映画を見るように街を見る
赤瀬川原平という人の「宇宙の缶詰」という有名な芸術作品で、カニの缶詰の中身を食べた後、外側にあったラベルを缶の内側に貼り直して、その後で一度開けた缶を“はんだ付け”して閉じたら、缶詰の中身と外側が反転して、宇宙全体が缶詰の内側になる、というものがある。
そんな感じで、映画館のポップコーンを映画館の外に持ち出したら、外が映画館になるみたいな、そういう気分で過ごしてみることにした。映画館のベンチに座っていては申し訳ない気がして、立ち上がる。幸い、ポップコーンはビニール袋に入れてそのまま持っていける。
「あべのアポロシネマ」のあるビルにはゲームセンターもあって、ガチャガチャのマシーンもたくさん設置されていた。
そのガチャガチャの近くに、制服を着た高校生らしい集団がいて、「やっば。それ本当やったらめっちゃおもろい!」「いやいや、無理無理」と、そんなことを言って、楽しそうだ。ガチャガチャをするでもゲームをするでもなく、その場に立って喋っている。ああいう時間って楽しいよな。
同じビルに入っている100円ショップに「ちいかわ」グッズが集められた一角があり、私は最近ちいかわの映画を見ていきなり好きになってしまい(それこそ、バカでかいポップコーンを食べながら見た)、どれか買おうと思って眺める。
「あんまりシーサー(ちいかわに登場するキャラ)のグッズないな」「ないなー」「シーサーとくりまんじゅう(同じくちいかわに登場するキャラ)があの映画で癒しをくれてたのになー」「そうやな」と棚を見て去っていく人たちがいた。そんな小さな瞬間も、どこか映画のようだと思えなくもなかった。
私がよく映画を見にいくのは大阪・梅田で、そこに行けばいくつも映画館があって、ポップコーンを売っている映画館が少なくとも3つあるのを知っている。このまま映画館のポップコーンをハシゴしようと思って梅田方面へ向かうことにした。
電車で移動して、まずは「梅田スカイビル」を目指す。そのビルの中に「テアトル梅田」という映画館が入っている。ポップコーンもある。
さっきまでいた天王寺駅あたりも、今いる大阪駅あたりも、平日の昼下がりだがたくさんの人がいる。賑やかなのだが、しかし今日はなぜか喧騒が遠く、静かに感じられる。ポップコーンを食べていることによって自分の中の「映画を見るモード」が発動しているのだろうか。
スカイビルは近年、世界的にも有名な建造物となり、海外の観光客も多く訪れている。大きな交差点を渡ってそのビルの方に向かう途中、色々な国の言葉が聞こえてくる。その中に、金の貸し借りについて大声で話している日本語の響きも混ざったりして、面白い。
スカイビルに着いて、見上げる。見上げるたびに、「なんじゃこれ」と毎回思う。これは見に来たくなるだろう。丸く空いた穴の中にエスカレーターが突っ込んでいくようなデザイン。
このビルの3階と4階に入っているテアトル梅田に向かい、ポップコーンを買うことにした。
ここのポップコーンは独特で、ボックス型の容器に入っていて、価格は塩味の単品なら380円と、他に比べて安い。量はそこまで多くないので、かつてここで映画を見る際、2箱買って臨んだこともある。
スカイビルの周辺には座って休める場所が割と多いので、そっちでいただくことにしよう。大きな噴水があって、その近くのベンチに多くの人が座って、のんびり過ごしている。私もそこに座ることにした。
座って、ポップコーンの箱を持って、目の前の風景を映画のように見ている。私は映画を見ていて結構寝てしまうのだが(で、寝ないためにもポップコーンを食べ続ける必要がある)。寝てしまうと、ストーリーについていけなくなることもある。だが、そういう時は開きなおって映画の中に映っている景色とか、それが海外の映画だったら、自分が行ったことのない街の感じなどを楽しむだけでも十分じゃないかと思うことにしている。だから、今目の前にある景色が映画だったとしても、ストーリーは特にないけど、割と見ていられる。
というか、改めてポップコーンの箱をよく見たら、これは、組み立てると映画館の座席にセットできるように工夫されていたのだな。映画ばかり見て、箱を見てなかった。
塩気は控えめで、ちょっとストイックなポップコーン。これはこれでいい。無心で食べていたら、吹き出し続けていた噴水が急に止まって(流れ出す時間帯というのがあったのだろう)、その音が止んだことに驚いて、みんな一斉に噴水の方を振り返った。私もそうした。ノートパソコンに向かって何か作業をしている人だけが、そのまま画面を覗いていた。


