船頭多くして船山に登らんやろ
「船頭多くして船山に登る」という言葉の船頭とは小舟を操る人ではなく、いわゆる船長のことで、複数人いる乗組員に対して指示を出す人間を表しているそうだ。
ワンピースならルフィでピーターパンならフック船長、人生を航海にたとえるならあなた自身のことである。
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しかし、いくらなんでも船が山に登るというのは言いすぎだと思っている。コトナカレ主義のわれわれがいくら束になったところで行く先なんてたかが知れたものだろう。
少なくとも僕は、別の船頭と言い争えといわれても「しゅん…」となってしまうに違いない。間違っているかもしれないことで我を通す強さはない。
そんな性格だから「船頭多くして船山に登る」という言葉そのものは好きだ。船頭たちの芯の強さがいい。
「船頭多くして車は山に登るのか」ゲームを考えました
今回の企画では、自動車に4人で乗り込み運転手以外の3人が船頭役となって、各々が曲がりたい方向を指示しながらゴールを目指すという挑戦をする。
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目的地は「池」や「イオンモール」などザックリとした指定かつ、船頭役の誰もわからない地点とする。目的地の場所が分かっている船頭がいると力関係が生まれてしまう。地図アプリを見ることも禁止である。
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運転手は基本的に直進を続け、船頭役から指示があったときにだけハンドルを切ることができる。ちなみに今回の運転手は僕の父親で、船頭役は学生時代の友人ふたりに協力してもらうことにした。
船頭役は親くらい歳の離れた運転手にアレコレ指示を出せるので、年上の部下をこき使う管理職の気分を味わえるのだ。
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ざっくり上記のようなルールでゴールを目指し、本当に車が山に登ってしまうのかを試すというわけだ。あくまでも定められた目的地をめざして進み、わざと山に向かうような指示を出すことは御法度である。
スタート地点は京都駅前
というわけでさっそくゲームをはじめよう。友人との集合場所かつスタート地点は京都駅前にした。
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…お!遠くに見えるのは友達かも。
うれしい。友人のひとりが作務衣姿で電車に乗ってきてくれた。幸先がよすぎるぞ。
数ヶ月前に企画意図を説明して招集をかけたとき、冗談か本気かもわからない感じで「船頭っぽい格好で集合しよう」と話題になったのを覚えていてくれたのだ。
言い出しっぺの僕ももちろん衣装を用意している。
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久しぶりの再会だったが会話はほどほどにしてさっそく車に乗り込んだ。
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目的地はどうする?滋賀の道の駅?三重?沼?どこがいいだろうか。
主催者である僕がどこどこにしよう!とハッキリ決めればいいのだが、優柔不断なので決めあぐねる。遠慮遠慮遠慮。そもそも企画に付き合ってもらうのはとても気を使うのだ。
結局、目的地はぬる~っと「池(施設のなかにあるものでも可)」に決まった。
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京都を出発地点としたとき、湖なら琵琶湖があるし、海なら大阪湾がある。池だとイマイチ場所が頭のなかにないだろう。これならうっかり山に登ることもあるかもしれない。
京都駅から池を目指す
それでは出発進行!
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父親の運転で友達と出かけるのは小学生のときのワールドホビーフェア以来だ。会場で「雷鳴の守護者ミスト・リエス」のプロモカードがもらえたんだよな。懐かしい。なんだか勇気がわいてきた。
勇気は出たものの、右だの左だの命令する自信はない。地図アプリのある生活に慣れきった現在、目的地が分かっていないのに人を導くのは相当勇気がいるのだ。やっぱり無理だ。
車が走り始めてはじめの岐路が先に見えたとき、友達が「右!」と言った。
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指示通りに父親がハンドルを切る。車が指示の通り右に曲がる。
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はじめての指示が無事に通ったので、あとのふたりも続いて船頭になれた。これ、楽しいかもしれない。偉くなった気分がする。
友人たちの意図は知らないが、直感のまま適当に指示を出すのがおもしろい。無軌道を楽しもう。
合計で4,5回ほど曲がったところで、右手側にとある施設が見えた。
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二条城だ!
これぞ京都。庭園のなかに池があるのでゴールである。船頭の多い車は山に登るどころか、ものの数分で目的地にたどり着いた。話が違うじゃないか。
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こんなにあっさりゴールできるとは思っていなかったが、すぐに目的が果たせてうれしい。
「オマエここで曲がんのかよ」とかで険悪になることもなかった。どこに行くか分からないドキドキ感もあるし、いい遊びじゃないか。
さてさて、次の目的地は昼食をとれるスポット、イオンモールにしよう。
二条城からイオンモールを目指す
次の目的地はイオンモールである。
京都駅近くにあることは知っているが、方向音痴な僕はもうすでに引き返す道がわからなくなっている。あとの二人はなんとなくイメージがあるようだが、どうなることやら。
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どうなることやらもなにもなかった。5回曲がっただけですぐイオンモールに着いてしまったのだ。京都の町がそうさせるのか、違う方向に曲がったとしてもすぐに修正できてしまう。
山に登る余地などまったくないじゃないか。車ですらこれなんだから船だとありえないだろう。
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次は難易度をあげて、滋賀のクラブハリエという洋菓子店を目指すことにした。目的地までは数十キロはあることだし、うっかり山に登ることもあるだろう。