三土さんよりお知らせ
三土さんの本、街角図鑑。
この続編的な本が7月に出るそうです!持ってない人は今のうちに買っておこう。
月に1度の総集編ウィーク。先月5月に人気だったライター二人とへのインタビューと、人気記事のランキングをお送りします。
この記事では、三土たつおさんにインタビュー。
5月は「目に映るものの名前をできる限り知りたい」が大好評でした。
インタビュアーは編集部・石川です。
石川:
三土さんの記事が今月は断トツ人気でした。
そもそもどういったきっかけで書いた記事ですか?
三土:
うれしいですねー。
記事の最初にも書いたんですが、植物に詳しい人たちが路上に草の名前を書くのが少し流行って、それに影響されました。
自分で調べてやってみよう、と。もともと街中にあるものをぜんぶ知りたいという気持ちがあるんです。
石川:
最初は自分で調べる予定だったんですね。
三土:
そうですね。いくつかの景色について自分で調べて、おまけで一題、みんなに聞きまくるという予定でした。
石川:
当初おまけのつもりだったのがメインになったのはなぜでしょうか
三土:
そうですねー
ツイッターで聞いたんですが、デイリーポータルZ編集部にリツイートしていただいたあたりからものすごい回答が寄せられ始めまして。
ほんとうにすごい量だったので、むしろこれだけにして詳しく書いたほうが面白いなと方向転換しました。
石川:
あれだけ多いとそれだけでテンション上がりますよね。284個レスがついてます。ぜんぶ拾うだけでも大変だったんじゃないでしょうか?
「目に映るものの名前をできる限り知りたい」ということができないかと思っています(デイリーポータルZの企画です)。この写真の中で、名前が分かるものが一つでもあれば教えていただけないでしょうか。例:奥の街路樹がケヤキ、黄色い車が日産セレナなど(例は適当です)。「たぶん」で構いません。 pic.twitter.com/702faN4ckL
— 三土たつお (@mitsuchi) May 21, 2020
レスの数
三土:
大変でした。
まとめるだけで夜中の9時くらいから初めて3時くらいまでかかりました。
石川:
名前は何個くらい集まったかわかりますか?
三土:
だいたいですが、250くらいですかね。
いま当時の画像ファイルを開いているんですが、パソコンが固まらんとする勢いです。
石川:
あはは、レイヤーが多くて。
三土:
画像編集ソフトでこんな感じで文字を書いてたんですが、
いっぺんに表示しようとすると文字が小さくなりすぎるので、植物とかのカテゴリーとにレイヤーを分けて。
それぞれだけを表示する代わりに文字を大きくする、みたいな地味なことをひたすらやってました。
石川:
これ、掲載までの経緯的にとてもいろいろあった記事だなと思いまして。
編集の立場から拾っていきたいのですが……
まず、掲載5/22なんですよね。締切じゃなくて掲載日ですよ。
三土:
ぎくり
石川:
前日から始めてこの勢いという……、えっと、良く言えばスピード感!!
三土:
21日の午前中に聞いたんだっけかな
石川:
ですかね、「オッ、今からか」と思ってRTした覚えが
三土:
RTありがたかったのを覚えてます
石川:
もうちょっと火が着くまでに時間がかかるかなと思ったのですが、急速にレスが集まって良かったです
三土:
リツイートのおかげです。それまではポツポツでした。
石川:
でも三土さんの周りだから、こういうの答えられるタイプの人が多かったというのもあると思います。
三土:
たしかに路上のなにかについて詳しい方は多いですね。助けられました。
石川:
ご協力いただいた方、どうもありがとうございました。
そしていま確認したら、原稿の入稿が16:03でした。
16時掲載の記事の原稿が。おかしいな、タイムパラドックスじゃないですか。
三土:
ひーーーーーーー
石川:
スピード感のあるメディア運営
三土:
すみません・・・
石川:
いやでも記事は速いことよりクオリティなので(フォロー)
石川:
それはそうとして、もういっこ事件があって
三土:
ごくり
石川:
あらかじめバズり事件。
三土:
そうでしたね!
石川:
前日にTogetterにまとめられてしまって(※)先に広まってしまうという。
※注:あえてリンクは貼りませんが
三土:
すごい速さでした。
石川:
そうそう、あれはやべーなと思いました。
三土:
あれでいちど消費されてしまったから、記事の方には人が来ないかもなーと思いましたね。
石川:
最初の三土さんのツイートに、「記事にします」って書いてあるのに!
まとめた人が書いた説明のところに「続きは記事でのお楽しみということで」って書いてあって。
「ということで」じゃねえだろ!と思いましたが。
三土:
でも本を紹介していただいていたりして配慮は感じました。
石川:
あはは、せめてもの!
