顔の地域差
顔は人それぞれで異なる。目や鼻、口など同じもので構成されているけれど、異なる顔を造る。また顔の造形には地域差があるように思える。たとえば、日本人とアメリカ人では異なるし、アメリカ人とメキシコ人でもやはり異なる。
日本だけを見ても地域差があるように感じる。私の顔は濃いか薄いかで言えば濃い。顔の造形が濃いのだ。「九州出身です」と言うと納得されることが多い。沖縄に行った時に、国際通りを歩いていると修学旅行生に道を聞かれたこともある。つまり私の顔の造りは南ということだ。
ニホンザルは北から南の広範囲に生息している。北限が青森(下北半島)で、南限が鹿児島(屋久島)だ。日本人の顔に地域差があるなら、同じ「日本」と付く「ニホンザル」にも地域差があってもいい気がする。
青森と鹿児島の日本人の顔をイメージすると、やはり異なる気がする。傾向と言った方がいいかもしれない。顔の造形が濃い傾向にある、のようなものがニホンザルにもあるのではないだろうか。純粋な好奇心。気になってしまったので調べることにした。
ニホンザルの北限・青森
ニホンザルの北限は先にも書いたように青森県。厳密には下北半島ということになる。この地域のニホンザルは、もっとも北に生息しているヒト以外の霊長類でもある。まずはこの北限のサルの観察に出かけた。
季節は11月の初めだった。「むつ(青森)」の11月の平均気温は6.8℃。しかし訪れたのは11月の始めだったので、10月の平均気温である「12.7℃」の範疇にあるように思えた。ニホンザルが冬支度を始める頃だろうか。
下北半島は広い。どこにニホンザルがいるのかわからない。2022年の「第3次第二種特定鳥獣管理計画 (下北半島のニホンザル)」を読むと、下北半島に群れとして生息するサルは71群、数にすると「2796頭+α」とある。1998年が732頭なことを考えると数は増えているようだ。
まずは「むつ市脇野沢九艘泊」にある「猿の住む海辺公園」を訪れた。公園の名前からニホンザルがいるように思えたからだ。ただ現在は閉業しているようだった。海岸線に沿って道が続くけれど、ポールでその先には行けないようになっていた。
おそらくポールの奥に進めば貝崎園地があるが、2016年から落石のため通行止めになっている。この辺りにはA群と呼ばれるニホンザルが生息していた。1981年に出版された「下北のサル」によれば、1964年に餌付けされ、その時の数は17頭だったようだ。
この本には「野外博物館構想」の話が書かれている。貝崎園地周辺を整備して、北限のサルを観察できるようにするものだ。実際に1973年に野猿観察舎、1978年にニホンザル展示館が完成している。今はどうなっているのかわからない。またこの時代くらいから問題が起き始める。
「日本霊長類学会霊長類保護委員会ニューズレターNo.8」によると、1976年にはA群の個体数が100頭近くに膨れ上がっていたとある。それに伴い猿害が増えたのだ。猿害とはサルが農作物を食べること。現在の日本でもそのような被害はよく問題になっている。
その後給餌を大幅に減らしたり、逆に大量給餌を再開したり、A群が分裂したりがあり、1981年から1982年にかけてA群の給餌は終了し、A群ほか111頭を捕獲する。何頭か逃亡したらしいけれど、捕獲したサルを1981年に開設された野猿公苑で飼育することになる。
脇野沢野猿公苑に行くとサル山にニホンザルがいた。「日本のサル哺乳類学としてのニホンザル研究」に最初のサル山は1931年の上野動物園とある。ちなみに記録で最古のニホンザルの飼育は1885年。上野動物園でオス1頭、メス2頭だったそうだ。
脇野沢野猿公苑には、北限のサルの骨格標本も展示してあった。おそらくこれは「北限のサル」にある骨格標本だ。日本ではじめての北限のサルの骨格標本になるだろう、と書かれており、ニホンザル展示館に収めると書いてあった。おそらくニホンザル展示館はもうないので、こちらに移動したのだと思う。
脇野沢野猿公苑にやってきたけれど、基本的には保険だ。可能であれば野生個体の撮影をしたい。理由としてはこの後、屋久島に行くのだ。屋久島のサルは野生なので、条件を揃えたいからだ。でも保険は大切なので、脇野沢野猿公苑で写真を撮った。
野生を見つけた
時刻は夕方になっていた。きっとニホンザルを探すつもりなく、下北半島を走っていれば、ニホンザルに遭遇すると思う。ただ探していると遭遇できない。よくあることだ。山の中を適当に走ったけれど、ニホンザルはいなかった。
もう無理かとあきらめかけた時に、奇跡は起こる。ガードレールにニホンザルがいたのだ。出会うパターンあるんだ、と驚いた。経験的にこれはもう出会えないパターンと思い込んでいた。野生動物探しはたまにするのだけれど、完全に出会えないパターンなのだ。でも、今回は出会えた。ラッキーだった。
群れに遭遇できたようだった。たくさんのニホンザルがいた。もう撮り放題。もちろん距離を撮って撮影するのだけれど、サルから目視できるところに私はいる。それでもニホンザルは逃げなかった。ある程度、人には慣れているようだった。
ニホンザルには当然、オスとメスがいるのだけれど、今回は性別を考えないものとする。顔の傾向なので、性別は関係ないと判断したからだ。あと自腹なので、たとえば、同じ年齢のオスだけを探して写真を撮る、は日数的に難しいという問題もある。
大満足だった。飲み会なら次の日に二日酔いするくらいのニホンザルを見た気がする。ちなみに30分ほどでこの群れは山の中へと移動していった。群れは移動を繰り返しているはずなので、次の場所へ移動したのだろう。運がよかったのだ。


