自動車は分不相応です
ここでいうネコ車というのは、工事現場などで使われている運搬用の台車のことである。一輪車や手押し車という名称が一般的かもしれないが、ネコ車がいちばん可愛いのでそう呼んでいる。
今回用意したネコ車は親戚から借りたものだが、特にこだわらなければ一万円くらいで新品が買えるようだ。お財布に優しい車である。
そもそも自動車は庶民が買うには高価すぎるし、こんなに立派なものを自分が扱って良いのかという負い目もある。
おれは恵まれすぎだ。家に電気が通っていて、蛇口からは湯が出て、自家用車がある。たった数百年前まで、どんな金持ちや天才もこんな暮らしはできなかったはず。
人間も動物、野に放たれて元々である。何も所有しないのが本来だと思っている。そんななかで、NISAとかいって国が丁半博打を非課税でやらせてくれるという。この賭場で遊ばなきゃウソだろう。
少ない貯金をはたいて株価の変動が激しい銘柄を買った。買ったあとで株について調べてみると「失敗したときのことを事前に想定して動け」という言葉が見つかった。
なるほどね!
あれこれイメージを巡らせた結果、ネコ車で買い物にでかけてみることにした。一文無しになって自動車を失っても生活できるか確かめておくのだ。
ネコ車で買い物に行く
山間部に住んでいるので最寄りのスーパーまでは4km近くもある。チャリで行けばいいじゃんと思うかも知れないが、傾斜の激しい坂道が多くて自転車はまったく使い物にならない。
ネコ車なら足腰への負担も少なそうだし、リュックやエコバッグのように体の一部に極端な負荷がかかる心配もないだろう。
そういうわけで出発進行!
目的地はスーパーマーケット、所要時間は約1時間、晴天、車両とバイタルに異常はありません。
何も積んでいないネコ車は軽い。一切の負担がかからないどころか、むしろ歩くのが楽な気さえする。杖の代わりというわけだ。車輪を転がす原始的な面白さもあって退屈しないのもいい。
車がないと生活が厳しい土地柄、歩道を使っている人がほとんどいないので快適である。
ちなみに台車やリヤカーは道交法では軽車両に分類されるため、たとえ人が押しているものでも車道を通行しなければならない。ただし例外があり「長さ190cm以下、幅60cm以下の小型のリヤカー」は歩行者扱いとなるそうだ。
もちろん今回の車は小型なので歩道を通行できる。どうも、遵法太郎です。ジュン・ポウタロウです。
三角コーンや工事用柵を見かけたら記念写真を撮ろう。ネコは馴染むが運転手が普段着なので、なにをしている人なのか見当もつかなくなって愉快だ。
道路の起伏に反比例して、感情は真っ平ら。何も起きないので粛々と歩いていく。
そのうちに、車に乗っているほうがおかしいんじゃないかと思えてきた。プッ。根拠はないが、絶対に自分が正しい気がする。家に帰ったら「まだガソリンを消耗してるの?」というブログを開設しよう。
どこに行っても違和感がない
40分ほど歩いたところで、車通りの多い道路に出てきた。ここまでですれ違った歩行者は脅威の0人である。
服装とネコ車のミスマッチ以外に違和感が生まれないことに驚いた。それはおそらく、地球上のすべての地点は工事現場になり得るからだろう。すなわちネコ車はどこに現れてもおかしくないというわけだ。
ゴールまであと少し。ずっと手を握り続けているからこの車に少し愛着がわいてきた。もう一息がんばろうな。不思議とほとんど疲れていない。