発祥という言葉に弱い
おなかをすかせて福岡の街を歩いている時に行列のできているお店を見つけてしまった。でも帰りの飛行機まであまり時間がなかったので今回はがまんしようと思って通り過ぎたのだ。
ところがである。
5mほど通り過ぎてから引き返してきたのは、お店の前に控えめなフォントで「博多豚ステーキ発祥」と描かれていたから。どうにも僕は「発祥」とか「元祖」とかいう文字に弱い。あと「訳あり」とか「今だけ」にも。
今ここで並んで飛行機に乗り遅れたらそれはそれで運命である。そう腹をくくって列の最後についた。
店内はおしゃれ
お店はテーブル席3つとカウンター席数席とシンプル。ダウンライトがおしゃれで、ステーキのお店というよりもカフェバーみたいな空間だった。
しかしメニューを見るとしっかりステーキ屋さんである。
豚ステーキと牛ステーキが数品のみ。替肉(かえにく)という制度があるのは博多ラーメンを擁する福岡ならではだろうか。
迷わず看板メニューの「発祥」豚ステーキ定食を注文。
カウンター席に座ったおかげで焼かれていく豚ステーキをライブで眺めることができた。
カウンター席の目の前には「にんにく入り辛みそ」と「わさびおろし」が常備されていた。
豚ステーキの焼ける蒸気が店内に満ちてゆく。外は真冬の寒さだけど店内はひとあし先に春。と取材メモに書いてあったのが我ながらじじいくさいなと思った。
いよいよ僕の前に発祥の豚ステーキが運ばれてきた。
好きに焼いていただきます
当店の豚ステーキはレアではご提供しません、とメニューに書かれていたのを見て(豚ステーキだしそりゃそうだろうな)と思っていたのだけれど、運ばれてきたステーキさんを見て納得した。
実に完璧に火入れされた状態で玉ねぎの上に乗せられているのだ。さらにしっかり焼きたい人は敷かれた玉ねぎをどかして熱々の鉄板に触れさせることで、好きに焼き色をつけることができる。
この豚ステーキは美味い
直前まで鉄板に触れていた表面はカリっと、分厚いステーキの中はふわっと、そんなパーフェクトな食感の次に来るのはじゅわっとどばっと抜群にあふれる肉汁である。
豚肉って特有の脂のにおいというか風味があると思うが、ここの豚ステーキにはそれがない。だからしつこくないし、純粋に肉の旨味だけを感じられるのだ。もう書いちゃったけど人には内緒にしておきたい感じ。
豚ステーキさんが消えてなくなる前に、さっきから気になっていた「にんにく入り辛みそ」と「わさびおろし」にも出動してもらった。
そしたらこれがまた最高だった。
「にんにく入り辛みそ」は予想通り、そのままご飯に乗せても十分に主役を張れる王道の薬味だった。辛さの中ににんにくやらみそやらの美味さが凝縮されている。
さらに「わさびおろし」だが、これまた大根おろしとすりおろしたわさびが互いの良さを高め合っていて、個人的にはここの豚ステーキにはこっちが最高にマッチしているなと思った。
このあと空港行きの地下鉄駅までダッシュしながら、正直「もう遅れてもいいや」とさえ思った。だってこの豚ステーキが食べられたのだから。
実際には風が強くて到着機が遅れ、空港で2時間以上待つことになるのだけれど、この頃の僕はまだそれを知らない。
またすぐに行きたい
福岡ではすでに有名なお店なのかもしれないけれど、美味しすぎて紹介しないわけにはいかなかった。
これを食べるためだけに飛行機に乗って福岡に行ってもいい。いやそれはちょっとやりすぎなので、次来る時にはさらなる美味しいものを探したいと思う。
でもそれまでは、この豚ステーキの写真をひっぱりだして身をよじっていたいと思います。
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