みんなで順番に話す会はいいものだ
ふつうの飲み会だと話の好きな人がずっと自分の話をしていたりするが、みんなが好きな話を順番にする会っていうのはもっとあってもいいなと思った。
それで、話が終わって晴れてたらみんなで月を見るのなんて楽しいと思う。月齢に関係なく。

黒川:これはモンゴル北部にある、フブスグルという大きな湖の岬です。この先っぽにもオボーがありまして。

黒川:ここで、オボーのお参りの仕方をご紹介します。

黒川:まず、右回りに3周回ります。
会場:あ、そういうのがあるんだ。
黒川:これはもうルールです。で、歩いてる最中に近くにある石を拾って、オボーに向かって投げ込みます。
これが面白いところで、オボーって成長していくんです。日本の宗教施設にはない特徴なんですけどね。
会場:投げ込まれたもので成長するわけですね。
黒川:穀物やミルクを撒いたりもします。石の間にお金を挟んだりもします。手で触れたり、しゃがんで叩頭したりもします。
で、車に乗ってるときはどうするか。草原の真ん中にオボーがあったら車で通るじゃないですか。オボーは3周しないと失礼に当たるんですが、クラクションを鳴らすだけでオッケーという。
会場1:現代的! 結構融通がきくんですね。
会場2:誰が決めたんだ。
黒川:誰が決めたんでしょう。シャーマンが言ったのかもしれない。

黒川:で、こんな風に穀物を撒いて。
会場:お米ですか?
黒川:これはおそらく粟ですね。手からこうやってパッと撒きます。

黒川:で、こういう風に手で触れて、なんかパワーを感じ取ろうとしてる人もいます。
会場:パワースポットだ。
黒川:そうなんです。パワースポット的な役割も兼ねておりまして、例えばチンギス・ハーンにゆかりのある丘などは「エネルギーセンター」と言われてます。
会場:エネルギーセンター! かっこいい。
黒川:本当に「エネルギーセンター」と呼ばれていて、そういうのがモンゴル中に2つぐらいあります。

黒川:さっきのは個人のオボーのお参りでしたけども、こういう風に家族祭祀の場としても使われています。地方に行くと、一家に一つオボーがあったりしますね。
こういうときは、右回りも当然します。それと撒き物をします。さっきの穀物、白米、粟、殻付きの麦。

黒川:これはもうセットで一緒に混ぜ込んで。それから、お酒とかを撒くのも多いと思いますね。
この人はブリヤートと言われる人たちで、モンゴルに住んでいる一番大きい部族ではなくて、むしろ少数民族と言われてる人たちですね。モンゴル全体の2%ぐらいしか人口がいないです。
やり方としては大体一緒で、捧げものとして、靴の裏の形をしたパンを作って、それを段々に組む。それから乳製品、これはちょっと酸っぱい、アーロールというチーズですね。
発酵した、日本人はちょっと苦手がちな酸っぱいチーズです。それから、団茶と言われるお茶を供えたりとか、あとは先ほどのハダクを巻き直したりしていきます。
会場:屋敷神みたいな? 各家にあったんですか。
黒川:オボーは家の中にあるものではなくて、その家族とゆかりのある丘の上とかですね。
会場:ちょっと違うんだ。

黒川:これはまさしく丘の上です。
このご家庭はブリヤートで、元々ロシアのバイカル湖の近くにあるアガ高原という高原に住んでいた民族なんですね。
彼らはロシア革命のときに逃げてきた人が多いんです。その中でモンゴルに逃げ込んだのがこの人たちの一族で、逃げ込んでから、ここで祭祀をしようと決めた。で、この方はシャーマンなんですよ。
この方が、今年初めてシャーマンとしての儀礼をここでやるということだったので、ファミリーヒストリーとしてすごく重要だなと思って、お邪魔させてもらいました。
会場:(お供えに使う)お米は取れるんですか。
黒川:モンゴルは本来お米は取れないですし、作らないんですよ。基本的には中国とか、農耕民からもらってくるものだったので、おそらくそれゆえに貴重なものとされてるんじゃないかと思います。
会場:普段の食事としてもお米を食べるんですか。
黒川:今は食べるんですよ。今でも結構食べます。麦もたくさん取れますし。共産主義政権下で、ソビエトの影響を受け始めてから、ネグデルという牧畜共同体が組まれて、初めて農耕を始めるんですけど、それ以前は一切自分たちで作らずに、貿易とか略奪とかで手に入れていました。

