八尾空港からセスナに乗る
そういえば、私の家から歩いて10分ぐらいのところに、八尾空港という飛行場があった。毎日朝から夕方まで、セスナやヘリコプターといった小型の飛行機が、エンジン音を響かせながら飛んでいる。
八尾空港は前述の古市古墳群のすぐ北にあり、堺市の百舌鳥古墳群からも比較的近い。もしセスナに乗れるなら、この上ない古墳見学ができることだろう。そう思って調べたら、あっさり八尾空港で遊覧飛行をやっている航空会社が見つかった。
今回私が遊覧飛行を頼んだのは、主にセスナなど小型機のフライトを扱う昭和航空。4人乗り(うち一人は操縦者)のセスナ機で、30分間空を飛ぶこととなった。
昭和航空では、見たいものに応じていくつか決まった遊覧コースがあるのだが(大阪市内を回るコースとか、奈良まで飛ぶコースとか、空港の周りを10分間飛ぶ一人5000円の体験コースもある)、私は百舌鳥古墳と古市古墳群だけをストイックに回る、古墳ボコボココース(仮)をアレンジしてもらった。
料金は一人13000円。最低人数が二人からなので、嫌がる友人を無理やり引っ張り出し、同乗してもらうことにした。当然ながらその友人の費用も私持ちで、計25000円(割引で1000円安くなった)。
私にとっては相当思い切った買物だったが、まぁ、大仙陵古墳を空から見る夢が叶うのなら安いものだ。そうさ、安い……ものだ。安い……。安……くない。ぐぅ、全然安くないぞ。いやいやしかし、後悔は全くしていない……はず。
そして当日、見事に晴れ渡った夏空の下、私と友人は自転車で八尾空港へ向かった。いやはや、まさか空港に自転車で乗りつけて、飛行機に乗る日が来るとは夢にも思わなんだ。人生とは、かくも不思議なものなり。
それにしても、なんと平和な飛行場だろう。成田空港のような国際空港とは様々な面で違っている。小型機が主であるこの空港は、規模が小さいのはもちろんのこと、何ていうか、空気が国際空港のそれとは違う。すべてが穏やかなのだ。
空港にアクセスする道路には車がほとんど通っておらず、買い物帰りのばあさんが、ママチャリでチリンチリンと走るのみ。その周囲は住宅街や町工場によって囲まれており、ベランダには洗濯物を干す主婦の姿が見える。
これまで私が抱いていた空港のイメージを打ち崩す、素晴らしいまでのローカルさだ。
しかしながら、やはり空港であることには違いない。構内にはそれなりの数、航空会社の建物が並んでいるし(聞いたことのない会社ばかりではあるが)、警察航空隊や陸上自衛隊、消防局の航空隊なんかも入っている。空港の証である管制塔も、こぢんまりと立っている。
いよいよセスナに搭乗する
我々が向かうは空港敷地内にある昭和航空のオフィス。この空港には一般の空港にあるようなターミナルビルは無く、各航空会社のオフィスから直接エプロン(飛行機に乗り降りする場所)に出る仕組みとなっている。
オフィス内部はいたって普通。机が並び、職員さんが仕事をしており、まぁ、一般的な会社と同じような雰囲気である。入口から一番近い職員さんに遊覧飛行なんですがと告げると、オフィスの角にあった応接スペースに通してくれた。
しばらく待っていると、パリッとしたシャツを着こなした、ナイスミドルなパイロットさんがやってきた。これから飛ぶルートを確認した後、それでは行きましょうかとオフィスを出て飛行機の元へと案内される。
セスナとはいえ飛行機なだけに、煩雑な手続きでもあるのかと思いきや意外や意外。搭乗者リストに名前を書くだけで事務的なことはあっさり終わってしまった。
そしていきなりこの光景。やばい。非常にやばい。初っ端からぐいっと持っていかれた。否応なしにテンションが上がってしまう。私はすげぇすげぇと連呼しながら、先へと進むパイロットさんそっちのけで飛行機の写真を撮っていた。
ふと我に返ると、パイロットさんが格納庫の外でこちらを見ながら立っている。しまった。どうやら待たせてしまっていたようだ。我々は慌ててその元へと向かう。
格納庫から出ると、そこには飛行機に乗る場所であるエプロンが広がっていた。エプロンにはかなりの数のセスナ機が、等間隔に規則正しく並んでいる。
私たちの前を歩くパイロットさんは、整列しているセスナの一つ、機体に昭和航空と書かれたその前に進むと、手早く扉を開けて乗り込んだ。つまりはこれが、我々の乗る機体というワケか。あぁ、なんかもう、おかしいくらいのテンションだ。
セスナに乗り込め、空に出ろ
さて、あまりパイロットさんをお待たせするのは申し訳ないので、撮影もそこそこにセスナへと乗り込んだ。翼に頭をぶつけないよう、屈みながら機内に入ると、いつの間にかサングラスをかけていたパイロットさんが、我々を迎えてくれた。
セスナの機体は思っていた以上にコンパクトで、その内部もまた結構狭い。大の男が二人座ると、肩が若干触れるくらいにキツキツである。
もしもこれがカップルとかなら密着していて良いのかもしれないが、今回このセスナに乗るのはむさい男の二人組。機内に空調は無く、炎天下の飛行場、額から玉のような汗を噴出しながら離陸を待つという、阿鼻叫喚の地獄絵図。
とまぁそれは若干大げさであるが、セスナが狭くて暑いのは間違いない。でもまぁ、離陸さえしてしまえば、機内に空気が入ってきて結構涼しくなるんだけれど。
セスナはエプロンから滑走路脇へと移動し、そこで一旦停止した。パイロットさんは無線に向けて、英語で何やらごちゃごちゃしゃべっている。おそらく、管制塔と離陸のためのやり取りをしているのだろう。
しばらくすると停止していた機体が再び動き出し――そして、エンジン音が変化した。いよいよその時だ。セスナは加速をつけ、一直線に滑走路を走る。そして、がくんという軽い衝撃と共に、セスナの小さな機体は宙へと浮き上がった。