純度100%のペーパードライバー
僕はペーパードライバーだ。運転の才能がなかったようで自動車学校はとても苦労してなんとか卒業、それで力尽きて免許センターの試験になかなか行けず、有効期限ギリギリの1年後にようやく免許を取得した。取得時点で1年のブランクがあったので運転できる気が全くせず、それ以来一度も運転したことがない。
だが、車がないと不便な取材はしばしばある。今回の取材先は長野県の南木曽(なぎそ)というところ。高瀬さんとは岐阜県の中津川で合流し、そこからレンタカーで現地に向かうことになっていた。
レンタカーは高瀬さんが手配してくれた。なるほど、レンタカーも予約って要るんだな(無知)。
そういうわけなので必然的に、車取材時の運転は全てライターさんにお願いすることになる。
今回も「いやほんとすいません、ペーパードライバーなので」とか言いながら高瀬さんに運転をお願いするわけだが、心のどこかで「いや免許あるなら(法的には)運転できるやんけ、甘えるな」という気持ちもある。
でもそれをやると二人とも生命の危機なので、現実的には高瀬さんに頼るしかない。リスクマネジメントも仕事のうちである。
山道で恐縮
せめて助手席でできる最大限の気遣いで応えたいものだが、なにぶん普段は電車移動で成人してから車にあまり乗っておらず、同乗者としての常識的な振る舞いもわからない。自分の想像力だけで最適な行動を決めなければならない。
まずは第一歩として、助手席に乗り込むと同時に、シートベルトをめちゃくちゃ素早く着用した。安全運転に協力する姿勢を見せ、気持ちよく運転してもらうためである。
その直後、高瀬さんがてきぱきとカーナビに目的地を入れ始めた。
しまった、これを俺が率先して引き受けるべきだった!!!!と思った。シートベルトにプロ意識を込めている場合ではなかった。
景色の素晴らしさとは裏腹に、道は細いくねくね道が続く。いま対向車が来たら詰む。車内では、
高瀬(この道に来たの失敗だったかも…)
石川(大変な運転をさせてるかも…)
とお互い恐縮しあう、スーパー恐縮ディメンションが生まれていた。
我々は信頼できるパートナーシップを築いているのでこんな状況でも明るく雑談しているが、その隙間を縫って30秒に1回くらい「いやなんかすいませんこんな…」的なフレーズが口をついて出てしまう。
そのまま細い道をしばし行くと……
繊細な心遣いはすべて吹き飛ばす、圧倒的なゲームオーバーが現れて笑った。
もっと早く教えてくれてもよくない??
助手席に座ったら助手をすべし
以前、ライターのこーだいさんと岐阜でイベントに出たときのことだ。帰りにこーだいさんの車で食事に行くことになり、「ナビしてもらっていいですか」といわれて助手席でGoogle Mapを見ながら案内したことがある。
僕は運転も自分がナビされた経験もないのでどういう風に案内していいのかわからず、曲がる直前に「ここ右です!」と言いだしてもう手遅れだったり、道の種類もよくわからないので「次になんか大きい道に出たら左です」みたいなぼんやりしたことを言ってよけい混乱させたりした。
そんなこともあって今回も自分はあまり運転に口出ししない方がよかろうと思っていたが、ゲームオーバーを経て思い直した。やはり助手席に座ったからには助手をした方がいいのだろう。
Google Mapであれば通行止め情報が反映されたルート検索ができるかもと思い、スマホを取り出した。
目的地までのルートを検索し、地図を読めない人特有の動きでスマホをくるくる回転させながらカーナビの地図と方向を合わせる。カーナビの画面を縮小したり移動させたりしながらルートが一致していることを確認。高瀬さんに「Google Mapのルートと一緒だからこれで大丈夫ですよ!」と言ったあと……こんどはカーナビの地図を固定表示から戻せなくなった。
車の動きと連動して、現在地マークが画面の外に出ていき、二度と帰ってこなくなった。
タッチパネル上をいくら探しても見つからなかった現在地表示に戻すボタンは、画面外についた物理ボタンだった。完全に盲点。コンピューターの扱いはわりと得意な方だと思っていたのだが…。
駐車はどうしたらいいのか
車で1時間ほど走っただろうか。目的地に着いた。
さっそく取材中の写真を貼ってしまったが、この工場に入る前、駐車時の話をさせてほしい。
まず車をどこに停めていいのかよくわからなかったので、僕は「先に行って聞いてきますよ」と言って車を降りて事務所に走った。これは高瀬さんにも感謝され、かなりいい判断だったと思っている。デキる男である。
事務所であいさつと駐車場所の確認を済ませ、高瀬さんに「そこに停めちゃっていいそうです」と伝える。ここまではよかったが、よくわからないのは駐車中である。ここは何らかのサポートをすべきなのだろうか。
周囲をよく確認してじわじわ切り返しながら駐車する高瀬さん。こう…なにか「オーライ、オーライ」的なことをやった方がいいのではないか。そう思ったけどやり方が全くわからなかったので棒立ちで見ていた。
車から降りてきた高瀬さんに「すいませんオーライオーライ的なやつできなくて」と言ったら、「トラックじゃないから大丈夫ですよ」と言われた。そうか、あれはトラックの話だったか…。
経験値の低さを手探りと深読みだけで補おうとして、的外れな結果に至る。まるで中学生の恋愛のようだと思った。そこからエモや甘酸っぱさを全部除いたやつ。
帰りはあきらめた
このように、編集というのはとても難しい仕事であることがおわかりいただけただろうか。
帰りはもう役に立つことはあきらめ、ドライバーに代わってナビの画面を注視しながら面白い地名を発見することに専念した。
完全に余談だが、かえりに妻籠宿(つまごじゅく。中山道の宿場町で、古い町並みが保存されている)に立ち寄って少し観光した。奥の方に昔の発電所があるというので見に行こうと二人で歩いて向かったのだが…
こたえあわせ
というわけで自分なりに気を遣って過ごした一日だったが、果たしてドライバー視点ではどう映っていたのか。後日、高瀬さんにここまでの原稿を読んでもらい、感想をもらった。
恐縮ドライブおつかれさまでした。
「新入社員みたい」と喩えられてはいるが、全体に小学校低学年の通知表みたいなトーンのコメントだなと思った。圧倒的よちよち感が出てしまったに違いない。
いつか一人前の社会人になれることを目指して、今日も編集の仕事をがんばります…。
おしらせ
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