日本で初めてパンを焼く
日本人は米をよく食べる。そのためか、日本でのパンの歴史は米と比べるとずっと浅い。日本に初めてパンがやってきたのが1543年。織田信長もパンを食べたらしい。ただその後は鎖国もあり、パンが定着することはなかった。
その299年後である江戸時代後期に日本で最初のパンが焼かれる。焼いたのは江川英龍だ。世界を見ればアヘン戦争があり、日本の周りにも外国の船が現れるようになっていた。この最初のパンは兵食として焼かれたものだった。
このパンは固かった。柔らかいパンではなく、長期保存可能な固いパンだ。ちなみに『たべもの起源事典』によれば、日本人がパンに親しむようになったのは、最初に日本でパンが焼かれた32年後に「あんパン」が出現してから。そのあんパンだって江川英龍が最初にパンを焼いたからできたのだ、たぶん。
江川さんの家に行く
私はパンが好きだ。日本人だから当然お米も好きだけれど、パンも好きなのだ。そうなると日本で最初に焼かれたパンも、そのパンを焼いた人も気になる。歴史に触れてからパンを食べたい派なのだ。
静岡県の伊豆の国市韮山にある江川家住宅は国指定重要文化財になっている。母屋は最初に日本にパンが入ってきた57年後頃、最初に日本でパンが焼かれる242年前頃に建てられたもので、屋根裏の木組みは芸術的。よくこんなものを作ったものだと立ち尽くしてしまう。
この木組みの下、土間にあるのがパン焼き窯だ。厳密にはパン焼き窯を形作っていた伊豆石の一部ということになる。本来はもっと大きな物だと考えられている。この窯で実際にパンを焼いている写真も展示してあった。
最初のパンを焼いたのが江川英龍で、最初のパンを焼いた場所がこの江川家住宅なのだ。1842年4月12日のことだ。そのため4月12日は「パンの記念日」となっている。パンが普及していなかったこの時代にパンを焼いたことは画期的だった。
その最初のパンを再現したパンが売られている。「パン祖のパン」だ。今のパンとは酵母やらがいろいろ違うのだろうか。ちなみに江川英龍はコーヒーも飲んでいるらしい。パンを作ってコーヒーも飲む。今の時代でも通用しそうなライフスタイルだ。
江川英龍が描いた自画像と、「コーヒィ」の文字。この文字も江川英龍が書いたものだそうだ。ちなみに江川英龍が飲んだコーヒーはインドネシア産の豆と思われる。そのためこのコーヒーもインドネシア産の豆を使っている。