特集 2023年9月12日

「遠野物語と呪術」展から『呪術廻戦』を考える

遠野市立博物館で開催されている「遠野物語と呪術」展をレポート

岩手県の遠野といえばカッパやザシキワラシなど多くの民話が伝わる“民話のふるさと”であり、柳田國男の代表作『遠野物語』の舞台としても有名だ。

そんな遠野の遠野市立博物館で特別展「遠野物語と呪術」が開かれているという。呪い(まじない)のお膝元ともいえる遠野だからこその展覧会である。さらに呪術といえばいま大人気のジャンプ漫画『呪術廻戦』が思い出されるが何か関わりがあるのかも気になるところだ。

タイトルだけで興味をそそられまくったので実際に見てきました。

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

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古くは湖だった町、遠野

遠野は岩手県の内陸に位置する人口2.4万人ほどの街で、花巻と釜石をつなぐJR釜石線の真ん中くらいに位置している。

『遠野物語』を片手にやってきた。
駅名のフォントがふるさと感をバチバチに放っている。これはいい街だ。
どのくらいいい街かというと街中に無料ピーマンが置かれているくらいいい街(ありがたくいただいて家で食べたがすごく美味しかった)

今回の目的である「遠野物語と呪術」展が開かれているのは遠野駅から歩いて8分ほどの遠野市立博物館。展覧会は9月24日まででもうすぐ終わってしまうので気になる方はすぐに遠野に行ってほしい。

「呪術」の文字がなかなかのインパクト
館内にはこんなマークが。カッパNGなのか、飲食NGなのか、はたまたキュウリとビールがNGなのか、特にカッパの皆さんを混乱させるマーク

遠野市立博物館は年2回の特別展だけでなく常設展も充実しており、こちらでは遠野の歴史や昔の人々の暮らしを詳しく知ることができる。特別展の理解も深まるので常設展もしっかりチェックするのがオススメだ。

『遠野物語』の冒頭にも書かれているが、遠野の街はもともと湖だったと言い伝えられている。​​​​​遠野の中心を流れる猿ヶ石川に沿って水が流れ出て、そこに出来たのが遠野の町というわけだ。
よく天狗が遊びに来たと伝わる家に天狗が残した遺品。最後に訪れた際に残していった形見の品とのことだが、ここまで置いて行かれるとそれは「引き継ぎ」ではないのか
てか天狗って一本歯下駄じゃなかったか?ちょっとラクしようとしてるな、この天狗
もちろん『遠野物語』の初版も展示されている。発行部数は350部と少なく貴重なもの。

街の伝説的な成り立ちや天狗やカッパなどの得体の知れないものが生活のそばにあった遠野の人々の暮らしを感じることで呪術に対する理解も深めることができる。

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呪術とは「まじない」である

前置きが長くなってしまったが、常設展を抜けた先に待ち構えているのが特別展「遠野物語と呪術」だ。

今回、日程の都合で現地でガイドをしていただくことが叶わなかったため遠野市立博物館の長谷川さんに後日メールで質問に答えていただいた。その内容とあわせて展示を紹介していきたい。

そもそも呪術とはなにか?

そもそも呪術とは、「神や精霊など人智を超えた超自然的な存在の力を借りて、目的を達成させようとする行為で、災厄を避けたい、望みを叶えたいと願う人々によって古くから行われてきたもの」である。「まじない」や「魔術」と呼ばれることもある。

この展覧会では遠野を中心として岩手県内各地の呪術にまつわる資料を紹介している。

写真撮影も可能だが、写り込んでしまった“何か”についての責任は取ってくれない

筆者もそのくちだがジャンプ漫画の『呪術廻戦』を見ていると、呪術とは悪いものを征伐するような超能力のようなイメージをしてしまうが、実はもっと呪術は身近なもので、例えば受験を祈願して神社にお参りしたり、結婚式の日程で仏滅を避けたりするのも呪術なのだ。

昔は今よりも呪術が身近で、生活のいたるところでまじないが行われていた。

セッチンビナと呼ばれるトイレに祀られた神様
カマガミというかまどの近くに祀られた土製の面。かまどは火を扱う神聖な場所とされた
大工人形と呼ばれる家の守り神。遠野では家を新築する際に大工の棟梁が小さなお堂を作り、男女の人形を鏡、クシ、髪の毛などと一緒に入れて、家の守り神とする風習があった

家のなかがこんなにまじないだらけだと余計に変なものを呼び寄せそうな気もする。実際、『遠野物語』の語り手である佐々木喜善は、大工人形などの霊魂が座敷に現れるのではないかと推測したという。完全に「霊魂さん、いらっしゃ~い」状態である。

ところで、遠野や岩手県は特に呪術が盛んな地域だったが故に多くの資料が残っているのだろうか。

長谷川さん:岩手県や遠野市が日本の中で特に呪術に関する資料が多い地域というわけではないと思います。

ただし『遠野物語』が明治43年に発刊されたこと、佐々木喜善や伊能嘉矩などの民俗学や文化人類学の研究に取り組んだ研究者が明治時代から遠野で活躍したことが要因となり多くの伝承が記録されたことは、かつて行われていた呪術や民間信仰を知るうえでは他地域よりも多くの伝承記録が残っているともいえると考えられます。

遠野出身の人類学者・民俗学者、伊能嘉矩の日記。ちょっと狂気を感じるが、自分用につけてた日記だとしたら勝手に見てすまんという気持ちもある。狂気とか言ってごめんね

おそらく昔は日本全国で、かたちは違えど呪術が生活に根付いていたのだろう。柳田國男をはじめとする研究者たちに発見されたことが現在の遠野のイメージを形成しているわけだ。

ただ柳田國男が目を付けたことは偶然ではない。

長谷川さん:呪術は超自然的な力への祈願の意味もあり、民間信仰や修験のなかで多く見られます。遠野は山に囲まれた盆地で、自然の中で暮らし、山や田や様々な神々に感謝して暮らしており、自然と人間との距離は近いと言えると思います。

遠野の自然環境が呪術を根付かせる要因のひとつであることは間違いないだろう。その環境がゆえに、明治の終わり頃まで呪術的な文化が根付き続け、柳田國男の『遠野物語』へとつながっていくのである。

熊のお産が軽いことにあやかって、熊の掌で妊婦の腹をさすって安産祈願をしたという。これも自然(山)と人間の距離が近いことの現れである。
ちなみにこちらは熊を捕獲できるようになるお守りとして猟師が熊猟の際に携行したもの。熊が好きな動物を模したのだろうか。一体君はだれ…
また猟師はオコゼも携行した。これは山の神は女性で、自分よりブサイクな姿をみて安心するからという理由らしい。自分より下を見て安心する山の神、卑近で好感が持てる。

 

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