煙のあるところには火がある、フェリーがあるところには面白いものがある
公共フェリーに乗りまくるために2日間で約100キロも自転車で移動するという、世にもとんちんかんなことをしたが、悔いはない。おかげで行ったことのない場所にたくさん行けたし、ちょっとしたホリデー気分も味わえた。
あと、フェリーがあるところには何か面白いものがあるということもわかったので、ほかの街でも公共フェリーがあれば積極的に乗ってみようと思う。
今月も腰を軽くしてくれた9ユーロチケットに感謝である。

ベルリンには、トラムや地下鉄、バスに加えて、公共交通機関として船に乗ることができるそうだ。しかも路線は6本もある。
地下鉄に乗る時と同じチケットで船の旅ができるなんて、ロマンがあるじゃないか。乗ってみたら、想像を超えるおもしろさだった。
私の住むドイツの首都ベルリンには、電車、バス、トラムなどの公共交通機関がある。
ベルリン市内の交通機関の大半は、ベルリン市交通局(通称 BVG)によって運営されている。
交通機関の料金は一律なので、ベルリン市内であれば片道3ユーロ(約420円)で2時間の間、いろんな乗り物を乗り継いで移動することができる。
電車の乗り継ぎなどを調べる際には BVG のアプリを使っているのだが、前から気になっていることがあった。
検索オプションを開くと、トラムやバスなどの移動手段に混ざって、船のオプションがあるのだ。
なんとなく気にはなっていたのだが、実際に乗る機会は今までなかった。乗り場も都心からかなり離れているようで、通りすがりについで乗ってみるということもなかったのである。
BVG のウェブサイトを見てみると、ベルリンには6の路線があり、年中無休のものと夏限定のものがあることが分かった。
夏の期間のみの路線は観光用と思われるが、年中無休の路線には学校の休みによって時刻表が変わるものもあったので、通勤・通学にも使われているようだ。
これが離島の話であれば理解できるのだが、内陸の都市ベルリンの公共交通機関としての船って、一体どんな船で、どんな場所にあるんだろう。
よし、長年の疑問を解くためにも、乗ってみようじゃないか。
もう何年も気になっていたのに、なんで今更?と思うかもしれないが、実はその理由は「9ユーロチケット」にある。
この夏ドイツでは、たったの9ユーロ(約1300円)でドイツ全土の公共交通機関が乗り放題になる「9ユーロチケット」の特別キャンペーンが行われていて、今ならタダみたいな値段でいくらでも船に乗ることができるのだ。
「長年の疑問を解くためにも」なんてかっこつけたが、単純に私が「お得」に弱いだけの話である。
とにかく、船に乗るなら今がチャンスなのだ。早速出かけることにした。
まずはベルリンの南西エリアにある船に乗ってみることにした。
聞くところ、船には自転車を乗せることもできるそうなので、自転車も持っていくことにした。
本来はヴァンゼーまで自転車を電車に乗せて行ってしまえば楽なのだが、先ほど話に出た9ユーロチケットのおかげで、どこも電車が激混みしているのだ。
平日とは言え、夏休み真っ盛りだし、そんな中電車に自転車を乗せて移動する気力はなかった。
というわけで、自力で自転車で行くことにした。
9ユーロチケットで公共交通機関をフル活用したくて船に乗りに行くのに、電車に乗りたくないために自転車で移動するのはなんだか矛盾している気もする。
せっせとペダルを漕ぐこと1時間半、船着場の最寄り駅であるヴァンゼー駅についた。
このヴァンゼー駅のすぐ近くに船乗り場があるはずだ。湖に向かって少し進んでみると、
湖のほとりに、それらしき船着場があった。
ちなみにこの BVG の船、英語では「フェリー」と呼ばれている(ドイツ語では Fähre、フェーレ)。
日本語で「フェリー」というと車が乗せられる船を差すことが多いように思う。BVG の船は「水上バス」と呼んだほうがいいかもしれないが、一貫性のためにこの記事では「フェリー」と呼ぶことにする。
フェリーは1時間に1本しかないのだが、タイミングよく出発に間に合うことができた。さっそく自転車と一緒に乗り込むぞ。
自転車を60台も一体どうやって乗せるんだろうと思っていたが、船の片方には立派な自転車置き場があり、楽々と自転車を停めることができた。
それにしても、窮屈なバスや薄暗い地下鉄とは比べ物にならない優雅さだ。同じ公共交通機関とは思えない。
対岸を行き来するだけのフェリーなので途中に駅はなく、景色に見惚れているうちに目的地に到着した。
ああ、楽しかった。一日中行ったり来たりしたいぐらいである。
