特集 2020年5月9日

旅の計画は訪問場所ではなく、やりたいことを決める~拙攻さんインタビュー

月に1度の総集編ウィーク。先月4月に人気だったライター二人とへのインタビューと、人気記事のランキングをお送りします。

この記事では、拙攻さんにインタビュー。
4月は「異国のおじさんがデカイ鍋で料理する一部始終」「異国のおじさんは、二度デカい鍋を振るう」「フライト中のつもりでテレワーク」の3本を公開、なんとぜんぶ人気記事でした。

インタビュアーは編集部・石川です。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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ピックアップ記事

異国のおじさんは、二度デカい鍋を振るう

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海外旅行をしていると、忘れられない味に出くわすことがある。自分にとってそれは、中央アジアを旅行中に出会った”プロフ”と呼ばれるコメ料理だ。海を渡り、時を超え、この思い出の味との再会を果たしてきた。

デビュー作でした

石川:
拙攻さんは4月から書き始めた新しいライターさんです。
簡単に自己紹介お願いしてもいいですか?

拙攻:
昨年の夏くらいから自由ポータル(新人発掘を兼ねた記事投稿コーナー)でちょこちょこ投稿していました。
いまは大阪に住んでいます。海外旅行が好きで長期連休があると毎回旅行しています。あとはお茶が好きとかビールが好きとか、そんなところでしょうか!

石川:
デビュー作も海外ネタでしたね。二日連続でシリーズものでした。
実はデイリーって基本、続編やらないんですよ。前後編みたいなのは5年に1回くらいしかなくて。

拙攻:
5年ぶり。オリンピックよりレアですね!

石川:
そう。だって後半って前半読んだ人しかどうせ読まないから、それだったら1本にまとめた方がいいじゃないですか。
しかし、今回は異例の2日連続の続きものにしました。なんでかというと、1本目は既発表作で、自由ポータルの投稿作品で……。

拙攻:
ええ。

石川:
最初デイリーに書きませんかって話になったときに、続編のエピソードを聞いて、あまりに良かったんですよね。
とはいえ後編だけだとさすがにわからんなということになって、じゃあ二本載せましょう、という。

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1本目、「異国のおじさんがデカイ鍋で料理する一部始終」。ウズベキスタンにてプロフ(中央アジアの米料理)を作るおじさんに偶然出会った話。
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翌日掲載の2本目「異国のおじさんは、二度デカい鍋を振るう」。プロフの味が忘れられず、1年後、おじさんに会うためアポなしで再びウズベキスタンに向かう。

石川:
書いてみてどうでしたか?

拙攻:
後編をデイリーに書くことになって、自分のブログと違っていろんな人が読むメディアなので、前編以上にわかりやすくしたいなと思っていました。
中央アジアという遠くの地で、しかも見たことのない食文化なので、前提としてはキャッチーなネタではないかもと。

石川:
たしかにあんまりなじみのない文化圏ですよね。
なんかこうヨーロッパとか、アラブとかはイメージというか固定概念みたいなものすらありますが、中央アジアはあんまりない。

拙攻:
そうなんですよ、無です!
でも自分のブログを始めた理由が、「あまり世間からは認知されていないけど素敵なもの」を伝えていきたいというのがあったので。その延長でうまく伝えていきたいなと。

石川:
結果的にとても人気記事になりました。

拙攻:
中央アジアを多くの人に知ってもらうきっかけになったのなら、とても嬉しいなと思っています。

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記事の舞台となった中央アジアのウズベキスタン

中央アジアがよくわからない

石川:
中央アジアって確かによくわからないんですよね。

拙攻:
記事の導入の案にあったのですが、中国とインドと中東とロシアに挟まれた、空白地帯という表現をしようとおもってました。

石川:
僕ワールドミュージック好きでけっこういろんなの掘ってるのですが、中央アジアって何があったかなって感じで…。

拙攻:
中央アジアの音楽シーンは謎ですね、あまり象徴的な楽器もないですし。
ブブゼラのお化けみたいなロングなラッパは結婚式とかでよく見ますが。

石川:
へー。アルペンホルンみたいなやつかな。
サハ共和国って中央アジアですか?

