せっかく佐渡まで来たんだから、なにか採れるものはないかと海野さんをせっついて連れていってもらったキノコ狩り、とても楽しい思い出となった。
シモフリシメジとかシモコシとかクロカワとかアブラシメジモドキとか、天然でしか味わえない品種も採らせてもらったが、市販でいくらでも売っているやつをあえて探すというのもよい経験だ。そして私が佐渡から帰った翌日、自慢げにマツタケの写真を送ってきた海野さん、また来年よろしく。
我々が普段食べているキノコのほとんどは栽培されたものだが、市販品は天然のものとほぼ同じ姿のものもあれば、ちょっと違う育ち方をするものもある。
シイタケ、マイタケあたりはほぼ同じ。ちょっと違うのがナメコ、そして全然違うのがエノキだ。キノコ図鑑でしか見たことのなかった(と思っていた)天然のナメコとエノキを採りに行ってきた。
ナメコとエノキの話をする前に、以前採ったマイタケとシイタケを紹介する。
成長具合にもよるのだろうけれど、天然のマイタケはちょっとワイルドで、どこか無骨な感じがするけれど、市販の栽培物とそこまで大きな違いはない。食べてみると樹の香りとざっくりした歯ごたえが強い。
天然と栽培の違いという意味では、魚でいうところのアユみたいな感じだろうか。
シイタケに関しては、市販されている姿そのままだった。天然の原木栽培である。
味もまさにシイタケであり、自分で見つけたんだぞという気持ちによる加点で風味が強く感じられたが、言われなければわからないかも。
天然と養殖の差でいえば、ホヤくらいといったところだろう。
そして本題のナメコだが、そういえば栽培キットで育てたことがある。
天然のナメコと市販されたナメコの差よりも、自宅で育てたナメコの方が、意外と驚きが大きかったりする。
そんな話を踏まえまして、キノコ狩りへと参りましょう。
ナメコを求めてやってきたのは、日本海を渡った先にある佐渡島の山の中。ちょうど紅葉まっさかりの雑木林だ。
今キーボードで「ぞうきりん」って打ったら「象キリン」と変換されたけれど、佐渡にはクマやイノシシといった大型哺乳類がいないので、安心して山歩きを楽しめる。
別にナメコが佐渡島の特産という訳ではないのだが、先日佐渡へと行った際、キノコ好きの海野さんという友人に山を案内してもらったのだ。
上記の写真だとうっそうとした森に分け入って捜し歩いている風だが、実際は車道の脇にわかりやすくナメコが出ていた。
佐渡はキノコ狩りをする人口に対して、生えてくるキノコの割合が高く、関東なんかに比べてずっと探しやすいのだろう。
「これは最高の状態ですね!」と海野さんが興奮気味に教えてくれたナメコは、市販品よりもずっと大きく、カサが少し開いた状態だった。
天然のナメコは、これくらいが食べごたえもあってうまいらしい。そういえばちょっと品揃えの良いスーパーなんかでも、原木栽培のこういうナメコを見かけるな。
ナメコといえばヌメリがたっぷりというイメージだが、このナメコはぬめっているというよりも、少しペトペトしているという感じ。
それでも周りの落ち葉なんかはカラカラなので、だいぶ保湿力は強いのだろう。
海野さんの案内のおかげであっさりと見つけた天然のナメコをしっかりと愛でたところで、ありがたく収穫させていただこう。
このように密に生えるキノコは下(外側)から順にハサミで足を切っていくのがコツとのこと。
この時点でゴミなどを極力とっておくと、料理の時にがんばった自分を褒めてあげたくなる。
食べ頃のナメコをチョキチョキと収穫していると、その下からかわいいベビーナメコが現れた。
おお、この姿こそは市販品のあのナメコ。なるほど、これはヌメヌメだ。
この大きさで集めてパックに詰めるなんて、ナメコの生産者は大変ですね。
ところで今年は何本のミョウガを食べただろうか。
天然のナメコを初めて見られてやったぜーなんて思っていたのだが、この記事を書くにあたってマイタケの写真を使おうと、「天然マイタケを採ると本当に舞い踊るのか」という記事を確認したところ、これぞナメコというナメコをすでに私が採っていて驚いた。
このナメコを採ったのは3年前か。これはもう記憶の時効でいいだろう。
バカやっちまったよと己の物忘れの激しさを嘆くよりも、まっさらな気持ちでまたナメコとの遭遇を喜べたじゃないかと前向きにとらえて、今後もぼやぼやと生きていきたいと思う。
続いては天然のエノキ探しである。こちらも海野さんに案内をしていただいた。
「エノキは場所がわかっているので余裕です。ドライブスルーエノキですよ!」
この人はなにいってんだろうと思いながらやってきたのは、海野さんの知り合いがやっているというカキの果樹園だ。
以前にエノキも栽培キットで育てたのだが、不揃いでちょっと茶色かったものの、市販のエノキとだいたい同じ感じだった。
さて佐渡の天然物はどうだろうか。
海野さんの話によると、エノキの本名はエノキタケで、シイの木に生えるシイタケ、マツ林に生えるマツタケのように、エノキという落葉樹によく育つキノコ。
ここ佐渡ではわざわざ山の中に入らずとも、古くなって切られたカキの切株がたくさんあるので、ドライブスルー感覚で採取できるということらしい。ちなみに佐渡にマックはない。
海野さんの言う通り、カキの切株にはモサモサと怪しげなキノコが生えていた。
知らなかったら絶対に毒キノコだと思ってしまう怪しさだが、これが天然のエノキなんだってさ。