ここからは自転車で大回りをして帰るだけなのだが、小腹が空いたので甘いものでも食べてから戻ることにした。
お店の人に勧められたケーキはクリームがびっしり入っていて甘かったが、自転車を漕いで疲れていたのもありペロリと食べられた。
さっきまでパソコンの前にいたはずなのに、気がついたら船に乗って湖のほとりでもりもりケーキを食べている。不思議な気分だ。
思いがけなく、ほとんどお金をかけずにホリデー気分を味わえてしまった。
そんな夏のバカンスを可能にしてくれる公共フェリー、すんごくいいじゃないか。
公共フェリーの味を占めたので、別の日に夫を誘って東側のフェリーをはしごすることにした。
最初に到着したフェリー乗り場は公園の片隅にあり、川の両岸を行き来する渡し船のようなものだった。
ヴァンゼーのフェリーに比べると小さいが、ほぼソーラーパワーのみで動いているらしい。すごい。
次に訪れたフェリー乗り場は住宅地の一角にあった。学校がある期間は10分ごとに運行しているらしく、通学にもよく使われている様子だった。
地元の人が毎日使っているようなローカルなフェリーも、ヴァンゼーの豪華な雰囲気と違ってまた良い。進むスピードが電車などと比べてゆっくりなのも心地よい。
自分にとってはあまり馴染みのない移動手段なので、買い物や通学で乗ったり、船を気軽に利用する生活にはなんだか憧れる。
もう大体ベルリンのフェリー事情が分かって来たな〜と思ったが、旧東ベルリンの夏のリゾート、ミュゲルゼー湖付近にもフェリーがあるらしいので、もう少し足を伸ばしてみることにした。
ベルリン中心部から離れるにつれ、風景がどんどん変わっていく。そのうち、市内とは思えないぐらいのどかな景色になっていった。
と思っていたら道が川に突き当たり、フェリー乗り場らしきものが見えた。
これは何かの冗談なのだろうか。見るからに今まで乗ってきたフェリーとは全く別物だ。だって手漕ぎボートだもん。
「君はフェリーじゃないよ」と言いたいが、手漕ぎボートの巨大な「F」の看板が「いいえ、私はフェリーです」と主張している。
疲れてたのかもしれないが、呆気にとられて笑いが止まらなくなった。
このなんとも不思議な手漕ぎフェリーに乗ってみたいのだが、一つ問題がある。
ボートのサイズを見れば当たり前だ。仕方がないので自転車はこちら岸に停めてフェリーに乗ってみることにした。
あとは肝心の船長さんを探さねばならない。フェリー乗り場の隣に小さな小屋があったので覗いてみると、船長らしきお兄さんが座っていた。
そういうとお兄さんは手際良く船を出してくれた。対岸までは40メートルほどしかなく、3、4回ボートを漕いだら着いてしまうような距離だった。
あ、そういえば運賃のことを聞いていなかった。 本当にこのボート、BVG のチケットで乗れるんだろうか。
うん、やっぱり公共フェリーだ。そんなこんなしているうちに一瞬で対岸に着いてしまった。
せっかくこっち側まで来たのだからちょっと辺りを散策してみることにした。
船着場から数メートル進むと、
一体私たちはどこに来てしまったんだろう。もはやドイツの首都とは思えないおとぎ話のような風景が広がっている。
桟橋の近くには魚の燻製やサンドイッチを売るお店もあったので、見てみることに。
サンドイッチも食べたことだし、向こう岸に戻るとするか。お兄さんに言われた通り、桟橋に立って待っていると、
お兄さんに聞くところ、このフェリーは夏限定な上、週末のみ運行する特別な観光フェリーらしい。彼はこの仕事を始めて5年になるそうだが、1日平均して100人から150人ほどの乗客を運んでいるそう。
自転車も乗せれるタイプのフェリーが運行していた頃は1日に250人もの乗客を運んだこともあったが、最近手漕ぎフェリーに変わったそうだ。
まだ色々話を聞きたかったが、40メートルの船の旅はすぐ終わってしまった。
夏のうちに、また誰かを連れてこのフェリーに乗りに来よう。
公共フェリーに乗りまくるために2日間で約100キロも自転車で移動するという、世にもとんちんかんなことをしたが、悔いはない。おかげで行ったことのない場所にたくさん行けたし、ちょっとしたホリデー気分も味わえた。
あと、フェリーがあるところには何か面白いものがあるということもわかったので、ほかの街でも公共フェリーがあれば積極的に乗ってみようと思う。
今月も腰を軽くしてくれた9ユーロチケットに感謝である。
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