拙攻:
サハはシベリアじゃないかなと。
あのあたりは、北アジアと呼ばれたりしますね。

石川:
北もあるんだ!
もはや「北アジア」って名前すら初めて聞きました。

拙攻:
ですよね、アジア兄弟のなかではもっともマイナーです。
次が中央アジアですが!

石川:
中央アジアじゃなかったので余談ですが、サハは口琴っていう口にくわえて弾く楽器が異常な極まり方をしてて、ワールドミュージック界では有名です。

 

拙攻:
おっ、ホーミー風ですね。

石川:
そうそう。歌ではないですが、倍音系の楽器なので音が似てますね。

拙攻:
モンゴルのホーミーと馬頭琴も、生で聞くと本当に感激しました
馬頭琴、ほんとにすごいですよ、血がたぎります

石川:
生モンゴル音楽は良さそうだなー…!
…と話がそれてきたので戻しまして、中央アジアってざっくりいうとどんなところですか?

拙攻:
えーと、一番はシルクロードの要衝ですね。
ペルシャから長安までのちょうど中間地点でもありますし。

石川:
あーシルクロードか!
一気にイメージがわきました。

拙攻:
よく言われるのは文化の混雑がすごいというか。
だから記事に出てきた料理、プロフもかなり広い範囲に広がっているんですよね。実はパエリアも同根だとか。

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プロフはこれです。うまそー

石川:
へー!

拙攻:
あと、中央アジアは基本がムスリムの国です。
でも1991年まではみんなソ連の構成国でした。

石川:
なるほど、旧ソ連のあの辺ってことですね。

拙攻:
あと、日本での中央アジア人気をささえているのは森薫さんという漫画家の乙嫁語りという漫画ですね。
ブログコメントでは乙嫁関係のコメントが本当に多いです。

石川:
あー、あれか!わかりました中央アジア。

拙攻:
記事の舞台になったウズベキスタンは、中学生の時から行きたかったのです。
大阪に民族学博物館というクレイジーな博物館があって、そこでウズベキスタンの家屋の精巧な模型が展示されているんです。これにはまって1時間くらい眺めていました。
かっこいいんですね、家の作りが。真ん中に綺麗な中庭があって。

石川:
それは住んでみたい的な?

拙攻:
住んでみたい、そうですね、泊まってみたいとは思っていました。
実際、おじさんの街で泊まるのは常に同じゲストハウスですがそこはイメージの中にあった、模型のかたちそっくりのゲストハウスです。

石川:
はーそれはまさに夢がかなったという感じですね。

拙攻:
そうですね、それが中央アジアへの憧れの入り口だったのですが、くわえて今日少しいいことがありまして。
民族学博物館のTwitterで、「フライト中のつもりでテレワーク」をピックアップしてもらえたんです。
テレワークのときに使っていた機内誌が、博物館の機関紙だったんです、それをめざとく見つけてもらって。

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フライト中のつもりでテレワーク」中で、機内誌として登場した「季刊民族学」

石川:
おお!

拙攻:
取材させてくださいと勢いでお願いして、口約束ですがOKもらいました。

石川:
あ、それはやったな。僕も行きたいです

拙攻:
あー、絶対いいですよ!音楽の展示もすごいですから。
ぜひウズの伝統的家屋の模型も見ていってください。

石川:
出張申請つくって、あと出すだけの状態にしておきます

拙攻:
はは

おじさんのその後

拙攻:
ちなみに記事に出てきたおじさんはもう学校にはいません。

石川:
どうなっちゃったんですか?

拙攻:
おじさんは今は、有名なモスクで料理人やっています

石川:
キャリアアップ!

拙攻:
そうですねー、どうなんでしょう。でもキッチンの規模でいえば、学校給食のほうが大きいですから。
それに現地では仕事掛け持ちの人多いんですよ、やはりそこまで豊かな国ではなくて。
おじさんは今は、料理人や大工など、3つ?の仕事しているみたいです。

石川:
それもすごい話ですね。マルチで。
記事の最後に、オンラインで学生やおじさんとやり取りがあるとありましたが、まだ続いてるんですか?

