設計演習A展が2025年もやってきた
今年も早稲田の設計演習A展にやってきた。「役に立たない機械」が有名な、建築学科の名物授業だ。
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会場は早稲田大学のキャンパス内。受験を考えている高校生向けのオープンキャンパスに合わせて開催されている。
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したがって会場には高校生やその家族がいっぱいいた。会場ではスタッフたちが、展示の説明をしつつ、早稲田大学の受験に関する相談を受けていたりした。
都市のリズムを採集
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まずは「都市のリズムを採集」という課題だ。
「街の中にあるものに、リズムを見つけ出して、それを各自の創意によって可視化しなさい」(出題:中谷礼仁教授)
というものである。どの課題も、作品とセットと見ることで初めて意味がつかめるようなことが多い。まずは作品を一つ見てみよう。
一瞬わからないけれど、左上から順に右へ下へと見ていくと意味がわかる。その瞬間がすこし気持ちいい。
電車で向かいに座る人たちの席が、だんだん埋まっていくリズムだ。まずは両端から埋まる。すごく分かる。安心するもんね。すると真ん中が埋まる。これも分かる。なるべく離れたいからだ。あとは、なしくずしになる。
こういうリズムあるな、と思ったことはある。でもぼくが思い浮かべていたのは、もっと記号的な図だった。
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みたいな。それよりもちゃんと絵になってるのがいい。説得力が全然違う。
これもいい。最初は分からないけれど、舗装に生えた植物だと分かる。たぶん左側はアスファルトかなにかで、右側はブロックかなにかだろうか。
分からなすぎてもつまらないし、その加減がいいのかもしれない。ブロックを描かずにコケだけ描くのがおしゃれだ。
傘の群れを真上から見たところだ。きれい。
こういう光景はありそうな気がするけれど、色や柄や大きさ、透明かどうかなどがけっこう違っていてリズムになっている。
この作品については、会場にスタッフとして作者がいたので話を聞いてみた。
住吉さんは早稲田大学創造理工学部建築学科の2年生。好きな建築は『軽井沢の山荘』(吉村順三)とのこと。
作品の光景は、渋谷のスクランブル交差点をヒカリエから見たところだそうだ。実際の風景そのままだと要素が多くなりすぎるので捨象した。上からだと傘を持つ人は見えないが、傘の大きさや重なり具合から、どんな人なのか、どんな関係なのかといったことを想像しても面白い、とのこと。
わたしの部屋
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つづいては「わたしの部屋」という課題。
『普段暮らしている自分の部屋について、その空間の特徴や魅力が伝わるように(中略)A3一枚に表現してください』 (出題:田熊隆樹講師)
これについてはこの作品がよかった。
描写力がすごい。床に座って部屋を眺める一人称の臨場感が伝わってくる。こういう部屋ありそうと思わせる。
「お気に入りの場所で漫画を読んでいるとよく他の岡田がのぞきに来る。」
と書かれている。他の岡田とは兄弟や両親のことだろう。岡田家には当然ながら岡田のいる部屋がいくつかあり、この部屋はそのうち18歳の岡田がいる部屋である。岡田(18)の部屋。
私しか知らない美
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小坂淳先生による「私しか知らない美」という課題。
『美しいものを描いてください。しかし単に美しいのではなく、共感が得にくい美しさや、見つけにくい美しさ、誰にも知られていないような視点から見える美しさを探してください』
持ち手の光沢がきれいだし、口紅の赤もきれい。口紅が唇にフィットして削れていくのは知らなかった。
さっきの部屋にしてもこの口紅にしても、純粋に絵として魅力がある。建築学科はデッサンの試験があるはずで、さすがみんな素養があるんだなと感心する。
これは個人的にとても共感した。コーヒーの器具って結構かっこよくて、淹れている人の所作も美しかったりする。
