映画館にポップコーンがあるとうれしい
私は大阪市に住んでいるのだが、大きな街だけあって、シネコン的な大型の映画館もあれば、単館系の映画を上映する映画館もある。小さな映画館ではあまりポップコーンは売られていなくて(飲食禁止という映画館もある)、ある程度の大きな規模の映画館に行くとある。ポップコーンマシーンで大量に作って販売するスタイルが一般的なので、大型の映画館に限られるのかもしれない。
映画館によって異なるがだいたい500円前後の価格で売られている。サイズが選べるものもある。塩味とキャラメル味の2種類が主流で、それを半々に入れてもらえるセットがあったり、その二つの味だけでなく、もっと色々なフレーバーを提供しているところもある。
私はずっと塩味の一択である。キャラメル味は人生の中で数回しか食べたことがなく、個人的にはポップコーンと言えば塩味をイメージする。シンプルな味わいを求めている。
たまに歩いていてポップコーン専門店を見かけて「ほお」と思う時もあるのだが、そういうお店のポップコーンは味付けに凝っていて、塩もただの塩じゃなく、いい塩で、そこにバターの風味が足されていて、とか、色々な要素が足されていることが多い。もちろんそれはきっと美味しいのだろうけど、私はあくまでもシンプルな塩味のポップコーンを求めてしまう。
そしてシンプルな塩味のポップコーンを食べようと思うとなかなか難しくて、理想に一番近いのが映画館のポップコーンということになるのである。そんな話を友人にしたところ、「申し訳ないけど、みんな、塩味のポップコーンってそこまで好きっていうわけでもないんじゃない?キャラメル味ならまだわかるけど」と言われて驚いた。
でもたしかに、私のように塩味のポップコーンを常に食べたがっている人はあまり周りにいない気がする。塩味のLサイズを無心で食べ続けている私は、孤独な存在かもしれない。
まあ、いいのだ。先日、ふと、「あの映画館のポップコーンがやけに美味しかったな」と思い出した。それが大阪市阿倍野区にある「あべのアポロシネマ」という映画館のポップコーンだ。JR天王寺駅からも近い場所にあるビルの中の映画館で、そこで以前、映画を見ながら食べたポップコーンが美味しくて、記憶に残っていた。
あの美味しかった映画館のポップコーンを食べに
思い出していたら食べたくなって、そこまで行ってみることにした。事前に色々調べたところによると、チケットを買わないとそもそも館内に入れないスタイルの映画館以外なら、必ずしも映画を見なくても、ポップコーンだけ買っていいそうだ。映画館のポップコーンだけを、ただ食べに行くというのも乙というもの。
天王寺駅から地下通路を歩き、「あべのアポロシネマ」へ向かう。
近くにいたスタッフの方に念のため「映画を見ないでポップコーンだけ買ってもいいですか?」と聞いてみると「大丈夫ですよ」とのこと。それで安心して、フードやドリンクを販売しているカウンターへ向かう。
ポップコーンのサイズはS・M・Lの3種類あり、ドリンク類にはSとMがあるようだ。そしてポップコーンのMとドリンクのMが一緒になったセットもあるらしい。
そのセットを注文することにした。850円。ドリンクはペプシコーラにした。ポップコーンにはコーラを合わせたい。少しして、懐かしいパッケージのポップコーンとコーラが目の前に置かれた。
隅の方のベンチが空いていたので、そこで写真を撮って、一旦、味見してみることにした。
ポップコーンは容器ごとビニール袋に入っていて、できたてが提供されるという感じではなく、あらかじめ作ってあったものを販売用に準備してあったものらしい。
食べてみる。塩加減が絶妙で、濃すぎず、あっさり過ぎでもない。私としては、ポップコーンは必ずしもできたてがいいというわけでもなく、ちょっと時間が経って、外の世界に馴染んだぐらいの食感もまた、いいのである。
しばらく無心で食べ、そこにペプシコーラだ。
この組み合わせ……やはり最高だ。ポップコーンもドリンクも、Mサイズだとしっかりしたボリュームがあって、予告編の間からポップコーンをどんどん食べてしまう私でも、これなら少なくとも映画の中盤まではもつだろうと思われた。
私の近くに、映画のチケットを発券する端末が設置されていた。ネットで席を予約した人が、ここで予約番号を入力して発券するためのものである。
そこに、親子連れが来た。お子さんは小さくて、4歳ぐらいだろうか。母らしき方がその端末を操作していると、隣のその小さな子が「映画、これで見るん?」と言った。大人が小さく笑って「これでは見ないよー」と言う。親子連れはすぐに操作を終えてスクリーンの方へと歩いていった。あの子はもしかして今から生まれて初めて映画を見るのかもしれない。端末の画面の何十倍も何百倍も大きなスクリーンだから、驚くかもしれない。
その可愛いやり取りが近くで展開されて、私の手元にはポップコーンとコーラがある。その時、「映画館のポップコーンを食べている今、目に見えるものはほぼ映画なのではないか」と思いついて愉快になった。もちろん、時間と労力をかけて作られた映画は現実とは全然違うのだが、さっきの場面は、なんだかやけに映画っぽかった。