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一緒にプロフやおやつを食べた学生たち

拙攻:
たまに連絡きますよ。コロナ関連での連絡が多いですね、最近は。

石川:
やっぱり。

拙攻:
日本の対応がやばい、ぜんぜん人出が減らないというのをネタにした動画なんかを無邪気に送ってきます。

石川:
あはは。
いいですね、無邪気。

拙攻:
あとは、日本語で響きがおかしい言葉をまとめた動画とか。
あたたかかった、という言葉が音楽みたいで面白いみたいです。

石川:
あーなるほど、リズミカルで

拙攻:
あたたかい、あたたかくないあたたかかった…、と延々つづいて、最後はあたたかくなかった、なんじゃそりゃーどっかーん!!
みたいな動画でした。

石川:
あはは。平和だ。
でもそうやってまめに連絡くれるのはうれしいですね。

拙攻:
嬉しいですよ~2回目会うのが苦労しましたからね。
キープインタッチの重要性を感じます。

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モンゴルでWindowsXPみたいな草原を探す

石川:
話は変わって拙攻さん自身についてなのですが、そもそもなんで「拙攻」なんですか?

拙攻:
意味はないんですが、誰もペンネームにしてないものを選ぼうと思いまして、たしか携帯の「せ」で予測変換の最初に拙攻が。

石川:
雑な名づけ!
じゃあこの辺で、拙攻さんをもっと知ってもらう意味でも、自由ポータルの投稿記事の中でいくつかおすすめを聞いてもいいですか

拙攻:
Windows XPの壁紙を求めて」は、企画をやりきった!という感じが自分でもして、満足感がありました。

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これはXPのデフォルト壁紙ではなく、モンゴルの草原

XPが草原の理想像で、草原を見るためにモンゴルに行ったというのは本当に旅行前に考えていたところなんですが、XPを探しに行ったというストーリーにしたのは、現地についてからでした。
現地で知り合った日本人とXPぽいねーなんて盛り上がって、あっちのほうにもっといい場所がとか言い合うのが楽しかったので、これをそのまま記事にしてみようと。

石川:
朝を迎えていきなりXPっぽいですもんね。

拙攻:
これは本当に予想外でびっくりでした。
草原の中に、ぽつぽつ人工物があるという世界なんだなと、このとき悟りました。

石川:
こういう、「XPっぽい草原探そう」みたいな遊びって、ギチギチに旅程組んじゃってるとできないじゃないですか。
いい旅の仕方してるなーと思ったんですよね。

拙攻:
たしかに旅行のスタイルとしては、毎回かなりゆるく組んでいますね。
モンゴルのハラホリンという町なんて、人口1000人くらいの村なので何もないんですが、そこで5泊くらいしました。
毎晩宿泊先を変えるのが好きな人もいますが、わたしはずっと同じゲストハウスで。一白だけゲル泊しましたが。
石川
次に海外行くときはそういう予定の組み方します

拙攻:
ウズも同じホテルで6泊くらいしますし、ロシアでも、シベリア鉄道に5泊という何もしない旅がありました。
しかも正月だったので、究極の寝正月とかいって友達と自虐していました。

石川:
あはは。一応、訪問先とか決めていくんですか?ガイドブック的なの見たりとか。

拙攻:
目的の場所というのは少ないかもしれません。プロフみたいに、これを食べに行きたいというような行動目標はありますが。

石川:
あーなるほど、たしかにそういうやり方はいいかも!

拙攻:
モンゴルも草原がみたい、でしたしね。
アメリカはビールが飲みたい、ですし。

石川:
それなら現地で探す楽しみもありますもんね。
それがまさにXPの記事か。

拙攻:
次は「ちょっとビール買ってくるわ、アメリカで」です。アメリカのクラフトビール 文化は世界一なんです、盛り上がりが。日本でも流行ったりすたれたりしますが、次元が違うというか。
で、そのビールが好きなので、アメリカ出張のあいまをぬってビールを買い集め、パックして持って帰ってしまいました。たぶん30本くらい。

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こういうのアリなんだ…

石川:
アメリカ、僕もMaker Faireで何度か行きましたが、ビールめちゃありますよね。

拙攻:
品揃えはすごいですね。やっぱり独立自尊の文化なのだと思います。地域ごとに、おらが村のビールがある。
アメリカは4回いって、ビール持ち帰りは3回やりました。

石川:
ちなみに一番好きなのは何ですか?

