特集 2024年11月2日

佐渡島にあるお大尽な大臣の別荘、山本邸から見る景色に驚いた

「ここ俺の別荘なんだぜ!」って言える場所ができました。すごい景色と空間なんですよ。

昨年の夏に佐渡島を訪れた際、島に住む友人の田中藍さんが「おもしろい物件があるんだよ~、ヤバいってマジで!」と目をキラキラさせながら、海っぺりに立つ不思議な建物を案内してくれた。

それは佐渡島出身の政治家・実業家で、農林大臣を務めた山本悌二郎(やまもとていじろう:明治3年(1870)~昭和12年(1937))が、明治44年(1911)に建てた別荘で、確かにいろいろとすごかった。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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お大尽な大臣の別荘へ

山本悌二郎の別荘(以下、山本邸)があるのは、佐渡島のほぼ南端。矢島・経島(やじま・きょうじま)という、1802年の地震による隆起で繋がった小さな島の上で、たらい舟乗り場の奥から歩いて行ける場所にあった。

矢島は矢に使う竹の産地で、『平家物語』で源頼政がヌエ退治に使った矢が矢島産と言われている。また経島は日蓮の弟子が読経して一夜を明かした伝説があるのだとか。情報量が多い。

別に悌二郎の子孫でも関係者でもなかったが、諸々あって山本邸を受け継いだという田中さんに案内してもらい、明治時代に建てられた別荘へと向かう。

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佐渡島のたらい舟乗り場は、小木港、宿根木、矢島・経島と3箇所あるので気をつけよう。
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車はたらい舟乗り場の前ではなく、上の地図の左上にある駐車場に停めて歩いてください。
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遊歩道の先にある、赤い太鼓橋を越えると矢島・経島。
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この入り江は透明度が素晴らしく、たらい舟から泳いでいるクロダイやアオリイカが見えて楽しいよ。
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これぞ風光明媚という景色を楽しみつつ、足元に気をつけながらゴツゴツした遊歩道を進んでいくと、なにやらただ事ではない感じの門があり、その奥に山本邸が静かに佇んでいた。

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流木と思われる木材を大胆に使った門。今思えば、この時点で山本邸の芸術性は示されていたのだ。
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これが山本邸だそうです。ええと、山小屋?
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私が訪れた昨年夏に貼られていた、山本悌二郎の写真。

正直な感想としては「この山小屋が大臣の別荘?」という感じで、まったくピンとこなかったのだが、中に上がらせてもらって、そして扉を全開にして、ようやくそのすごさに気がついた。

これは相当ヤバいのでは。

これが農林大臣だった山本悌二郎の別荘だ

建物の内部は一般公開に向けた改修作業をしており、余裕で築100年以上の建造物をどうにか残すべく、試行錯誤の真っ最中だった。

しばらくは私の脳味噌が追いつかなかったが、邸内をウロウロさせていただくうちに、その特別さがわかってきた。古いまま残っている柱や壁が、そして建具を開け放つことで広がる景色が、どこをとっても普通ではないのだ。

ずぶの素人でもよくわかる圧倒的な凄み。山小屋とか言って、本当にすみませんでした。

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天井に飾られた木(巨木の根?)が角度によって様々な鳥に見えるから、「千鳥の間」と名付けられた部屋。
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その扉を開けると海。現在は砂が溜まってしまっているが、当時はここに魚が放たれていて、生け簀のようになっていたとか。
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芸者と釣り堀ごっこでもしたのだろうか。さすが事業家であり政治家であった、お大尽様なお大臣様。
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あえて天井にフナクイムシによって侵食された木々を使うという独特のセンス。沈没船の材だと言われている。
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矢島に自生していた矢竹を使った美しい天井。
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矢島の矢竹は「双生矢竹」と呼ばれる2本の稈(かん)が対になって生える珍しい双子竹で(現在は生えていないとされている)、節がきれいに並んだ竹がセットで並べられていた。
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大胆にあしらわれたこの木は、柿の老木に稀に現れる、タンニンが染みだした「黒柿」。これ以外にも、見る人が見たら驚くであろう貴材・古材が随所に使われている。
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ここに風呂場があったそうだ。そりゃ気持ちがいいだろうよ。
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入口の反対側より。意外と大きい建物なんですよ。窓ガラスは昭和になってからつけられたものと思われる。
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そしてなんといってもすごいのが、千鳥の間の対角線上にある部屋、藤の間だ。

小木港を望む海に面した建具を全開にすると、巨大スクリーンのような絶景が現れるのだ。

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ここからの景色がすごかった。
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写真だと伝わり切らない解放感。左に見えるのが小木港。
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これはすごい場所だ。借景という言葉の意味が理解できる。
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そして藤の間だけに、藤棚を模した唯一無二の床柱と天井の造形がお見事。いわゆる「侘び寂び」とも違う、独特の強烈な世界観が空間を支配している。これが悌二朗の趣味なのだろうか。

さらにすごいのは開け放たれた側の反対も全開となるため、海風がこの部屋をきれいに通り抜けるのである。どちらの側からも海がみえるという贅沢。

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藤棚を模した床柱と天井、すごくないですか。でもそれだけじゃないんですよ。
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この流木が龍を表していると教えられて、びっしりと鳥肌が立った。流木の龍……

 

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天井の飾り木は藤の花を表していると言われているが、見る人によって別の「なにか」に見えるのだろう。
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反対側の壁から飛び出た柱の一部がまたすごい。建物自体が妖怪のようだ。
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「せっかく畳を入れ替えたんだけど、海が近すぎてお手入れが大変なのよ」と田中さん。そりゃそうだろう。

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