黒川:で、これがさっきの、食べ物で作る祭壇の完成形です。パンとアーロールと、この中にある茶色いのがお茶です。団茶ですね。レンガ茶ともよく言われますけど、お茶をレンガのように固めて乾燥させたものです。
その上が、シャルトスと言われる黄色い油です。それから、カラフルなお菓子、キャンディを散らす。なぜか先祖は甘いものが好きだと信じられていて、先祖に甘いものを供えるのがしきたりになっています。
これね、説明してもらったんですけど、小麦粉をぎゅっと固めたもので、よく分からないんです。チベット仏教の文脈で、厄除けのときに作った三角錐のようなものを、厄除けしてもらう人たちの頭の上にかざして厄を集めて、崖に投げ捨てるんですよ。そういう流れのものなのかなと思っていますが、ちょっと分からないですね。

黒川:で、ここから僕らが好きな俗信に入ってきます。
※俗信:地域社会や人々の日常生活の中で自然発生的に伝えられてきた庶民の信仰

黒川:一番お気に入りのオボーなんですけど、(赤枠のところを)よく見るとなんか色々ありますね。
会場:骨っぽいですよね。

黒川:右端(白い棒のようなもの)、何だと思います?
会場:つるはしか何かですか。
黒川:正解は松葉杖です。
会場:松葉杖!

黒川:馬の頭骨が置かれることについての記録が本当に見つからなくて、なんでだろうと思ってたんですけど、たまたま今年モンゴルに行ったときにお話を聞くことができました。
馬が死ぬと、魂が風に乗って違うところに行ってしまうと信じられていると。ただ、いい馬が死んでしまったときは、その魂が自分たちのところに戻ってきて、もう1回生まれ変わってほしい。輪廻転生の考え方があるので、そう思った人たちは、オボーに馬の頭骨を供えることで、土地に魂をつなぎ止めるらしいんですね。
会場:切実ですね。
黒川:頭骨に結構粗雑に巻かれてるハダクなんですけど、ハダクは結婚式のときとかに、決まった手順で手渡す儀礼を行わなきゃいけなくて、これを上手に行えないと結婚が認められない、とかがあったりするんです。それぐらい大事にされているものなんですけど、それを馬の頭骨に巻き付けるんです。

黒川:で、こちらが松葉杖です。なんで供えるかというと、ここから見えてくるのが、オボーのいわゆる道祖神とか、足の神様的な、旅の神様としての側面なんですね。
足が悪かった人がオボーにお祈りをして、足が治ったら、そのとき使ってた松葉杖を奉納するという決まりがあるんです。
会場:松葉杖って大事なんですね、気づいてなかった
黒川:これなんかは、病院からもらってきて、そのまま置いていっちゃった感じじゃないですか。モダンな。ただ、これはおそらく奉納するために作った松葉杖なんですよね。実用に耐えないぐらいガタガタだったので。そういうものも需要として出てきてるんだろうなと。
松葉杖と頭骨は、結構見ることができます。

黒川:それから、オボーはシャーマンの卒業の場所としても使われています。

黒川:ちょっとシャーマンのご説明をしますと、モンゴルには、テングリ、さっきの天の神様や、オンゴと言われる自分たちの祖先霊・精霊と交信して、託宣を行う民間宗教者がいます。
日本語ではシャーマンとよく訳されますけど、向こうではボーとか、女性のシャーマンのことはオドガンとか言ったりします。
ドラムや韻律によって変性意識状態になる憑依を、技術として行う方々です。韻律とわざわざ入れたのは、島村一平というモンゴルのシャーマニズムの研究者がいるんですけど、彼はヒップホップみたいに韻を踏む行為が、憑依にかなり影響を与えてるんじゃないかということを今調べているらしいんです。
会場:ヒップホップと繋がるんですね!
前回の記事で、ヒップホップの起源を話があったのだ。
黒川:モンゴルでもヒップホップはめちゃくちゃ流行っていて、モンゴルのヒップホップが海外に輸出されるような、一種の流行りになってるというのがあります。
このシャーマンが、2000年代末に、モンゴルの中でも一番多い民族であるハルハのあいだで爆増した時期がありました。300人に1人がシャーマンというぐらいの割合で、とんでもない数がいて、それに伴って結構なトラブルが発生したということです。今は少し落ち着いていますけれども、まだシャーマンの方がたくさん残っているという状況です。
で、注目してほしいのが、このシャーマンの装束です。ハダクが巻き付けられていて、紐がありますよね。

黒川:これがですね、さっきのオボーに打ち捨てられてるんですね。オボーは、今のシャーマンたちにとって儀礼の場であると同時に、シャーマンを卒業する場でもあるということで、シャーマンがシャーマン業を辞めた跡にもなっていたりします。

黒川:これがシャーマンが使ってる、神楽で巫女さんが使う鈴みたいなものですね。シャンシャン鳴るものがいっぱいついてるやつ。
これは、ウランバートルにあるナラントール市場というところで買えます。シャーマングッズエリアがあって。
会場:なるほどね。シャーマンのスターターキット。
黒川:そうそう。