拙攻:
一番!それはあと2時間くらいかかりそうなご質問ですね笑

石川:
あはは

拙攻:
サンフランシスコの小さな醸造所のビールですかね、21st amendment breweryという。
小さいといっても、クラフトビール の中ではかなりの大手です。

石川:
どんな味ですか?

拙攻:
彼らも種類で言えば10種くらい出しているので、一概には言えませんが、ホップと麦の味が、スーパードライの20倍くらい濃いです。
ビールはホップ、麦、水だけできほんてきにつくるので。材料がふんだんにつかわれてて贅沢なビールということなんですね。

石川:
それは飲んだことなくても情報だけで酔えますね。
あとこの記事、僕は海外から大量の酒なんて持って帰ったらすごい関税取られるのかと思ってたので、金額が明らかになってるのがよかったです。次回は僕もビール持ち帰れそう。

拙攻:
ええ、ちょっとおもうところあって払った金額はストレートに書きませんでしたが。
税関の人、計算違いしている気がしたんですね、安すぎて

石川:
あはは。

拙攻:
あの時払ったのは300円です。

石川:
やっす!

拙攻:
計算上は、八百円くらいでした。
それでも安いですが。だからごまかしたと思われるのが嫌で金額は伏せちゃいました。

石川:
あはは。得した。

次回予告!

石川:
では最後に、今後の予告というか、いま執筆予定の記事を差し支えなければ教えていただいてもいいですか?

拙攻:
今は、アメリカのビール文化である、ビール量り売り文化にフォーカスする記事を書いています。

石川:
さっきのが伏線になりましたね。

拙攻:
もともと日本には存在しない量り売りですが、コロナの影響で、特例措置としてビアバーが持ち帰り用の酒を販売してもいいことになっているんです。
期間限定で、たぶん九月までの特例?なので、いまこのときにしか見られない文化、これをきっかけにして生まれるかもしれない文化を、お伝えします。

石川:
おー、これは楽しみ。
いま食べ物もどこもテイクアウトですもんね。

拙攻:
そうですね、どこもご苦労されています。

石川:
ビールの持ち帰り、まずどういう容器に入れるのかとかそこからですよね。
いままでやったことなさすぎて。気が抜けないのかとか。

拙攻:
そうですね、専用ボトルがあるんですよ。
グラウラーといいます。炭酸を入れられる特別な設計です。
普通の水筒だと、気圧の変化?で蓋が開かなくなってしまうらしいんですね。

石川:
ほー、なるほど、じゃあコーラとかにも使えそうですね。

拙攻:
そうなんですよ、外遊びにいろいろ使えるアイテムです。
いまはベランダでしか楽しめませんが!

石川:
あんまり語りすぎるとネタバレになるので、ではこのあたりで!
 


人に会いに行く旅

後日、拙攻さんから補足のテキストをいただきました。これを掲載して、このインタビューの締めとしたいと思います。

拙攻:
‪旅行のスタイルとして、行き先よりも行動目標を決めていくことが多いという話がありました。

加えて、誰かに会いにいくという目的で旅行するケースもこれまでかなり多くあったことを思い出しました。‬

‪・ベトナムの友だちに3回会いにいく(うち一回は結婚式に招待されて)‬
‪・韓国の友だちに4回会いにいく(こちらも一度結婚式に招待されて)‬
‪・台湾の友だちに2回会いにいく‬
‪・ブルガリアに帰国した友だちに会いにいく‬
‪・ウズでも毎回、おじさんだけでなく、市場の魚屋さんやゲストハウスの主人、ガイドのアルバイトをやっている大学生など実はたくさんの友だちに会っています‬

‪現地の人に再会するというのはシンプルな楽しみもありますが、何か不思議な中毒性がありますね。相手もめっちゃ喜んで歓迎してくれるし、ただ旅行しているだけでは見えないものを見せてくれたりする(家に呼んでくれたりします)。俗な言い方をすればドラマが生まれやすいんでしょうね。‬
‪この数年はそれが楽しくて、新しい旅行先にチャレンジすることが減ってしまいました…これは守りに入っているとも言えるかもしれません。‬

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