特集 2020年11月18日

〇〇エッグという名前の料理が多いので整理したい

エッグ・フェスの開幕!

卵料理の名前がわからない。

正確に言うと、『○○エッグ』だの『エッグ××』だのといった英語由来の卵料理は、名前と実物が頭の中でいっこうに対応しない。

知っている人からしたら馬鹿みたいに簡単なことなのかもしれないが、私のようなエッグ・情弱のためにも、ここらで一旦整理しておくべきなんではないだろうか?

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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> 個人サイト 海底クラブ

温泉卵=スコッチエッグ?

家で温泉卵を作った時のことだ。
とろとろの黄身を潰しながら
「これ、イギリスに持っていったらスコッチエッグだな」
という思いつきが頭をよぎったのだが、よぎってすぐに自信がなくなった。
はて?温泉卵みたいなふわふわとろとろの卵料理の名前は『スコッチエッグ』でよかっただろうか?

不安になってきた。
自分一人で間違えている分には構わないが、人との会話での間違いはいつ、どんなすれ違いに発展してしまわないとも限らないではないか。
今こそエッグ料理(エッグと名のつく卵料理を便宜的にこう呼ぶ)の顔と名前を一致させなければならない。
私は使命感に燃えて卵を求めてスーパーに直行した。

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2パックでで300円くらいでした。安さも卵の魅力ですね。

茹でる、焼く、炒める

日本人の生卵食は世界的に見ればかなり珍しいものらしい。
エッグ料理の主な発信地である英語圏では、ほとんどゲテモノ扱いでさえあると聞いたことがある。
卵かけご飯が『NAMATAMAGO』としてニューヨークのセレブたちに人気の朝食になる日がいつかは来るかもしれないけれど、今のところ彼らの食べるエッグは必ず加熱されている。

そして、卵を加熱する最もシンプルなやり方がこれだ。ボイルドエッグ。日本語で茹で卵だ。
日本語話者で茹で卵のことをわざわざボイルドエッグという人はあまりいないから、あえて紹介する必要はないかもしれないけれど、ボイルドエッグは他のエッグ料理を作る前段階にもなるのだ。

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固茹で。

同じくらいシンプルで、なおかつよく作られているのが目玉焼きだろう。英語ではフライドエッグという。油をひいてその上で焼くからFry(揚げる)と名がつくそうだ。

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フライドエッグが黄身を潰さずに気を使って焼く料理なら、その真逆にあるのがスクランブルエッグだ。とにかくぐちゃぐちゃに混ぜながら炒めるのだから世話がない。
スクランブル(Scranble)とはかき混ぜるという意味の英語である。

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混ぜながら加熱する。牛乳なんかを少量入れるとさらに美味しい。
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そして出来上がるスクランブルエッグ。

素朴ななりである。
『スクランブルエッグ』などという立派な名前がなかったら失敗したオムレツとしか思われなかったかもしれない。名前は大事だ。

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よく見る3品がそろいました。

温泉卵みたいやつはポーチドエッグという料理だった

以上の3品はあまりにも有名すぎるから、あえて紹介するまでもなかったかもしれない。
ややこしくなるのはここからだ。

ことの発端となったエッグ料理だが、「温泉卵みたいなやつ エッグ」で検索したところ一発で解決した。あれは、ポーチドエッグというのだ。
スコッチエッグではなかったことに落胆しつつ、同じような間違いをしている人がたくさんいることに少し安心した。インターネットさえあれば、簡単に同じ穴のムジナを見つけることができる。

さて、ポーチドエッグの作り方だが

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鍋に沸かした湯をお玉や菜箸でかき混ぜて渦を作り、そのまん中に卵を割り落とす。
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2分くらい茹でてから、そっと取り出して水気をきる。
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完成!
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わあ......!

レシピ通りにつくったら、信じられないくらいとろとろの卵が出来上がった。これは、温泉卵よりもゆるい。
白身は固まっているが、黄身はほぼ人肌に温まった程度のようだ。成長して少しずつ高くなっていく木を毎日飛び越える忍者の修行ではないけれど、毎日1秒ずつ加熱時間を短くしながらポーチドエッグを作って食べていれば、誰でも生卵を平気で食べられるようになるんじゃないだろうか。

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ポーチドエッグの由来は、「弱火で崩さないように煮る」という意味をもつpoachという単語である。
そして、このポーチドエッグをパンとハムを重ねた台にのせ、上からオランデーズソースをかけたものがエッグベネディクトだ。
こちらはベネディクト氏が考案したからこの名前なのだそう。

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エッグノッグは卵と牛乳で作る『飲むプリン』

ここまで5品のエッグ料理を作ってきて、それを全部食べてみた。どれも美味しいけれど、食べるときに塩を振るから口の中が辛くなってきた。
ここらで一つ甘いものが恋しくなったので、エッグノッグという甘いエッグ飲料にトライしてみることに。

