比べよう
これで北限のニホンザルと九州のニホンザルと南限のニホンザルの撮影ができたわけだ。顔は違うのだろうか。現状としてはわからない。全て同じニホンザルに見える。見比べようではないか。
北限と南限
なんか違う気がする。毛色や顔の色は異なるけれど、今回はあくまでも顔の造形だ。なんとなくではあるけれど、南限のヤクシマザルの方が険しいように見える。目の輝きのようなものも異なる。北限は目がクリクリという印象を受ける。ただ個体差かもしれない。
北限、九州、南限
やはり違う気がする。北限は優しい顔で、九州がのほほんとしていて、南限が険しい。もちろん個体差という可能性も十分にありえる。先にも書いたように年齢や性別などを限定していないので、たまたま違うのかもしれない。
違う気がするな!
平均顔を作る
そこで考えました。個体差があるので、もう重ねちゃうことにした。つまり平均顔を作るのだ。同じ集団の写真を重ねる。正面の写真の枚数に限りがあるので、10枚から15枚とそれぞれで重ねた枚数に違いはあります。
北限の平均顔
九州の平均顔
南限の平均顔
どうだろうか。顔の赤さは屋久島があきらかに薄い気がする。ただ今回はそこではなく、顔の造形の話なので、そこだけを見ると、やはり北限のニホンザルの方が薄い顔立ちで目がクリクリ、九州のサルは比べると彫りが深くのほほんとした印象があり、南限のヤクシマザルはさらに彫りが深く険しい顔立ちに見える。
南に行くほど、彫りが深い気がする!
目のクリクリ具合と目の窪みの深さ。これが大きな違いだ。南限はあきらかに窪みが深い。濃いという表現をしてもいいと思う。北限、九州、南限の順番で顔が濃くなっている印象を受ける。
北限と南限
私以外の人にも平均顔の写真を見せて意見をもらった。その結果、北限は「顔が整っている」「勇者に憧れている」がなどあり、九州は「夜飲みに行くと必ず奢ってくれそう」「コワモテ」などがあり、南限は「ラスボス」「好きな食べ物はチョコレートだけど医者にとめられている」などだった。
北限
造形なのか、表情なのかは難しいところではある。また私の平均顔を作る技術の問題もあるかもしれないけれど、それでも表情含め、顔が違うということにはなると思う。あきらかに北限のサルの方が目がクリクリしていて、薄い印象を受ける。南限は険しく濃い。つまりニホンザルも地域によって顔の造形が異なるということだ。
南限
考えてみよう
まず日本人の顔が北と南で違うのはなぜかを考えたい。これは日本人の歴史を見なければならない。いろいろな研究があり、私にはどれが正しいかわからないけれど、一応、本は読んだ。
「新版 日本人になった祖先たち DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)」篠田謙一 NHK出版 2019
まず現代人は20万年前にアフリカで生まれ、6万年前にアフリカを出て世界に広がったという大前提がある。日本には4万年前に進入したと考えられている。
大分のサル
ざっくりまとめると、本土の日本人(本土集団)は在来の縄文人と渡来系の集団の混血によって成り立っている。さらに南西諸島と北海道の集団がいて、それが現在では本土集団と混ざり合っている、ということになると思う。
屋久島のサル
つまりいろいろな遺伝子が混じり合い、さらに環境によって顔の造形に地域差があるのだ、と私は思うのだけれど、ニホンザルはおそらくそうでない。「日本の哺乳類学2」を読むと、ニホンザルは朝鮮半島経由で63万年前から43万年前に日本列島に侵入したとある。
青森のサル
12万年前には下北半島にまで分布を広げている。2万年前の最終氷期には再入植はなかったそうなので、ざっくり50万年くらい他のサルと混じり合っていないことになる。これが日本人とは大きく異なる部分だ。
カッコよく撮れたヤクシマザル
ただ日本にやって来て時間が経ち、あちこちでそれぞれ暮らすことで、地域差は出てくるわけで、それが先に書いたような顔の差になるのではないだろうか。ニホンザルは日本という限られた空間での、環境のみにおける造形の違いということなると思う。
「サルと屋久島: ヤクザル調査隊とフィールドワーク」半谷吾郎,松原 始 旅するミシン店 2018
ではニホンザルの顔がどうして環境で地域差が出るのかも考えたい。上記の本に「群れの関係性」の話がある。屋久島では群れ間の関係が敵対的で、金華山では平和的とある。島という孤立した環境では餌が限られるので攻撃的になるのではないだろうか。つまり人間もそうだけれど、敵対している時に優しい顔ということは基本的にはないはずなので、険しい顔になるわけだ。
これは屋久島で見たネコ!
