お大尽な大臣の別荘へ
山本悌二郎の別荘(以下、山本邸)があるのは、佐渡島のほぼ南端。矢島・経島(やじま・きょうじま)という、1802年の地震による隆起で繋がった小さな島の上で、たらい舟乗り場の奥から歩いて行ける場所にあった。
矢島は矢に使う竹の産地で、『平家物語』で源頼政がヌエ退治に使った矢が矢島産と言われている。また経島は日蓮の弟子が読経して一夜を明かした伝説があるのだとか。情報量が多い。
別に悌二郎の子孫でも関係者でもなかったが、諸々あって山本邸を受け継いだという田中さんに案内してもらい、明治時代に建てられた別荘へと向かう。
これぞ風光明媚という景色を楽しみつつ、足元に気をつけながらゴツゴツした遊歩道を進んでいくと、なにやらただ事ではない感じの門があり、その奥に山本邸が静かに佇んでいた。
正直な感想としては「この山小屋が大臣の別荘?」という感じで、まったくピンとこなかったのだが、中に上がらせてもらって、そして扉を全開にして、ようやくそのすごさに気がついた。
これは相当ヤバいのでは。
これが農林大臣だった山本悌二郎の別荘だ
建物の内部は一般公開に向けた改修作業をしており、余裕で築100年以上の建造物をどうにか残すべく、試行錯誤の真っ最中だった。
しばらくは私の脳味噌が追いつかなかったが、邸内をウロウロさせていただくうちに、その特別さがわかってきた。古いまま残っている柱や壁が、そして建具を開け放つことで広がる景色が、どこをとっても普通ではないのだ。
ずぶの素人でもよくわかる圧倒的な凄み。山小屋とか言って、本当にすみませんでした。
そしてなんといってもすごいのが、千鳥の間の対角線上にある部屋、藤の間だ。
小木港を望む海に面した建具を全開にすると、巨大スクリーンのような絶景が現れるのだ。
そして藤の間だけに、藤棚を模した唯一無二の床柱と天井の造形がお見事。いわゆる「侘び寂び」とも違う、独特の強烈な世界観が空間を支配している。これが悌二朗の趣味なのだろうか。
さらにすごいのは開け放たれた側の反対も全開となるため、海風がこの部屋をきれいに通り抜けるのである。どちらの側からも海がみえるという贅沢。