さらに新しい娯楽
撮影終了後、並べたチョコのお菓子を3人で食べながら雑談していた。
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なんだ、この時間。めちゃくちゃ楽しいじゃないか。まったく新しい娯楽「Oyatsu」が生まれた瞬間である。
物を綺麗に並べる。たったそれだけで気持ち良いのです。
2025年。インターネットが辿り着いた境地です。
ここに何の変哲もない折り紙がある。
今度は同系色の色だけ並べてみる。
差し色を入れてみたらどうだろう?
真上だけでなく斜めからも写真を撮ってみよう。
丁寧に並べられた折り紙を見てるだけで、なんと気持ちの良いことか。新しい娯楽「並べる」の誕生である。
以前『お菓子の箱に入ってるミニカタログが大好きだ!』という記事を書いた。撮影当日、ミニカタログの良さを林編集長やべつやくさんに説明しようと机に並べた瞬間、キラキラとまばゆい光が放たれた。
後日、企画会議でこの時の話題が出て、我々はひとつの仮説を立てた。それは「人間は“並んでいるもの”に対してではなく、“並んでいるという状態”に快感を覚えるのではないか?」というものだ。つまり、並んでさえいればなんだって気持ち良いんじゃなかろうか?
思い返してみると、窓ガラスの張り紙も粘着剤も見ているだけで確かに気持ち良かった。これは大発見だぞ。
そうして我々は、様々なものを並べてみることにした。
遠い国まで行って見る絶景。炎天下で長時間並んで食べるラーメン。極限までサウナで我慢した後の水風呂。快感とはある程度の我慢や努力を経てようやく得られるものだと思っていたが、ただ並べるだけで良かったのだ。
しかも「並べる」は視覚的心地良さだけで終わらない。一定のリズムで繰り返す単調な作業にも、ランナーズハイ的な快楽が宿る。
賽の河原では石を積み上げても鬼がやってきて崩してしまうので、また一から始めなければならないという。それは苦行の例えとされているけど、このマカロニを鬼が崩したら私は満面の笑みを浮かべ「ありがとうございまっす!」と礼を言うだろう。だってまた並べられるんだから。快感の無限ループ。青ざめる赤鬼。
撮影スタジオ近くのスーパーで適当に買ったプチトマトによって、この日最高の瞬間が訪れる。
オマージュに伏線回収。あらゆる娯楽がハイコンテクスト化していく現代において、「並べる」の禅のように研ぎ澄まされた簡潔さは革命的だ。
『並べるという魔法』みたいな新書が爆売れ、渡米してネットフリックスでリアリティショー開始、後に映画化。「並べる」は「Naraberu」になり、アカデミー賞で涙のスピーチ。そんな未来がはっきり見える。
だが、そこに若干の虚しさも覚える。プチトマト並べただけでこんなに気持ち良いなら、文庫本一冊読み終わるまで歩きながら読書したり、iPhoneを車に轢かれたりしながら必死こいて書いてた今までの記事は何だったんだ?
そんな時、「これも並べましょう」と林さんが謎の物体でパンパンになった袋を取り出した。
これは一体何なのか?林さんに尋ねると、長い長い解説が始まった。
私とべつやくさんは「既に持ってるの忘れて同じパーツ買っちゃって!注意しなきゃ駄目ですよ~」と笑う気満々だったのに、説明を聞くとそれぞれ違う役割をちゃんと持っているので怖くなった。
「こんなにパーツが必要だなんて、GoProって逆に不便じゃないですか?」。段々問い質すような口調になってしまうが、林さんは「このパーツを駆使すれば、こんなこともできるんですよ!」と自信満々だ。
「並べる」の禅のような心地良さにすっかり心を持っていかれてしまった私は、あやうく今後『空の青さの美しさ』とか『川の水の冷たさ』とかいう透明な記事ばかり書くところだった。
林さんのGoProパーツがなかったら、もう私は元の世界に戻ってこられなかったかもしれない。それくらい「並べる」には悪魔的魅力がある。皆さんも用法用量を守って正しくお並べください。
撮影終了後、並べたチョコのお菓子を3人で食べながら雑談していた。
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なんだ、この時間。めちゃくちゃ楽しいじゃないか。まったく新しい娯楽「Oyatsu」が生まれた瞬間である。
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