それが数万年続いたので、ヤクシマザルの顔は険しくなったということではないだろうか。目の窪みが深く見えるのもそのためだ。より怖く感じる。つまり日本人とは異なり、別の遺伝子は入っていないけれど、数万年くらい怖い顔をした結果、険しい顔、あるいは濃い顔になったのだ。
これは高崎山トレーディングカード!
では、北限のニホンザルと九州のニホンザルの違いが生まれるのはどうしてだろうか。これは気温差ということでどうだろう。九州は日差しが強いのだ。目を細めることが多かったのかもしれない。それが万単位の時間の経過で窪みが深くなったのだ。
「ニホンザルの自然社会: エコミュージアムとしての屋久島」高畑 由起夫,山極 寿一 京都大学学術出版会 2000
ちなみに顔ではないのだけれど、上記の本を読むと、鳴き声に「方言」があると書かれていた。人間にも言葉に地域差があるように、ニホンザルにもそれがあるのだ。人間同様に遺伝ではなく、学習によって変わるそうなので、サル同士だと鳴き声で「関西出身?」みたいな可能性はある。
動物注意の看板!
全ては私の推測であり、全くの見当違いなことを書いているかもしれない。ただ比べれば顔が違う、ということだ。傾向として濃いと薄いとも表現できるし、優しいと険しいと表現できる違いがあった。ちなみに間違いなくわかったこともある。これ、撮影に24万円くらいかかりました。生活が大変、ということだ、私の。
楽しかったけどね!
人間と同じ
本当は各地のニホンザルをたくさん撮れば、もっと違いがわかるかもしれないけれど、北と南でざっくりではあるけれど顔の違いを見ることができたので、これでひとまず完結としたい。南の方が険しい、濃いという印象なので、案外人間と一緒なのかな、と思った。
子供のサル!
参考文献
「サルと屋久島: ヤクザル調査隊とフィールドワーク」半谷吾郎,松原 始 旅するミシン店 2018
「ニホンザルの自然社会: エコミュージアムとしての屋久島」高畑 由起夫,山極 寿一 京都大学学術出版会 2000
「霊長類学者・川村俊蔵のフィールドノート 1950年代屋久島の猟師と後継者たち」服部 志帆 南方新社 2022
「宮本常一著作集16屋久島民俗誌」宮本常一 未来社 1974
「日本のサル 哺乳類学としてのニホンザル研究」辻大和 中川尚史 東京大学出版会 2017
「ニホンザルの生態(講談社学術文庫2698)」河合雅雄 講談社 2022
「日本の哺乳類学2中大型哺乳類・霊長類」高槻成紀,山極寿一 東京大学出版会 2008
「下北のサル」伊沢紘生 どうぶつ社 1981
「新版 日本人になった祖先たち DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)」篠田謙一 NHK出版 2019
「News Letter No.33」鹿児島大学総合研究博物館 2013
「第3次第二種特定鳥獣管理計画(下北半島のニホンザル)」青森県 2022
「日本霊長類学会霊長類保護委員会ニューズレターNo.8」日本霊長類学会霊長類保護委員会 1998
「南島文化 第45号 首里城跡出土のサル骨考(p41-53)」盛本勲 沖縄国際大学 2022
編集部からのみどころを読む
猿の写真がめちゃくちゃ綺麗ですね!ある程度近づけるといってもそこそこの距離はあると思いますし、それでもめちゃくちゃパキッと精悍に撮れてて、さすが地主さんと思いました。
あと、亜種だからね、の流れでちゃんと九州が押さえてあるのもさすがの抜かりなさです。
これから動物園でサルを見たら「南国顔だな」「北国出身かな」と当てながら見てください。(石川)
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