特集 2026年10月13日

北海道の昆布漁の船は朝一斉スタートするので近くの小島に住んだほうが有利 〜二十三夜待・最終夜〜

黒川さんによる、モンゴルの話

最後は、黒川晝車(くろかわ ひるま)さんによる、モンゴルの話。

黒川さん

黒川さんは民俗学に詳しく、「ゆる民俗学ラジオ」という YouTube のチャンネルを運営している。

さっそく話を聞いてみよう。

黒川:まずちょっと自分の話をしますと、私は日本民俗学を大学で勉強していたんですが、それとは別にモンゴルに強い関心がありまして、大学2年生の頃に初めてモンゴルに行く機会がありました。

元々は草原が好きという理由でモンゴルに行ったんですけど、そこで「あるもの」の写真をずっと撮り続けていたんですね。

それが、今出ているモンゴルのキリル文字で、これを「オボー」と読みます。 

黒川:まずはモンゴルのイメージを、皆さんとすり合わせたいなと思います。 

黒川:まずは草原。草原の中での生活ですね。

黒川:これは、モンゴルの中でも割と南寄り、ゴビ寄りの方の景色なので、ちょっと草がまばらなんですけど。

これはツーリスト用のゲルなので、普段の住まいではなく、観光客向けのものになってますね。

会場:ホテルみたいな。

黒川:そうです。ホテルみたいな。そういう営業をしているところが大変多くあります。 

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モンゴルの生き物たち

黒川:それから、お馬さん。 

黒川:これを見て、ピンと来る方いらっしゃいますかね。この群れに法則性があるというか、なんか特徴があるぞって分かりますか。

みんな考えるが、言葉が出ない。

黒川:よく見ると、角があるのが奥にいて、ないのが手前にいますよね。手前にいる白いのが羊で、奥にいるのがヤギです。

モンゴルの方々は、家畜の中でも羊とヤギを混ぜて遊牧させるのが決まりになっていて。

会場:まとめた方が楽なのかな。

黒川:というのも、羊って目の前にある餌しか食べないので、ずっと足元を見てもぐもぐ食べてるんですよ。で、移動しないんですよ。食べ尽くしたら、ぼーっとし始める。

でも、ヤギはどんどん自分の行きたい方に行く。そうすると、ヤギのお尻を追いかけて羊が移動する。

会場:うまく移動できる。

黒川:だから必ず混成部隊で動かします。

会場:ボーダーコリーとかは使わないんですか。

黒川:使わないんですよ。 

黒川:ワンちゃんがいます。

会場:かわいい。

黒川:これはモンゴルバンホールと言われている犬種なんですけども、モンゴルの犬は牧羊犬ではなくて、ゲルを守るための番犬です。

会場:なるほど。

黒川:羊とかを追いかけるのは人ですね。基本的には馬に乗ってやるんですけど、最近はバイクで追いかけたりもします。 

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モンゴルのごはん

黒川:それからご飯です。こちらはホーショールと言いまして、中国から伝わってきたタイプの揚げ餃子です。

会場:中身は何ですか。

黒川:羊肉です。

会場:やっぱりそうか。

黒川:羊の肉をいっぱい入れて食べると、めちゃくちゃおいしいんですよ。日本でも食べられるところがあります。 

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モンゴルにあるのはそれだけではない

黒川:で、モンゴルは本当にこれだけですか?ということを言いたいわけですね。他にもあるだろうと。これを見てください。

会場:すごい、Windowsの壁紙みたい。

黒川:ですけど、注目してほしいのはここ(赤い丸)なんです。

会場:なんかいる。

黒川:草原のど真ん中に急にポンと現れる。RPGのゲームで、原っぱの中にポンとあるセーブポイントみたいに、ポンポンとあるものです。 

黒川:オボーです。聖なる場所になってます。今ご説明しますね。

天地を崇拝するためのものであるとか、力ある死者の墓になってたりとか、民俗信仰の現場としても使われたり、道しるべとか、土地土地の境界を表したりします。

ノモンハン事件ってありましたよね。ハルハ河戦争とも言って、モンゴルの東の端っこの方で起きた戦争ですけども、あのときに境界の目安としてオボーが出てきていて、当時の資料にもオボーという名前が載っているんです。

その境界をめぐって、ノモンハン事件が勃発していたりもします。

多くは山とか丘の上に作られたり、川沿いや道沿いにあったりするので、日本の道祖神とか祠と、かなり近い位置関係にあるわけです。 

黒川:これは、モンゴルの画家の方が描かれた、オボーのお祭りの絵です。真ん中にオボーがあります。

石積みがあって、多分、捧げ物にされた羊の頭と、羊の皮が並べられているんですね。その周りを人々やラマ僧が囲んでいるという構図になってます。

会場:絵柄がかわいい

黒川:すごくかわいいですよね。馬を正面から描けるのがすごいなって。さすが馬文化圏だなと思うんですけど。

オボーは、よくテングリズムという宗教の流れを汲んでいると言われます。テングリというのは、ここに書いてある「永遠の青き天」で、大地と対で語られるような、とにかく天を崇拝するものになるんですね。

で、ここにハダクって書いてあるんですけど、オボーの棒に結びつけられている布がハダクです。

ここで黒川さんがハダクの実物を会場に配る。

会場:あの絵のとおりにカラフルなんだ!