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作り方はシンプル。卵と牛乳と砂糖を混ぜて鍋でゆっくり加熱する。
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全体がもったりしてきたら完成だ。

中身が熱で固まってしまわないようにゆっくりと木べらで混ぜながら、そういえば前にもこんなことをしたことがあったなと思い出した。
そう、あれは蘇を作ったときだ。

主にTwitter上で、ある日気がつくと大ブームになっていた蘇作りは、気がつくと誰もやらなくなっていた。たった半年と少し前のことなのに、なんだかとても懐かしい。

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好みで上にシナモンパウダーをふりかけて飲む。
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とても落ち着く味。

材料がほとんどプリンと同じである。だから味はほぼ飲むプリン、優しい甘さで飲むとホッと落ち着く。
初めてエッグノッグの存在を知ったのは、たしかハリー・ポッターの本を読んだ時のことだったと思う。だいぶん前である。
気になる「ノッグ」という名前の由来だが、木彫りのマグを意味するnogginからきたという説や、ラム酒を指すgrog(大人向けのエッグノッグにはラム酒やブランデーといった酒が入ることも多い)という単語が元だという説があり、一定しない。

エッグスラット

スラットという言葉には、思わず「あら、まあ......」と言ってしまいそうな意味があるので、興味のある人は調べてみてほしい。

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まず蒸したジャガイモを牛乳やバターと一緒にマッシュして、
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耐熱性の容器にイモ+生卵を入れ、10分ほど湯煎する。

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潰して混ぜて、パンにつけて食べる。

パン、ジャガイモ、卵という、まるで「人間の好きなものを集めました」とでも言いたげな三位一体感で幸せになれる。

ボイルドエッグにさらに手を加えて作られる料理たち

最後に、ボイルドエッグにさらに一手間加えた料理を二つ紹介したい。

まずはでデビルドエッグという料理。
半分に切ったボイルドエッグから黄身を取り出し、マヨネーズやお酢で味付けしてから再度白身を合体させる。最後に茹でたエビを上にのせパセリをふりかけたら完成だ。

中身を抜いて弄って元に戻すところに猟奇っぽさを覚えて「デビル」なんて名前がついたのかな?怖い!
と思ったら全然そんなことはなく、Devileには「濃い味付け」という意味があるらしい。フィーリングで外国語を理解しようとすると、たまにとんでもない誤解が生じてしまうのだ。

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エビがのってるのが特徴。

最後はスコッチエッグ。初めポーチどエッグと取り違えていたが、調べてみると全然違う料理だった。
なお「スコッチ」はイギリスのスコットランド地方を意味する言葉だが、この料理がスコットランド発祥だという確たる証拠はないらしい。なんなんだ一体......。

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半熟に茹でたボイルドエッグを胡椒やナツメグで味付けしたひき肉の生地で包み、
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衣をつけてじっくり揚げる。
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丸い。ナイフを入れるときにうっかりコロリンと転がしてしまわないよう注意が必要だ。
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こ、これは......!

この記事に出てきたエッグ料理は、私が考えた創作料理なんかではない。歴史の荒波にもまれ、今日までアップグレードを繰り返しつつ生き延びてきた歴戦の猛者たちだ。言ってみれば美味しくて当たり前なのだ。


揚げたてのスコッチエッグは、それらの中でも抜きん出た存在だった。味もうまいが、食感がすごい。

揚げ物の魅力は、外はカリッ、中はジュワッという食感のコントラストだが、スコッチエッグの場合はその後にさらに卵のプヨッ→トロッという食感が続くのだ。食感のアンコールだ。
あまりに美味しくて食べた人もアンコールを要望する料理であることは間違いないだろう。

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困った時はチャートを見よう

最初の目的を半ば忘れてエッグ料理を堪能してしまった。
今はそれぞれの料理が強く印象に残っているから、名前を間違えることはないが、習ったことは忘れるのが人間の常だ。最後に今回作ったエッグ料理を区別するYes/Noチャートを作って締めとしたい。

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Yes/Noで正しいエッグ料理に到達できるチャート。「この卵料理、何だっけ?」という時に使ってみてほしい。

卵の可能性は無限大

この記事を書くに当たって、1日で10個以上の卵を食べた。「卵は1日1個まで」説が本当ならかなり致命的な事態なのだが、ともかくこんなに食べても飽きないくらい卵料理のバリエーションは広いのだ。
今回は○○エッグという名前の料理ばかりを作ったわけだが、そういう縛りを取り払えばまだまだ度肝を抜かれるような卵料理がこの世には存在するに違いない。
なんせ卵は(ほとんど)世界中で食べられている。
卵には好奇心を刺激する無限の可能性が詰まっているのだ。

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茹で時間を油性ペンで書き込まれたボイルドエッグ。吹き出しみたいで可愛い。
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