まあでも結果オーライ的な感じでいうと、あれが良い予告になったのかもというところもあり。
三土:
むしろそうかもしれませんね
石川:
とはいえ今後も「積極的に記事にする前のツイートをまとめてください」とは全然思わないんですけど!
三土:
今後同じようなことをやる場合にはそういうことがありうると思っておかないとですね。
石川:
そうですね。
でもまあどう転ぶかはわかんないので、気を付けたせいでできることが減るよりは、気にせず奔放にやっていった方がいいかもしれません。
すみませんなんかトゲトゲしたモードに。
三土:
いえいえ
石川:
おもしろがりセミナーの時に(※)、三土さんが、おもしろがるとっかかりはまず集めて名前を調べることだという話をされていました。 今回、自分で調べるのではなくて人にきくという形をとって、何か違いを感じましたか?
※注:デイリーポータルZ新人賞に合わせて放送した、ライターが記事の書き方を語る生放送。くわしくはこちら↓
人気ライター4人が語る「おもしろがり」の極意(夢中になれる記事ネタの見つけ方)
三土:
そうですね、じつはあの資料にも「知ってる人に聞く」というのを書いてありまして、今回はそれに特化した感じになりましたね。
三土:
人に聞くことの面白さは、やっぱり目玉を借りることができるということですね
石川:
「目玉を借りる」というと?
三土:
何人かでいっしょに歩くと、他の人は自分とは全然違うところを見ているものです。
その人の目玉じゃないと発見できないことを教えてもらえると、目玉を借りたような感覚になるということです。
これは以前からわかっていたことではあるんですが、今回は200人でいっぺんに同じ景色を見たことによって、むしろ世の中には自分の知らないことしかないなという感覚にもなりました
石川:
これまでになく大規模に目玉を借りたという感じ?
三土:
まさにです。
石川:
僕から見ると三土さんはもう街角王というか街角大王というか、すごい情報量を処理しつつ街の景色を眺めているように見えるのですが、それでもあれだけの人が集まると「世の中には自分の知らないことしかないな」という境地まで至れるんですね。
三土:
じつをいうとぼくも若干思い上がっていたところがありまして、けっこう街のこと知ってるかもと思っていましたが。
あの出来上がった画像をみると、知っているのはあのごく一部でしたね。
石川:
初心に返るきっかけにもなったと。
いい話ですね…!
三土:
まじでそうです。
あと、そういう「自分の知らないことしかない」という感覚って大きい本屋さんに行くと感じるのですが、一枚の風景写真でもやっぱりそうなんですねというのがおもしろい。
石川:
たしかに。本屋っていうめちゃくちゃ情報量の多いところだけじゃなくて、数メガの写真でもそうなんだというのは面白いですよね。
三土:
今回改めて思ったんですが、やっぱり知らないことを少しでも知っている状態になる、というのがぼくは好きだし、そこをまずはやっていきたいなと思いました。
石川:
なるほど
三土:
ぼくの周りにはひとつのことを深く追求して知っている人が多いんです。例えばマンホールの蓋にすごく詳しいとか。
でぼくはどのジャンルもたいして詳しくない。だから一つのことを詳しい人は尊敬するし、そうでないことに負い目もあったりするんですが……。
いっぽうで、景色のうちで知っていることを少しでも増やす面白さっていうのもあって、ぼくが好きなのはそっちなんだろうということを思いました。
石川:
あー。
そうやって一つを深く知ってる人と、三土さんみたいな幅広く浅く、といっても僕から見ると十分深いですが、とにかく手広くやる人がいて。
それをライターの資質として見たときに、後者の広い視点があって、くわえて前者の知人がたくさんいて必要な時に協力を求められる、という三土さんのあり方はけっこう理想的ではないかなと思いました。
三土:
なるほどたしかに。ありがたいことです。
石川:
あと、「知っている」っていう状態の嬉しさと、「知る」っていう行為の楽しさって両方あって、後者の喜びがすごい大きいなっていうのは、とてもわかります。
自分が変わっていくおもしろさというか。
三土:
まさに!!!ギター練習してる最中(※)の感じ。
※注:超どうでもいい話かと思いますが、石川が1月からギターを始めて、そのことです。
石川:
まさにそれを思い浮かべてました。
僕は電子工作でも、最近やってるギターの練習もそうなんですが、「できる」ことより「できるようになる」のが楽しくて。
知ることについても同じなんだろうなと思って。
三土:
知るは楽しみなりと申しまして。
石川:
いい言葉ですね。
でもそれがあだになることもあって、ある程度できるようになってくると、どんどん上達する期間が終わって、成長曲線がなだらかになってきて飽きちゃったりするのですが……。
三土:
同じですね。
だからそこをどんどん突き詰められて、一つのことに詳しくなっていく人は、どう感じているのかなーと不思議に思います。
たとえば街の鉄パイプとかを調べると、素材の話になって、そこに含まれる炭素の量が違うんだ、くらいまでは自然と面白いんです。
でも材料としての鉄の話ってむちゃくちゃ奥が深くて調べれば調べるほどどんどん難しく化学っぽくなっていって。
あー、はい、みたいにどこかでシャットダウンせざるをえない。
石川:
「あー、はい」の気持ち、すごいわかります(笑)
三土:
しかしひとつに詳しい人はそこでシャットダウンしないで無限に行く。
ぼくはある程度なだらかになると、いったん登るのをやめちゃいますね。
石川:
ですよね。だから不思議なのは、一つのことを深くやってる人は、僕らみたいな広く浅くの人とは楽しみ方が違うのか、あるいは感覚は同じだけど見えてる世界が違うのか、みたいな。
三土:
やっぱり好きなんでしょうね。
石川:
愛ですかね?