軸の長さこそエノキっぽいが(まだまだ短いけど)、色も傘の開き方も、ぜんぜんエノキっぽくない。育ってきた環境が違うから、色違いは否めない。エノキが好きだったり、カキが好きだったりするよね。
こうして自然の中で育つのだから、日照りの日もあるだろうし、雨に降られることもしょっちゅうだろう。そりゃ日焼けもするし、傘も開くよということか。
この茶色いキノコが本当にエノキなのかと念を押すと、海野さんは自信満々に匂いを嗅いでみてくださいといってきた。
そもそもエノキの匂いってどんなんだっけなと思いつつ、触れるほどに鼻を近づけて匂いを嗅いでみると、なるほどこれはエノキの匂いだ。
キノコにもいろんな香りがあるけれど、確かにこれはエノキの持つ系統の匂いだ。それもどこまで食べていいのか迷う軸部分から感じるカブトムシみたいな匂いのない、なんというかエノキフレグランスの最上級みたいな香りなのである。
では味はどうかとちょっと食べてみると、上質の旨味が強くて、口の中でずっと残る一級品だった。
「ほら、うまいでしょう。僕は一番旨味が強いキノコだと思います。生で食べちゃダメですけど」と、海野さんに笑われた。
はい、キノコの生食はやめましょう。
ところで佐渡にはこうしてカキの果樹園があることからわかる通り、『おけさ柿』と呼ばれる柿の産地である。
佐渡在住の友人から2種類のおけさ柿をもらったのだが、その断面がこちらだ。
どちらも見覚えのあるカキの断面だが、右側はゴマと呼ばれる黒いツブツブがある。
おけさ柿の品種は渋柿であり、もいでから渋を抜いたのが左でこっちが主流。木になったままカバーをかけてアルコールなどで渋を抜くと、右のように渋のタンニンが黒くなってシャリっとすると教えてもらった。もちろんどちらも甘くておいしい。
以上、豆知識でした。ちなみに豆柿は渋いよ。
カキの乗ったパフェをいただいた日和山の厨房をお借りして、採ってきた天然のナメコとエノキをさっそく試食。
まずはナメコからだが、あらためて市販品と見比べてみると、やっぱり大きさが全然違った。
こいつの食べ方だが、海野さんのオススメはナメコおろしとのこと。意外と無難だ。
ただし、その作り方は私の知っているものとちょっと違った。
洗ったナメコをそのままフライパンで炒め、味を濃縮させたところに大根おろしを添えるのだという。
焦げ付きそうなものだが、ナメコにたっぷりと含まれる水分のおかげで、弱火でジクジクとやれば大丈夫なのである。
ザ・野生のキノコというビジュアルのナメコおろしを食べてみると、甘味があって、ざっくりした歯ごたえが楽しめ、それでいてヌルヌルで、ガツンとくる旨味がすごい。なにもかもが強力になったナメコという感じがする。
ただでさえ味の濃い天然ナメコを煮詰めて凝縮したため、味が強すぎて舌がバカになるんじゃないかという料理だ。
後日、持ち帰ったナメコを自宅で味噌汁にしてみたのだが、ナメコおろしの濃縮とは逆に汁の中で成分を拡散させても、十分に旨味は強かった。
こうして天然のナメコを食べてみると、これを栽培してみようかなと思った先人の気持がよくわかる。ナメコ、うまいよね。
続いて食べるのは、色黒で怪しい姿のエノキタケである。市販のものと比べると、色も形も大違いだ。
この日集まってくれた佐渡在住の友人達は誰も天然のエノキなんぞ食べたことが無く、大丈夫かこれ、どうみてもダメなキノコだろ、あの海野を信用してもいいのかと、ちょっと会場がざわついた。
海野さんにおすすめの食べ方を聞いたところ、「エノキおろし!」と自信満々の答えが返ってきた。
その作り方は、もちろんさっきと同じである。
群馬県の赤城山から吹く赤城おろしの如く、煮詰めたエノキを口に入れると強烈な旨味の突風が吹いてきた。エノキおろしだ。
屋外育ちで砂抜きの甘いアサリくらいはジャリっというが、そんなことが気にならないくらいの味の濃さだ。
でもこれって天然エノキの手柄はもちろんだけど、煮詰めるという調理法がすごいのではという疑問がちょっとある。
そこで市販の栽培エノキも、同じように調理してもらった。
これがやっぱりうまかった。薄味の印象があったエノキだが、実はこんなに味が強かったのかという驚き。
もちろん歯ごたえとか香りは天然物と少し違うんだけれど(天然が木っぽくて栽培は菌っぽい)、これはこれでとてもうまい。
天然物にこだわり出すと、ついつい栽培物をなめてしまいがちだけど、長い歴史の中で人類は安全で美味しいキノコを選びだし、効率的で味の良い栽培方法を追求してきたのだと一人で納得。
見た目が良くて大きさにばらつきが無く、ゴミも砂も入っておらず、ちゃんとおいしくて手軽な栽培キノコってすごいなと、天然物を食べて逆に見直してしまった。
なんて思いつつも、やっぱりキノコ狩りは楽しいし、天然キノコは個性的で美味しいのである。
せっかく佐渡まで来たんだから、なにか採れるものはないかと海野さんをせっついて連れていってもらったキノコ狩り、とても楽しい思い出となった。
シモフリシメジとかシモコシとかクロカワとかアブラシメジモドキとか、天然でしか味わえない品種も採らせてもらったが、市販でいくらでも売っているやつをあえて探すというのもよい経験だ。そして私が佐渡から帰った翌日、自慢げにマツタケの写真を送ってきた海野さん、また来年よろしく。
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