すし職人を思い出した
昔入った回転寿司店で、寿司を一切握らずに「いらっしゃい!欲しいものがあったら言ってくださいね!」と言ってるだけの人がいた。
でもその人のおかげで店は賑やかになっていた。注文もしやすかった。
あの人はビッグクラッピーだったのかもしれない。
いざ目の前の客に注文されたとき、隣の職人に「これどうやって切るの?」とこそっと聞いていたのも良かった。
link バイバイワールド
今年のはじめ、藤原麻里菜さんがMCを務める番組で変わったロボットを作っている人に会った。
バイバイワールドの髙橋征資(たかはしまさと)さんだ。
バイバイワールドは会社名である。
髙橋さんが作っているロボットが最高なので、このロボットはいったいなんなのかを聞いてきた。
そして借してもらった。
この動画が好きで何度も見ている。再生回数の1%は僕だと思う。
ビッグクラッピーは人が近づくと手をたたいて「ハロー」などと言い、離れてゆくと「達者でな!」とまた別のセリフを言う。
セリフは「店頭」「会社」「飲み会」などシチュエーションごとに違っていて、ひとつのシチュエーションに複数のセリフが用意されていてそれをランダムにしゃべる。
このロボットは量産され、商品として販売されている。価格は348,000円。髙橋さんはビッグクラッピーのまえにパチパチクラッピーというおもちゃを作っている。
おもちゃの延長で冗談のロボットを作ったのだろう。おもしろいよなーと思って話を聞くとどうも雰囲気が違う。
髙橋:販売前に実際に店頭において反応を調べました
あれ?ちゃんとしている!しかもヒアリングの結果から女性のひとりぐらしを意識して癒やしのセリフを追加したそうだ。
励ますクラッピー
展示会でもビッグクラッピーを置いておくと名刺獲得枚数が増えるという。
展示会でいかに有効かという話をする作者を遮ってしゃべるクラッピー
冗談で作ったと思っていたが本気である。
確かに量産して商品として売るのだから冗談なわけないか。商品として発売するためのさまざまな規格をとるのが大変だったそうだ。大変というのは主に金銭面の話である。
リアルに頭を抱えていた。
髙橋さんはもともとペッパーの開発をしていた。
正確にはペッパーをチューニングして面白くする仕事だそうだ。
髙橋:そんな面白い仕事があるのかと思いました
とのこと。おっとりとして薄味だったペッパーをハキハキさせて面白いことを言わせる。それを定期的に孫(正義)さんに見せるということを5年半していた。
髙橋:そのなかでロボットってキャラクターとパフォーマンスだと思ったんです。
ーーー ペッパー、よく喋るなーと思ってました
髙橋:今のロボットっていかに相手が言ってることを正しく理解して相応しい返答をするかにチャレンジしてて、スマートスピーカーも言ってるのが通じなかったりもったいないことが多発してます
ーーー よく「すいません、よくわかりません」って言われます。
髙橋:ビッグクラッピーはそういうことはないように人を見つけたらパッと引き込む。近づくと言葉をポンポン投げかけてくる。なんじゃこいつおもろいなーと思ってもらう。つかみにとにかくかけたんです
ーーー話しかけられる前に話しかけるんですね。
髙橋:つかみが終わるとこいつアホだな、ってみんな帰っていく。ビッグクラッピーはそれでいいと思っています。その場所に来てもらったことが価値。パーティーで会ってハハッと笑ったらもうそれだけで良いです。だからマイクとかついてません
ーーー コミュニケーションの方向がスマートスピーカーの真逆ですね。
髙橋:一見賢そうなのにアホがいちばんがっかりするじゃないですか。人でもそうですね。はじめからアホ扱いができたほうがたぶんコミュニケーションは楽なんですよね。最初から諦めてもらうという。
ーーー 期待される雰囲気ではないですね
髙橋:だから賢い見た目にしたくなかったんですよね。とにかく超敏感なアホ。リアクションで盛り上げてくれる人
ーーー 飲み会にいて欲しいタイプです(ビッグクラッピーには飲み会モードもある)
ーーー ビッグクラッピーって拍手の音がでかいですが(小さくもできます)、例えば家庭用にしたときに拍手しなくなるという選択肢はありますか?
髙橋:せっかくロボットなんで物理的に何か動いてないと…。
動きがまず面白いこと。そこをベースにコミュニケーションデザインするというのが、今後も作りたいと思っているので。
ーーー 拍手という動きはわかりやすいですね
髙橋:たとえば配膳ロボットは配膳という動きがあるので、「おまたせ!」みたいことが言ったりキャラクターがつけられるようになります。
ーーー なるほどー
髙橋:決して賢すぎないところは貫きたい
ーーー そこは貫くんですね
そしてビッグクラッピーを借してもらった。ここからはガジェットの使用レポートである。
まずは開封だ。
クラッピーの目はどこにいても目があうようにできている。
拍手の音は家の中では響く。でも拍手小さめモードがあるし、声のボリュームは変えられるのでなんとかなる。
食事のときに横においてみた
黙々と食べる夫婦に笑いが
これは猫だ。猫がいる家の猫の役割である。勝手なことをゴロゴロ言っている生き物だ。
仕事中だって後ろにクラッピーがいる
仕事中、足を動かすとビッグクラッピーのセンサーがそれを検知して盛り上げてくれる。
インスタグラムにもあげた。ぼんやり飲んでいるときに勝手にしゃべってくれるのは都合が良い。
猫の写真をインスタに上げる人のようだ。
数日間、うちをにぎやかにしたあと(もしかしたら隣の家もにぎやかにしたかもしれない)ビッグクラッピーはヤマト便で去っていった。
昔入った回転寿司店で、寿司を一切握らずに「いらっしゃい!欲しいものがあったら言ってくださいね!」と言ってるだけの人がいた。
でもその人のおかげで店は賑やかになっていた。注文もしやすかった。
あの人はビッグクラッピーだったのかもしれない。
いざ目の前の客に注文されたとき、隣の職人に「これどうやって切るの?」とこそっと聞いていたのも良かった。
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