冬の西表島はまあまあ寒い
これまであまり南国に縁のない人生だったので、一月末の西表島がどれくらいの気候なのかピンと来ていなかったのだが、私の体感的には関東の花見シーズンちょっと前くらいの陽気だった。
Tシャツ一枚だとかなり寒く、長袖のシャツやパーカーが常に必要で、太陽が隠れていたらさらに一枚羽織りたくなる感じ。曇天や雨の日も多く、西表島とはいえ冬はそれなりに寒いのだ。
はるばる西表島に来たのは、この島に住む友人と遊ぶためだったが、彼は真面目に働いているので仕事の日はずっと忙しい。せっかくだからと5泊の予定を立ててしまったのだが、私の予定はほとんどない。
島に渡って友人と落ち合い、今更ながらなにをすべきか相談したところ、「ぱいしぃず」というシーカヤックのツアーガイドを紹介してくれた。
西表島でシーカヤック。陰と陽でいったら陰寄りな私に縁のない世界のようにも思えたが、マングローブの林をゆったりと漕ぎ進む自分に憧れがない訳でもない。せっかくの機会なので申し込んでみることにした。
シーカヤックで海に浮かぶ
ぱいしぃずが企画する初心者向けのシーカヤック体験ツアーにはいくつかコースがあるのだが、そこはあまり深く考えず、サイトのリストの一番上にあった「ナーラの滝」で申し込んだ。
今になってサイトの紹介文をちゃんと読んだら、「自分の力を信じて!達成感が待っている 西表島を代表するジャングル、マングローブ、滝をたっぷり満喫できるフィールドです」と書かれていた。要約すると「かなりきついけど楽しいと思うよ」になるだろうか。体力のある人向けだ。
確かに飛び切りの達成感が味わえるコースだったが、事前に説明をちゃんと読んでいたら、もう少し体力的に優しいコースを選んでいたと思う。でも楽しかったから結果オーライ!
シーカヤックには一人乗りと二人乗りがあるそうで、どっちにするか事前に聞かれたのだが、一人で漕げる自信がまったく無かったので二人乗りにした。
オフシーズンの平日だったのでツアーの参加者は私だけ。よってガイドの近澤さんとの二人乗りだ。紹介してくれた友人曰く、近澤さんは八重山で一、二を争うパドリングの名手だそうなので、こんなに心強い贅沢なツアーもなかなかないだろう。
バイクのタンデムだったらガイドが前に乗るけれど、カヤックは後ろに舵があるのでガイドは後ろ。よって私は前に座る。
近澤さんが抑えてくれているカヤックの座席に乗り込むと、自分が海に浮いている感じに「おおお!」となった。こういう乗り物は遊び程度で何度か乗ったことがあるけれど、何度乗っても無重力体験に近い気がする実におもしろい違和感だ。
すぐに近澤さんも乗り込んで、ナーラの滝を目指して出発進行。さっき陸で教わった漕ぎ方の基本を思い出しつつ、如意棒気分でパドルを動かす。水をしっかり捕まえられた時の抵抗が気持ちいい。どっちを目指しているのかまったくわからないが、とりあえず前に進んでいく。
やたらと細長い形なので不安だったが、安定性はかなり良さそう。足元のスペースも驚くほど広い。たまにシーカヤックで旅をするという話を聞くが、なるほど意外と荷物が運べる乗り物のようだ。
2時間かけて川を遡上する
しばらく夢中で漕いでいたら、早くも肩と腰が痛くなってきたので、たまにサボって背伸びをする。これが自転車だったら倒れるが、タンデムのシーカヤックは前に進む。
さらにパドルを握る親指の付け根も痛くなってきたので、うどんの生地を伸ばすときに麺棒を押さえるように、他の指と同じく上から握る。招き猫みたいだ。
こういうのは漕ぐ正しいフォームを覚えれば楽に進むようになるのだろうけれど、見本とすべき近澤さんのパドリングは、真後ろなのでまったく見えない。
手の力で進むという行為に少し慣れてきた頃、「二級河川仲良川起点(左岸)」という石の標識が見えた。ここで海から川へと切り替わるようだ。仲良川は「なからがわ」と読むが、昔から地元の人は「ナーラ」と呼ぶからナーラの滝。
とはいえ自然の話なので、海と川がそんなにはっきりと線引きされる訳は無く、上流に進むにつれて少しずつ塩分濃度が下がっていく。この変化の大きい汽水域独特の環境によって、両岸に生い茂る植物の種類が少しずつ入れ替わる。
こういった説明を近澤さんに聞きながらのんびりと川を進むのが、最高に楽しいのである。腕を伸ばせばすぐ水に触れられるシーカヤックだからこそ、五感で感じられるものがたくさんあった。
このようにとても楽しいシーカヤックなのだが、運動不足の初心者にとって、のんびり自然観察しながらでも、2時間はなかなかの重労働だった。まさかの2時間だ。サイトの案内をしっかり読めば、ちゃんと2時間の行程だと書かれていたのだが。
しかもこの日は向かい風に加えて下げ潮(潮位が下がっていく時間は川の流れが強くなる)だったので、逆の条件に比べるとだいぶ大変だったらしい。ですよねー。