そしてこの人コーヒーが好きなんだなとわかる。この特徴的なドリッパー(粉を入れてお湯を注ぐ器具)の形を見ればわかる。

聖なる場所
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つづいて矢口哲也教授による『聖なる場所』という課題。
『あなたのまちの「聖なる場所」。(中略)多くの人が大切にしている場所であれば人々に愛されるまちの「聖なる場所」になることができます。(中略)まちの背骨になるような、大切な場所です。』
お寺や神社に限らず、あなたの街で人々に大切されている場所を発見してくださいという課題だ。
『朝、この交差点には小学生が集まる。学校と家の間を隔てる線路によって自然とこの交差点は友達との待ち合わせ場所となる。帰りに彼らはこの交差点で遊ぶ約束を交わす。ただの交差点が小学生の社交の場となる。』
すごくいい。こどもたちが待ち合わせている光景が見えるようだ。踏切はやむを得ず作られた施設だけれども、人が滞留することで広場となる。橋詰広場みたいだ。不便だからなくしたほうがいい、というものでもないのかもしれない。
『陰気な地下一階で、甘い匂いと共に、心にほっと光を灯してくれるような平和な雰囲気をだす店員さんと、その売店』
駅の改札の脇にあるような、どこにでもある売店だ。そこが聖なる場所だというのは、どきっとする。確かに、1日が終わって最寄駅に帰ってきて、売店で甘いものが売っていたら「おっ」と思う。その心の動きにちゃんと気づいていなかったなという気持ちになる。
これもよかった。文章がとてもいいので、長くなるが少し引用したい。
『受験生の時、毎日のように通っていた保谷図書館の自習室。自習室にやってくるメンバーは大体同じで、みんなそれぞれお気に入りの席があって、固定席かのようにいつも同じ席に座っていた。
窓際の席にいつも座って勉強していたあの子。
何度あの子のしゃんと伸びた背中に励まされたことだろう。名前は知らないし、顔もはっきりとは思い出せないけれど、後ろ姿だけは今もずっと覚えている。』
情景が見えるかのようだ。素敵な聖地。
「課題を作る」という課題
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小坂先生による「(略称)課題を作る」 という課題。
『好きな作品を一つ選び、それがA++を取るような課題を作り、さらにその課題に挑戦せよ』という内容だ。
つまりこういうことだと思う。好きな作品があるとして、その良さを単なる真似ではなく自分の作品に取り入れることができれば素晴らしい。どうするか。
好きな作品のどこがよいと思ったのかを真剣に考えることで、その作品がどんな課題に見事に応えているかが見えてくる。その課題に自分も挑むことで、誰でもない自分の作品になるし、元の作品の素晴らしさも改めてわかる。
この作品の場合、まず作者が好きなのは「鉄骨のゴッデス」という作品だ。
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ここから作者が抽出した課題は次のとおり。
『イノリノカタチ
古代を生きた人々は身近にあるもの、或いは入手することが容易なものを用いて偶像、あるいは絵画などを作ることで自分たちの「祈り」をカタチにしていきました。
あなたは古代からタイムスリップしてきた人です。(中略)あなただったら何を祈り、そしてどんなカタチを創りますか?』
つまり古代の人が現代の素材で祈りの形を作ったらどうなるか?という課題を設定したのだ。「鉄骨のゴッデス」はその優秀作品であると。
その課題に対して作者が挑んだ結果がこれだ。
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『土の見えない時代の縄文土器』
黒いビニールかなにかをクリップでとめて土器の形にしている。元になった『鉄骨のゴッデス』の真似には全然見えないが、テーマが共通するのは伝わる。
これについても作者がいたので話を聞いてみた。栗原さんも同じく建築学科の2年生。好きな建築は o+h の copal とのこと。
この課題の趣旨は、好きな作品のどこが好きなのかを、課題をつくることで言語化できるというところにあるとのことだった。
(唐突に)会場から聞こえてきた声のコーナー
「むちゃくちゃ絵うまいね」(男子三人組、「交わす」を見ながら)
「早稲田って英語むずいよね」
「いや過去問やってみたけど意外と解ける」(男子高校生たち)

