四つ手網を上げてみる
小屋の設備を確認したところで、早速網を上げてみよう。
本来は網の上部に設置された電灯で魚を引き寄せる仕組みなので、まだ時間的にはだいぶ早いのだが、かなり前から沈められている網なので、我々を歓迎するウェルカムフィッシュがすでに掛っている可能性は高い。
いやー、楽しみだ。
各自が竿を出す釣りとは違って、みんなで一つの網であり、作業もボタンを押し続けるだけなので、難しい技術は一切必要ない。
それでも手本をみせていただこうと、最初の一上げは唯一の経験者であるナオさんに全員一致でお任せした。大きい魚をお願いします!
ゆっくりゆっくり、見守る我々をじらすように上がってきた網の中には、3センチ程度の小魚、網の目から落ちていく透明な小エビ、崩れかけのクラゲなどが入っていた。
瀬戸内の海よ、そうきましたか。なんとも微妙な水揚げだが、食べられないこともなさそうだ。
揚げて食べたら驚くほどうまい
みんなから「さすがにこれはちょっと食べられないのでは?」という空気を感じるけれど、せっかくだから私は食べたい。
そもそもこの四つ手網は、こういった小物を獲るためのもののような気もするし。
このサイズだと焼いたり刺身にするというのは無理なので、油で揚げるのが無難だろうか。
なんだこれ、全部うまい。
なにが掛っているかわからない網を上げて、獲れた魚をアドリブで調理して、みんなで食べるというアトラクションの素晴らしさ。これぞ人類が守るべき生物多様性の恵みと食文化。
食材はシェフの気まぐれならぬ児島湾の気まぐれ。さらにそれを私が気まぐれで料理するというコンビネーション。ここにあるものだけでどうにかするという制約がまた燃える。そして普通の人はわざわざ食べないかもしれない雑魚がおいしいと言ってもらえる喜びで酒が進む。
参加者のご厚意に甘えつつ、率先して好き勝手に料理させてもらったのだが、「捕まえて食べたい」という同人誌を作るくらいこういうことが好きなので、そりゃもう最高に幸せな時間なのである。ありがとう、今日初めて出会った生涯の友人達よ。
小屋の持ち主である田中さんの話だと、最盛期は50~60棟の四つ手網小屋があったそうだが、大きな台風が来たときにかなりの数が被害を受けて、現在は20数棟とのこと。
「四つ手網は大型のオモチャですね。網の上を魚が通った時に上げるのがベスト。タイミングの正解はわかりません。だからこそおもしろいんです。数年前に70センチくらいのヒラメが獲れたこともあります。
そろそろベイカ(小型のイカ)が入ってくるはずですが、だんだんと数が減ってきています。今年も不漁が多いですね。それを頭において遊んでください。毒ビレのあるオコゼとかが入ることもあるから、とにかく怪我だけはしないように」
はい。安全第一で、あまり期待はせずに全力で楽しみます!