黒川:そうなんです。これは化繊の一番安いやつで、本来は絹なんですけど。

会場:色に意味があるんですか。

黒川:色に意味があるともされていますし、仏教でよく使われる五色だったりもします。

黒川:よかったら、今日5人いらっしゃるので、1人ずつどうぞ。

黒川:青が一番人気です。「永遠の青」という意味を持っていますので、すごく大事な色とされています。五色がこのように飾られていくケースが多いですね。

モンゴルの主要産業として牧畜があって、これが天候にかなり左右されます。実際、2000年代の頃にゾドという雪害が起きまして、寒すぎて家畜のとんでもない割合が一気に死んだということがありました。その結果、モンゴルの首都ウランバートルの周辺に、職を失った人たちが集まって、ゲル地区と呼ばれる、言ってみればスラムを作る原因になっていました。

とにかく天候に対しての警戒心がすごく強いし、天候に見放されたら生きていけないという感覚があったのが、テングリズムを受容するきっかけになったようです。

テングリズムが確実に成立してくるのは、13世紀を待たなければいけないようです。ただ、割と体系的な宗教だったらしく、オボーはそれ以前からあったんだろうと言われています。それはシャーマニズムとの関わりからですね。シャーマニズムの話は後でしようと思います。 

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オボーを深掘りする

黒川:で、オボーは細かいところがとっても面白いので、皆さんには細かいところを見ていただこうと思います。 

黒川:まず、オボーがいたるところにあることとか、お参りの仕方に決まりがあるとか、民俗信仰の現場としてどういうことがされてるのかとか、いろんな形があるとか。この辺に触れていきます。 

黒川:まず、いろんな場所・形のオボーです。 

黒川:これが、後藤富男という民族学者が言った、オボーの基本形なんですね。

木の竿と石積みにハダク、そこから伸びてるヒーモリ。これがオボーの基本形だよと後藤富男は言っていますが、実際はものすごく形態に違いがあります。

会場:形ちがうんだ。

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いろんな形のオボー

黒川:これはモンゴルの北部にあるフブスグルという、めっちゃ綺麗な湖の近くにある村ですね。この村を守るためのオボーとして作られています。

見てもらうと、形がテント型をしてるじゃないですか。

これって、この周辺でトナカイの遊牧をしているツァータンという人々の居住テントと、形状が一緒なんですよ。おそらくその影響を受けてるんじゃないかと言われています。 

黒川:で、これはウランバートルの南の端っこにある、オボーが集中している施設なんです。

会場:オボーセンターだ。

黒川:そう、センターなんですよ。元々オボーセンターだったわけじゃなくて、最近になって勝手に建て始められたものです。

ある種のムーブメントがありまして、なんか聖地っぽい、大事とされてる場所を勝手にオボーにして、自分たちの宗教空間にしちゃうということを、モンゴルではやるんです。 

黒川:これが、さっきのところを下から見た感じです。めちゃくちゃでっかいんですよ。

会場:石積みはないんですね。

黒川:そうなんですよ。だから、後藤富男が定義したオボーの定義って、かなり狭いんですよ。実態としては石積みがない場合もあるので。

会場:なるほど。テントもちゃんとした形じゃないんですね。斜めってますよね。

黒川:そうです。多分これは、ツァータンの居住テントを意識したものではないと思うんですよ。おそらく違う文脈から出てきてるもので、本来は調べられるべきなんですけど、実はそんなに研究が進んでないところではあります。

会場:こんなかっこいいのもあるんだ。 

黒川:これは西の端の方にある、ホブドという町の入り口にあるオボーなんですけど。

本体はこれなんですよ。

会場:確かに真ん中に立ってる。

黒川:仏塔の中にオボーがあるという形態です。おそらく、元々あったオボーを、仏塔の形式のもので固めて守るようにしたということだと思います。

会場:鞘堂(さやどう)ってやつですか。本体のお堂の周りにかぶせるように。

黒川:そうそう。仏教の影響もあるのかもしれません。

ここにお馬さんの絵があるじゃないですか。これ、お馬さんの一生を描いていて、端からぐるっと回っていくと、最後は転がって死んじゃうんです。

会場:切ない。

黒川:何を意味しているのか、ちょっと僕も分からないです。ただ、オボーを道中のお守りとして捉えたりするので、そういう役割を果たしてる部分もあるのかなと思っています。 

黒川:これはちょっと写真が荒いですが、ここ(右上)を見てもらうと分かるんですけど、卍が入ってるんですよね。

会場:本当だ。

黒川:もしかしたら逆になってるかもしれません。多分あまり気にしないんです。

会場:裏から見てるのかも。

黒川:多分、表はこっちだと思います。斜面が奥に登ってるので。

これは完全に、チベット仏教と習合した形のオボーになっているというわけですね。 

黒川:これもオボーです。これぐらい質素なものが原始的な形です。面白いのが、周辺にある岩の性質によって、オボーの形状が変わってくるんです。

この周辺は、板状の岩が簡単に取り出せるんですね。

会場:昔の建築と同じですね。周辺の素材でつくるという。

黒川:で、これもオボーです。

会場:どれが?

黒川:これらしいです。木にハダクを結びつけているもの。1枚あるでしょ。

これは、西の果てのウルギーという町から、今言ったホブドという西の割と端っこの町まで300キロあるんですけど、そこから帰ってくる途中、運転手さんに僕がオボーが好きなんだと言ったら、車を止めて「オボーだよ」と。

ニヤニヤしながらも、その人はオボーをちょっと怖がってるんですよ。触らぬ神に祟りなしみたいな感じで、力がある場所だから近寄らない方がいい、みたいな感じですね。

会場:言われないとただの崖ですよね。

黒川:でも、何か謂れがあるみたいです。

もしかすると本質的には、布を巻き付けることで聖なるものと俗なるものを分けることにあるのかもしれない、と僕は思っています。

会場:なるほどね。 

⏩ オボーのお参りのしかた

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