特集 2024年6月7日

雑誌の図書館「大宅壮一文庫」の雑誌記事索引は人力検索エンジンだった

前回、蔵書数80万冊を誇る雑誌の図書館、大宅壮一文庫の書庫に、みっちみちに所蔵されている雑誌の山に大興奮した我々(ライター・西村、ライター・唐沢、デイリーポータルZ・林)は、取材そっちのけで雑誌の立ち読みに耽ってしまう。

今回は、気を取り直し、大宅壮一文庫の最大の特長である「雑誌記事の索引づくり」について、大宅壮一文庫の黒澤さんにお話を伺う。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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大宅壮一文庫のなにがすごいのか

さて、書庫の中で古い雑誌を立ち読みして盛り上がるのもほどほどにして、大宅壮一文庫の何がすごいのかを、黒澤さんに訊いてみた。

大宅壮一文庫、最大の特長として忘れていけないのが、雑誌記事索引だ。

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大宅壮一の書斎を再現した部屋でお話を伺いました

大宅壮一文庫では、収蔵した雑誌はすべて職員が目を通し、主な雑誌記事は、その記事ごとに、誰が登場し、どんな内容が書かれているのかを、人物名と件名にまとめてリスト化しており、膨大な量のデータベースとなっている。

人物名と件名のリストがあるとなぜ便利なのか。

例えば「田中角栄」という人物名で検索すると「田中角栄」が登場した雑誌記事がズラリとリストアップされる。つまり、過去の週刊誌すべてに目を通して、田中角栄に触れた記事を探す手間が省ける。

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例えば……弘田三枝子(歌手)はと検索すると、弘田三枝子のデビュー当時から、現在までに雑誌で触れられた記事がズラリと並ぶ

芸能人やスポーツ選手などは、やはり記事件数も多い。記事件数が一番多いのは、松田聖子らしい。

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件名の場合は、例えば内閣や国会といった政治関連のキーワードから、犯罪・事件、スポーツ、芸能、世相……と、一般的な週刊誌や月刊誌が取り扱いそうなテーマが細かく分類されている。
つまり、どの雑誌のいつの記事が、どんなことを書いたのか、テーマに絞ってざっと検索できるというわけだ。
件名項目は、大項目、中項目、小項目といった感じで、大宅壮一文庫独自の分類方法で分けられているが、その内容はウェブサイトで確認できる。

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大宅壮一文庫雑誌記事索引の項目一覧

政治、天皇、犯罪・事件といったカチッとした項目の中にひときわ目を引く「奇人変人」という大項目が、どうしても気になってしまう。
奇人変人の下には「名人、奇人、ほか」という中項目が一つだけあり、その下に「びっくり人間」「ストリーキング」「大食い」といった小項目が並ぶ。

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「天才」も奇人変人枠に入ってるのがいい

このように、件名項目は雑誌の記事内容がどんなものなのかを分類してくれる大変便利なものである。

現在、国立国会図書館が、所蔵している書籍などの全文検索サービスを着々と進めているが、こういったサービスが無かった時代にあっては、大宅壮一文庫の人名や件名での検索サービスが、テレビ局や雑誌のリサーチ業務で非常に役に立っていた。

図書館の書籍や雑誌は、図書館内に集められていても、どの本にどんな事が書いてあるのかは、書籍のタイトルと目次を頼りに、実際に中身を読んで調べる必要がある。その点、大宅壮一文庫の雑誌記事索引は、件名や人名で雑誌記事の内容が検索できる。

つまり雑誌記事索引は、インターネットの検索エンジンのような役割を担っているといっていい。

かつては、手書きで雑誌の内容をカードに記して整理していたそうだが、まさに検索エンジンのデータベース構築を、昭和時代から人力でやっていたのが、大宅壮一文庫といえる

近年は、数が減ったとはいえ、現在でも著名人の訃報などがあると、マスコミ各社からの資料の問い合わせがかなりくるらしい。

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記事送信のFAX。著名な人物の訃報などがあると、ファクシミリ送信サービスを利用しているマスコミなどから問い合わせが一気にふえる。直近では唐十郎氏の訃報のさいに、問い合わせが多かったらしい

実際に奇人変人が載ってる雑誌を見てみた 

さて、そんな大宅壮一文庫の雑誌記事索引だが、せっかくなので少し体験してみたい。

やはりどうしても気になってしまう、「奇人変人」のキーワードで検索し、一番古いものからいくつか気になるものを請求して中身を読んでみた。

まず気になったのが、1909(明治42)年の『冒険世界』に掲載されている「一年間汽車で暮らした男」という記事。

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博文館『冒険世界』1909.3

一年間、列車に乗り続けた男がいたという記事。6千ドルを賭けて、1年間ウィーン、リンツ、ザルツブルグ、インスブルックをひたすら往復したとある。
鉄道ユーチューバーの限界旅行チャレンジみたいなことをやってる人が、20世紀初頭からいたということがわかる。

もう一つは、1950(昭和25)年の『アサヒグラフ』に載っていた、瀬戸内海の宿禰島(すくねじま)という小島に、おじさんがひとりで住んでいるという記事。
今で言うところの『ポツンと一軒家』みたいな話だ。

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朝日新聞社『アサヒグラフ』1950.1.4

ワン・マン島の名称は、記者が勝手に付けたキャッチだろう。ワンマン宰相と呼ばれた吉田茂がまだ現役だった時代だ
このおじさんは、ウサギ、アヒル、ニワトリと身の回りの物を携えて小舟でこの島に渡ってきたものの、アヒルと小舟は盗まれてしまったという。住人一人の島でアヒルや小舟が盗まれるとはどういうことだろう。治安終わってんなという感想しかない。
なお、宿禰島のウィキペディアをみてみると「1960年代ごろまでは男性一人が暮らしていた」とあるが、おそらくこの人のことだろう。

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