黒川:それから、仏像とかも置かれますね。これは緑ターラー菩薩と言われる、チベット仏教における尊格の1つです。チベット民族の祖先としても信じられているもので、一族は彼女から生まれたという。
会場:イブみたいな

黒川:それから、もっと民俗信仰っぽいもの。「目に捧げる甘露」という意味の、ヌドニー・ラシャーンと呼ばれるオボーです。
ここは岩に穴が1個開いてまして、手製の柄杓みたいなのがずっと置いてあるんですよ。ここに水が溜まるので、溜まった水をすくい上げて目にかけると、眼病が治る、目が良くなると信じられてて。

黒川:もう、気に入ってる写真ですね。
会場:ナショジオに出てきそうな写真。
黒川:こういう風に、特定の病気に効くオボーもあったりします。だから雨乞いだけじゃないよ、というところです。
会場:湧水じゃなくて溜まった水だとちょっと怖いですね。
黒川:おそらく溜まり水っぽいです。
黒川:で、これを見てもらうと、真ん中にちっちゃい石積みがあります。今日の最後の写真になりますけど、近づいていくと、ちっちゃいオボーですね。

黒川:見覚えがあるものが。
会場:なんだろう。

会場:餃子屋さんのお皿?
黒川:日本の中古食器が流れていって、向こうの祭祀に使われてるんです。こういうのとも出会えるんですね。これが、僕がすごく好きなところです。
ここには食器しか置かれてなかったですけど、他にもシャルトスという黄色い油を入れるための皿があったりするんです。大体は持ち帰るんですけどね。
面白いことに、赤ちゃんオボーがそこら中にあって、みんなで育てていくんですよね。これが面白いところです。なくなるものもあるんですけど、どんどんポコポコ生まれてるんです。
会場:だから決まった形がない?
黒川:それはやっぱり、オボーの形状に定まった形式がないからだと思うんですね。おそらく、ハルハの人たちが今オボーで大事にしているのは、石積みと、ハダクを巻き付けることで聖別されているという状態。だから、実際は本当にいろんな種類のオボーがあるんだと思います。
ゲル地区ってあるじゃないですか。あそこを定点観察してるんですけど、なかったはずのオボーが近くに生まれてて、見てみたら、まっすぐ棒が立ってるんです。どうやってるのかと思ったら、タイヤのホイールを基礎にして、そこに棒を立てて石を詰めてる。
会場:オボーが欲しいって気持ちは、やっぱりあるんですね。
黒川:何にこだわりを感じるかが本当に人によって様々なのが、とっても面白いところです。

黒川:ということで、まとめとしては「モンゴルはいいぞ」です。乗馬と草原と相撲だけじゃないぞと。
あと、モンゴルについてよく言われるのが、「草原しかないでしょ。見るものがなくてつまんなくない?」と。いや、受け取る情報量を自分で調整できるってことだよと。何もないところに行ってぼーっとするのもいいし。でも、じゃあ何もないかといったら、そんなことはないです。いろんな生き物がいたり、オボーがあったりする。円安でも楽しめるぞと。
意外に近いです。5時間ぐらいで行けます。飛行機は直行便が毎日出ていて、帰りも直行便が毎日出てるので。
それから、モンゴルは草原・砂漠・タイガ林という地形と環境で、定住しないで牧畜を主にしてる。これは日本とかなり逆なんですよね。
会場:本当だ。
黒川:全く違うところなのに、例えば、これはかなり否定されてるんですが、源義経とチンギス・ハーンは関係があるとか。
モンゴルの人たちが、蒙古斑とかから日本人との繋がりを感じてくれてるとか。そういうところで通じ合えるのがとっても楽しい。なんか俺たちと似てるなと思えるところでもあるので、モンゴルおすすめです、というのが今回の僕の話でした。以上です。
会場1:ありがとうございます。面白いよね。
会場2:多分、世界中どこも面白いんだろうな。
といったところでみんなの話は終わりになった。時刻は23時。
この日の月の出は22時13分だったので、もう地平線近くに月は出ているはずだ。せっかくだから月が見たい。カラオケ店を出て外を見てみる。

雨が降ってる。それでもなんとか月を探すが、どこにも見当たらない。

完全に雨が降っていて、みんなも笑ってしまう。覚えていますか、この夏、東京は1ヶ月以上も連続で雨だったことを。
そういうわけで月は見えなかった。しかし、月を待つことはできた。趣旨はみごと達成できたと思おう。
ふつうの飲み会だと話の好きな人がずっと自分の話をしていたりするが、みんなが好きな話を順番にする会っていうのはもっとあってもいいなと思った。
それで、話が終わって晴れてたらみんなで月を見るのなんて楽しいと思う。月齢に関係なく。
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