三土:
愛でしょう。
石川:
こないだのおもしろがりセミナーで、三土さんがあれだけ詳しい三角コーンについて、「愛してはない」と言ってたのが印象的でした。
あれはどういうニュアンスでしたっけ、愛してないというのは。
三土:
そうそう。愛ではなくて、知りたいんです。
ぼくは偶然、街というすごく特殊な空間に暮らしていて、そこには特殊なものがたくさんある。
それらは、かならずそこにそのものが置かれている役割というか、意味がある。
それってすごく変なわけです。なので知りたいんです。
石川:
それは愛じゃないんだ。
じゃあ逆に、愛してる人ってどういう感じだと思いますか?
周りの、愛してるタイプの人を見ていて。
三土:
擬人化していると感じますね
石川:
対象に人格を見出している?
三土:
そうですねー。自分と同じ仲間だと思うと愛しくなる。
送水口っていうものがビルの前に立っているんですが、送水口好きな人たちは送水口のおかれている状況をなにかに見立てて愛でたりするんです。
たとえば送水口になにか看板がかけられていたりするのを、「副業」と呼んでます。
石川:
あー、副業、なるほど。
三土:
送水口の仕事というのは、火事のときに水をビルの中に送り込むことですが、ふだんはヒマなわけです。
それで副業で看板持ちをやっている、と見立てる。
モノだと思ってないんですね。
石川:
立場が対等なんですかね。送水口さん、みたいな。
いやもっと、なんとか型送水口の型番○○さん、みたいな顔が見えてる感じかな。
三土:
そうですまさに。対等なんだと思います。
石川:
それは学問としてやっている研究者の人達ともまた違った捉え方のように思います。
三土:
愛です。
あと、古いビルが取り壊されると送水口も一緒に壊されるんですが、それがかわいそうだといって遠方までいって救出活動をしたりする。
石川:
救出活動って?
三土:
ビルの所有者に交渉して、取り壊し前に送水口だけを取り外して、持ち帰らせてもらうんです。
それで新橋にある送水口博物館というところに飾ったりする。
話を聞いててまじで涙がでました。
石川:
ああーなるほど、寄贈ですね。
三土:
その活動をしてるのが送水口博物館を運営している人たちなんです。
石川:
本人だ。博物館まで作っちゃったのか。
三土:
やはり愛です。
石川:
それは愛ですね。
三土:
当事者性が高いんです。ぼくは一歩ひいて観察しちゃってる感がある。
……と勝手に想像してるだけなんですが。
石川:
そう考えると、えっと、記事の話に戻りますけども。
あの記事は、いろんな人の、対象に対する愛が集結した、まさに愛の結晶のような記事だったといってもいいのではないでしょうか。
三土:
おおお、石川さんが急にそれを言い出したらびっくりですが、流れを踏まえるとそうですね。愛の結晶です。
石川:
あれだけの愛を集めてきた三土さんはさながらキューピッドですね。
三土:
おじさんキューピッド。
石川:
ひきつづきデイリーポータルZの誇るキューピッドとして、活躍していただけるとありがたいです
三土:
ありがとうございます。キューピッドはさいご濁音の「ド」なことをいま知りました。
知るは楽しみなりと申しまして。
石川:
新たな知だ。
三土さんの本、街角図鑑。
この続編的な本が7月に出るそうです!持ってない人は今のうちに買っておこう。
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