ルールを確かめ合う
2ヶ月前インドへ同行したライターの大北さんと僕は、6月初めのある日、荒川土手に集合した。おみやげに買ったクリケット用のバットを使うためだ。
どうしても本格的なクリケットをするための人数は揃えられないので、インドの人がちが道端でやっていた草クリケットをしてみようと思う。
チーム名は「戸田バッドカルマズ」。インドに行ったときに「おまえはバッドカルマだ!」とインド人に起こられたことに由来する。今回はそのチーム練習ということだ。
といってもクリケットのルールを確認していないので、まずはルールをインドでの経験から推測することにしよう。伝道師気分を味わいたいので、記憶だけを頼るべく調べてこなかったのだ。
まずバットの持ち方から。
バットの構え方から考えなきゃいけない、というのもおかしな話だが、現地であれだけクリケットを見てきたのに、どっちが表なのかよく分からない。
野球のバットと違って、表と裏があり、形が微妙に違うのだ。たぶん模様が少ない平らな方が表なのかな、と決められた。
クリケットにはピッチャーがいる。ピッチャーは何に向けて投げているのだろう。野良クリケットには、キャッチャーみたいな「球を受ける人」がいなさそうなのだ。代わりに棒が三本立っている。(棒は棒としか言いようがないので、今後この記事中に「棒」という言葉が出てきたら、この棒のことをさしています。)
おそらく、おそらくだが、この棒を倒すのがピッチャーの役割なのではないだろうか。そして、この棒にボールをぶつけて倒すと、野球でいうところの「アウト」的な宣告がバッター側にされるのではないだろうか。
ゼロを発明したインドの偉大な文明に敬意を表して、このアウトを「ゼロ」とよぶことにする。ゼロになったら攻守が交代する。
そしてバッター側は棒を倒されないように、ボールを打つのだ。そして打ったあと…どうするのだろう。我々「戸田バッドカルマズ」は壁にぶつかる。
インドでのことをよく思い出すと、ボールを打った子どもが走っていた気がするのだ。ピッチャーの方に走っていた。さらに元の場所まで、往復していたかもしれない。そうか、野球でいうところの走塁だ。
片道1点だと簡単すぎる気がするので往復1点、その後片道するごとに1点ずつ追加される、というルールはどうだろう。ただ往復するだけだと盛り上がりにかけるので、走者は1点入る度に「イチ!」「ニィ!」と声を出していくことにした。
守備側(今日は二人しかいないのでピッチャー)は、打たれたボールを取って、棒のところに戻ってきたらバッターはもう走れない。そのとき守備は「ゼロ!」と叫ぶ。
ほとんどがその場で、まさに手探り状態で、ルールを紡ぎ出されていく。小規模ながら(ほんと小規模だけど)クリケットが、元のクリケットと形を変えながら日本に土着化しかけている。
棒を立てる
ルールは、野球を参考にしながら大まかに決まったので、環境を整えることにする。
たまたまこの日は川原の草を処理する日だったみたいで、草が綺麗に刈り取られている。ちょうどいい。そこに長さ1m、太さ2cm位の棒を突き立てる。
と思ったら、全然ささらない。棒の先が平なのが問題かも知れないし、生い茂る雑草の根が頑丈なのかもしれない。とにかく全然ささらない。
インドの人はどのように棒を固定していたのだろうか。チャンと見ておけばよかった。最終的には土手の段差に立てかけることにした。ありがとう、土手。