いまだに手探りの分類法
大宅壮一文庫の雑誌記事索引は、どんなふうに作られているのか。案内してくださった大宅壮一文庫の黒澤さんにお話を伺った。
林:件名の項目は、今もこの分類で索引はつくられているんですか?
黒澤:はい、基本的に大項目、中項目はそのまま引き継いで作られていますね。
西村:小項目はどんどん追加されたりすることもある?
黒澤:はい、追加されます。時代の変化に従って、既存の項目を再検討することもあります。そして小項目の下にさらにキーワードが追加されるんです。索引項目は、元々、NDC(日本十進分類法、図書館で使われる図書の種類を分類する分類法)を参考に作られたんですが、雑誌記事を扱うので、世相的な記事に分類が偏るところがあって、独自の分類法になって行きましたね。
先ほども述べたが、この膨大な量の、大宅壮一文庫の雑誌記事索引は、パソコンなどがなかった頃は、すべて手作業でまとめられ、カードに記入されて管理されていた。そして、そのデータは印刷されて書籍の形で『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』として販売されていた。もちろん一冊ではなく、何巻かまとめて、数十万といったレベルの値段である。
現在は、最新版のデータをネットで検索することができるので、目録の出版はしていないが、人名のみ『大宅壮一文庫雑誌記事人物索引』の各年度版をオンデマンド印刷で出版している。
西村:(昔の目録の)人物項目をみてましたら、弁慶なんてのが載ってましたが、こういう実在したかどうかわからない人物も人名項目にある?
黒澤:昔は架空の人物も人名項目にあったんですが、今は架空の人物は人名項目ではなく、件名項目になっていますね。たとえば、ドラえもんとか、オバQとか、そういったキャラクターは、基本的に作者の項目に入れるようになっていますね。藤子・F・不二雄の下のドラえもん。というふうに。
西村:分類の手法というか、仕組みは不変というわけじゃなくて、常に試行錯誤を繰り返しているんですね。
黒澤:そうなんです、素人ですから、いまだに手探りなんですよ。(笑)
西村:索引づくりは、ものすごい人手がかかりそうですけど、特に昔は大変だったでしょう。
黒澤:昔は、索引がものすごく膨大な量なので、索引づくりのアルバイトで来ていた学生なんかが、ひとつの雑誌から数件しか索引を作ってないなんてこともあったりして、意外と抜けもあったりするんです。
西村:あぁ、気持ちは分からないでもないけど……。
黒澤:そういうアルバイトとか書生さんから「索引づくりは、本当に重要なものに絞りましょう」という意見も当然でるんですけど、それに対して大宅が「何が重要で、何が重要でないかというのは誰がどうやって判断するんだろうね」と答えたという逸話もあるんですね。大宅文庫はいっぱい索引作るんですけど、その索引を、のちの世の人が検索して初めて重要かどうかがわかる。だから、今、それが重要かどうかなんてのはわからない、と。
大宅文庫の「索引づくり」は、コスパとか選択と集中みたいな経済効率を第一に求める考え方とは真逆の思想であることがわかる。
昔は盗難も多かったが……
唐沢:大宅壮一は、スクラップはやってなかったんですか、昔から雑誌を買って丸ごとインデックス化していた?
黒澤:かつてはスクラップを作ってました。例えば、児玉誉士夫とか、そういう人物ごとに雑誌の記事を切り抜いてまとめて袋詰めして……でも今は作ってないです。スクラップは、埼玉県の越生に分館があるんですが、そちらの方に保管してあります。
唐沢:そうなんですね。
黒澤:たまに、記事があるはずとおもって、雑誌を書庫から出してみたら、該当の記事がスクラップするために切り抜かれていて無い……ということもあるんです。仕方ないので、国会図書館でコピーをとってきて、無いページを復元したりとか。
西村:涙ぐましい努力が……。
唐沢:昔は美術系とかでも、同人雑誌がものすごく出たと思うんですが、そういったものは寄贈を受けてもお断りという感じですか?
黒澤:そうですね、書庫があるならば、いくらでも貪欲に集めたいというのはあるんですが、文藝春秋も中央公論も元々は同人誌だったわけですし、同人誌も出版物だという考え方も分かるんですが……ちょっと難しいというのが現状ですね。
西村:書庫の問題は切実ですよね……。 (思い当たる節がある)
黒澤:一時期よりも減ったとはいえ、雑誌が一年間に7000冊づつ増えているんです。本館に置かなければいけないのに、置けないという雑誌も出始めているんですよ……例えばですね、昔のゲーム雑誌やコンピューター雑誌、ファミコンとかメガドライブとか、ウィンドウズとかMacとか、ゲーム機やOSごとに雑誌が出ていて、そういったものも研究者にとっては貴重な資料なんですが、書庫塞ぎになってるという面もあって、越生の分館に持っていってるものもあります。ただ、ご要望があれば、取り寄せることは可能ですし、例えば……『コンプティーク』とか。
唐沢:あ、はいはい『コンプティーク』
黒澤:国会図書館で収蔵している『コンプティーク』が、盗難で紛失してしまっているものが多いらしくて、うちの方で越生に置いていたものを本館の方に移したりとかして、要望に合わせて対応はしています。
西村:盗むやついるんですね……。
黒澤:今はやりづらくなっていますけど、昔の国会図書館はけっこう切り取られることがあったらしくて、うちも、グラビアの部分を切り取られたりとか……。
図書館の書籍を切り取ったり、持って買えるのは、論外であるけれど、ただこういったことは、最近はずいぶん減ってきたという。
雑誌は、読み終われば処分してしまうものが多いし、元々そういうものであるけれど、しかし、そういった「捨ててしまう」というものこそ、その時代の世相や風俗を映す鏡であったりするわけで、こういうものは「残そう」という意思がなければ、体系的なものは、なかなか後世に残るものではない。
実際に、各出版社でも、自らの雑誌の創刊号やバックナンバーを保存していないという例は多いらしく、大宅文庫に貸出の要請があったりすることもあるという。
いままで行かなかったことを後悔……
大宅壮一文庫は、やはり、入館料が有料であるとか、閉架式であるというところが、気軽な利用のハードルを上げているところはあると思う。かくいうぼくも、この年になるまで知ってはいるけれど、実際に行って利用することはなかった。
しかし、入館料とコピー代を含めても1000円もしない金額で、一日は確実に楽しめるということに、なぜ今まで気づかなかったのか、行かなかったのか、大いに後悔してしまった。
ご多分に漏れずだが、大宅壮一文庫も、経営としてはかなり厳しいという。
現在、賛助会員や、大宅文庫パトロネージュなどの支援制度があり、寄付をすると、入館料が無料になったり、雑誌記事索引データベースが利用できるなどの特典がある。
個人だと、1年で約1万円程度の金額で支援が可能だ。Netflixが、毎月1000円前後かかることを考えれば、けっこうリーズナブルな気もする。
いずれにせよ、1日居ても飽きないというのは請け合うので、ぜひいちど足を運んでみて欲しい。
取材協力
大宅壮一文庫
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