐ脇に建物があって
排水機場と看板があった
地図を見ると、その下流に水路の表記はなかったけど、ちょうど調節池の延長線上の土地が空いていたので、行ってみたら既に水路が掘ってあった。でもさっきの調節池よりはだいぶ浅く、今のところはまったく水が流れることはなさそうだった。
これはこれで、かなりよく分からない景色だと思う。
まったく水が流れる気配すらない水路
空堀川と水路のいちばん下流の合流地点
ところで、この一連の水路のように見える調整池、いずれは1本に繋げて、空堀川の新しい流路として使われるらしい。つまり調節池として使われているのは今だけで、いつになるか分からないけど、全体の工事が終わる頃にはあの壁やダムも取り去られてしまうだろう。
そう考えると「水の流れていない川」状態は貴重な気がするし、実際に調節池としてはたらく姿も見ておきたい気がするし、また、今の細くてくねくねした空堀川の姿もいずれは消えてしまう。これはもう一度、大雨のときに空堀川に来なければいけないのかも知れない。
河川構造物萌え
僕は自他ともに認めるダム好きで、ダムといえば山奥にそびえるコンクリートのでかい壁だけど、子供のころから身近に接してきたのはこういったコンクリートで固められた都市河川で、それが分岐したり合流したりしている姿を見るのも、昔から大好きだった。
本当はそういう場所を何ヶ所かめぐって記事にしようと思っていたけど、空堀川があまりにすごかったので、ここだけで1本の記事にしてしまった。なので近いうちにまた「河川構造物萌え」の記事を書くと思います。
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