目からレーザービームがでなくなってしまったのは本当に残念だが、それでも充分すぎるインパクトだった。もっと大きなもの、変わったものは世の中にいくらでもあるんだろうけれど、のんきに草を食べるウサギを見守るウサギ観音は、やっぱり最高の存在感だ。
次は住職の案内で文化財を拝観し、棺桶の中に入って自分を見つめ直したいと思うぴょん。
佐渡島にあるウサギを放し飼いにしている長谷寺(ちょうこくじ)というお寺に、目からレーザービームが出るウサギの観音像ができるらしいぞという怪しげな情報を教えてもらった。そりゃいかないと。
なんとその大きさは台座を入れて6メートル。残念ながら計画されていた視線のレーザービームは出ていなかったが、その存在感は独特のものであり、なんといっても境内で草を食べているウサギがかわいかった。
マリア観音とは、隠れキリシタンが祈りをささげた、聖母マリアに似せた観音菩薩像。あるいはロックバンド。
それに対して、佐渡島の長谷寺にできるというウサギ観音の完成予想図がこちらである。
胸元に栗のような十一面観音を抱き、無表情で目からレーザーを出す御影石のウサギ観音像。これはやばい。
さっそく電話で取材の問い合わせをしたところ、除幕式を11月3日の11時から行うということなので、すぐにカーフェリーの予約をした。
新潟港から当日朝一のカーフェリーに乗りこんで、除幕式が始まる少し前に長谷寺へと到着。
私が佐渡島に来るのはたぶん10回目くらいで、すでに長谷寺には何度か来たことがある。すっかり忘れていたけれど、2014年には『草取りに放たれたウサギがかわいいお寺』という記事を書いていた。
文化財的なものに疎いので詳しい説明はできないが、見所満載のそれはもう立派なお寺である。
このように境内を見学していると、目の前に長谷寺の名物がピョンピョンと現れた。
草取りのために放たれているウサギである。以前にこの寺へ来たときも、これが目当てだったのだ。
前に来た時は夏だったが、冬毛になったウサギはさらにかわいらしさがアップしていた。
除幕式の時間が近くなったので、会場の第3駐車場(第2駐車場から徒歩で坂道を登ったところ)へと向かう。
かなり遠目からでも、あれだなとわかる巨大な石像の前に幕がスクリーンのように設置され、その上から耳がピョンと飛び出ている。
そしてその周辺を、我が物顔でピョンピョンと跳ねるウサギたち。なんだここは、不思議の国は。
それにしても、なにがどうしてこうなったんだろう。その真意を住職から直接伺ってみよう。
――このウサギ観音は、一体どういう経緯で建つことになったのですか。
「この寺では、広い境内を草むしりをする人出がないので、20年くらい前から草取りの訓練をしたウサギを放っています。ウサギが草を食べて、境内を守ってくれる。じゃあウサギはテンやトンビから誰が守ってくれる? そこで十一面観音がウサギを守ってくれるというストーリーです。ウサギに対して敬意を表さないと」
――なるほど、草取りウサギ達の守り神なんですね。
「この寺は檀家さんが40軒しかありません。それじゃ生活はできません。200軒はないと。国の登録有形文化財(価値の高い貴重な建造物)が15あります。どれも200~300年経っていて、あちこちガタが来るので、直さなければいけない。でも、国、県、市、どこからも修繕費がでません。年金だけでは生活できない時代なのに、その中からお金を出している状態です」
「修繕費をなんとか工面できないか。大切なのが観光客が増えること。人が来ないと話にならない。ですがホームページを作っても誰も来ません。そこでウサギ観音のような形で少しでもPRすることができれば、文化財を守ることにつながります。人が大勢来れば賽銭も増え、将来的には参拝料がとれるかもしれない。そうすれば次になる住職に対しても負担が減らせます」
「30メートルの十一面観音とか阿弥陀さんを作っても、誰も来ません。そういったのは全国に20も30もあります。奈良の大仏くらい大きくないと人は来ない。恐れ多いんだけど、シンガポールにマーライオンがあるじゃないですか。このウサギ観音はそれを意識したんです。行くとガッカリするそうですが、それでもたくさんの人が来ますから」
――それでマーライオンが水を吐くなら、佐渡のウサギ観音は目から光らせてやろうと。
「レーザーを考えた訳よ。それは日中に光らないと意味がない訳でしょ。その強度でやると法律に引っかかると製作する会社に止められまして。それでソーラーパネルで蓄電し、暗くなると自動で光るLEDライトが埋め込んであります」
――レーザーは残念でしたが、夜になると目が光るんですね。
定刻の午前11時、制作費を寄付した方や檀家さん達に見守られ、ウサギ観音の除幕式がおこなわれた。
この式は当サイトの独占取材になるかなと思っていたけど、地元の新聞社やケーブルテレビなどの取材がいくつか来ていたようだ。盛り上がれ、ウサギ観音。
そしてとうとうウサギ観音がお披露目される時が来た。果たしてあの完成予想図から、一体どういったものができあがったのだろうか。
とうとう幕が下りた!
そうか、胸の十一面観音は、栗みたいな形のものを持っているのではなく、内側に掘られているのか。いわば中身だ。
安易にかわいらしさを追求しない端正な顔立ちは、英語の教科書に載っていた『不思議の国のアリス』に出てくるウサギを連想させるものだった。ちょっとニヒル。
そしてなんといっても石像の命ともいえる目が印象的だ。LEDライトが埋め込まれているという瞳は、ロボットっぽさが溢れている。
やっぱり本当はレーザーがでるのではなかろうか。きっと佐渡がピンチになったそのとき、この台座から立ちあがるのだろう。
住職によってウサギ観音が開眼されると、薄曇りだった空がパッと明るくなったような気がした。
ウサギ観音の制作は800万円。そのお金があれば文化財の補修もだいぶできそうに思えるのだが、使ってしまえばそれは一瞬で消えてしまう。
この石像を見にどれだけの人が長谷寺まで来るかは正直わからないが、シンガポールのマーライオンのように、あるいは札幌の時計台のように、よくわからないけれど人を引き付ける佐渡のシンボルとなってくれればいいなと思った。
この胸をガバっと開いて十一面観音を見せるという心に響きまくるデザインは、羅睺羅尊者(釈迦の実子)の像の流れをくむもののようだと、後日ツイッターで知った。なるほどー。
佐渡市の巨大「うさぎ観音」。デザインの元ネタと思われる羅睺羅尊者(ブッダの息子)と、さらにその元ネタ:ヒンドゥー教の猿神ハヌマーン。つまり、猿から人間そして兎になったわけですね。 pic.twitter.com/Y1Zpzt1xk1
— 髙山龍智『反骨のブッダ』発売中! (@nagabodhi) November 7, 2018
そいういう話を踏まえてウサギ観音をみると、また有難味が増してくる気がする。
目からレーザービームが出ない仕様となったものの、それでも夜になると光るという話なので、日が暮れてからまた見に来てみた。
なるほど、目が赤い。
やっぱりここは不思議の国だなと思った。
目からレーザービームがでなくなってしまったのは本当に残念だが、それでも充分すぎるインパクトだった。もっと大きなもの、変わったものは世の中にいくらでもあるんだろうけれど、のんきに草を食べるウサギを見守るウサギ観音は、やっぱり最高の存在感だ。
次は住職の案内で文化財を拝観し、棺桶の中に入って自分を見つめ直したいと思うぴょん。
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